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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第3部 彼女がチート篇
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第3章:医と看と金とーエピソード・瑚華ー001

 かなり焦っているのだろう。


 瑚華(こなは)の前へ、ずらり顔を並べた男たちは変身系の能力者だ。東とされる区域から来た屈強な鬼になるチカラを持つ者たちである。

 マテオと流花(るか)を取り逃して以来、消息が掴めないらしい。

 もう三日も経てば、なりふり構っていられなくなったようだ。

 情報を求めてというより、(かくま)いの疑いで乗り込んできていた。


 もっとも妖艶とする表現がぴったりな瑚華が相手である。

 狼藉者が目の前へ立ち並んでも、顔色ひとつ変えず椅子に収まったまま口を開く。


「あんたたち、ずいぶん威勢いいじゃない。私の診察を待つ多くの患者にとって邪魔以外の何物でもないわよ」

「うるせー、この前はそこの女と紛らわしい真似しやがって」


 祁邑(きむら)の姓を持つ理作(りさく)という者が、瑚華の傍に立つツインテールの聡美(さとみ)を指差しながら腹立ち紛れに叫んでくる。 


「それ、あんたたちが勝手に勘違いしただけじゃない。私もいろいろ能力者を診てきたけれど、ここまで単純な連中はあまりいなかったわね」


 臆する様子は微塵もない女医に、横に立つ女性看護師は薄ら笑いを浮かべている。


 てめぇら、と切れかけて前へ出る理作の肩が抑えられた。

 押し留めたのは、同じ姓を持つべったり貼り付くような髪型が特徴の若狭(わかさ)だ。風貌通りの粘い目つきで、瑚華を睨む。


「単純とするならば、それは俺のせいだ。そこの女を次女の変装かもしれないと意見したからな」

「そうなの。そうね、単純は言い過ぎたわ。考え過ぎは良くないと言い換えたほうが妥当だったわ」

「頭の勝負となったら、そちらが優勢と認めよう。勝負が、頭ならばな」


 そう言った若狭は口許を酷薄で象っていく。

 含む意味を理解した瑚華は、微かに眉間を寄せ、低く発する。


「あんたたち、力づくでこようなら只ではすまないわよ。ここは病院で、しかも『逢魔街(おうまがい)』なのよね」

「そこは承知している。ここへ先行した連中が跡も残さず消息不明ときているからな。病院それ自体を巻き込むような騒動は危険と理解はしている。だけど個々に絞れば殺れないこともない」


 瑚華は今度こそはっきり険しい表情をした。


「うちの病院でそんなことをしたら、無事じゃすまないわよ」

「だが、大事な人たちを失う結果にはなる」


 瑚華は若狭の狡猾さに返す言葉を失う。


 鬼へ変身する能力を持つ『東』が、ここぞとばかり押し寄せて来ている。街の空気を変えるくらいだった。

 血筋の数が勢力に直結する一族であれば、最も濃い血を量産できる娘は手放してならない。長の命は絶対であれば、暗殺にも手を染めるだろう。

 況してや、相手は未だ意識が戻らない重症患者だ。例え病院から出られなくなろうとも、狙う相手の横たわるベッドを突き止め息の根を止めるくらいはこなせるだろう。

 標的には、瑚華としては失いたくない人物も含まれている。

 以前なら跳ね除けられた脅しにも、現在は出来なくなっていた。


◇    ◇    ◇    ◇    ◇ 


 ぎりぎりぎり……、廊下に鳴り響くほどの歯軋りだ。

 するのは淡いピンクのナース服にツインテールと格好は可愛らしい。

 顔の作り立ちも愛らしいに違いない。

 けれど容貌の出来がいくら良くても、歯噛みだけでなく眉間に皺を寄せた悪い目つきでは台無しである。

 加えて声に出している内容ときたらである。


「死ね、死んでしまえ。このくされ坊主っ。あんたのせいで瑚華先生が……」

「聡美ちゃん、道輝のせいじゃないわ」


 ガラス越しに悪態を吐く女性看護師に、妖艶ながら少し影が射す女医が近づいていく。


「ウソです、そんなの。いつもの瑚華先生なら、やれるもんならやってみせろくらいの気風を吹かせたはずです」

「そっちのほうが私らしくなかったのかもね」


 答えながら瑚華はガラス窓へ、そっと手を当てる。

 覗く室内には、人工呼吸器を口に当てた中年男性がベッドの上だ。まるで死んだかのように、ぴくりともしない。

 絶望的な様子にも関わらず、ふふっと瑚華は楽しげに笑う。


「まったく道輝(どうき)って、ただのしょぼくれたおじさんよね。能力を発現させなければ、しょぼい坊さんだわ」

「ですよねー。ホント、才色兼備の瑚華先生なんかと、ぜんぜーん釣り合っていないですよー。つーか、まとい付いてくんじゃねーよ、死ね、クソ坊主」


 聡美の口汚さを知らなければ、ここは病院で、発言者は看護師である。とても許容できるものではない。実際に、出来ていない者も多くいそうだ。

 よく知る瑚華は笑みを浮かべ続ける。

 ただ翳りがより濃くなったようだ。

 目ざとい聡美が瑚華の微妙な変化を見逃すはずがない。

 でも口にすることはしない、というより出来なかった。

 聡美もまた瑚華をよく知れば、何に想いを馳せているか想像がつく。

 集中治療室に入っている道輝を見る女医の目に、言葉は引っ込む。

 心底から道輝という坊主を踏んづけてやりたくなってくる。

 あの日の瑚華のように……。


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