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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第3部 彼女がチート篇
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第2章:苦心の逃避行ー009ー

 しまった、と思うと同時だ。

 マテオは落下していくなかで、自分の身体を下にする。

 幸いにも店舗入り口を覆う軒先テントがクッションとして役目を果たしてくれた。

 地面へ叩きつけられるにしても、家屋の屋根から直接では無事にすまない。

 うまくいった。けれども流花(るか)をかばってであれば、マテオもそう簡単には起き上がれない。


「大丈夫、ねぇー、マテオー」

「わりぃ、しくじった」


 跪いては顔を覗き込んでくる流花へ、マテオは自嘲の笑みを湛えた。

 おい、あそこだ、とする声が聞こえる。

 どうやらマテオが転げ落ちていく物音は周囲一帯へ届くほどだったらしい。

 能力発現で思った以上にダメージを負った脚に、背中をしたたかに打ったマテオだ。すぐに立ち上がれそうもない。


「僕は無理だ。早く行け、流花」

「ヤダ!」


 おまえなぁ〜、と呆れるマテオの耳に入る近づく足音だ。早く、と再び急かすも肝心の流花は首を横に振るばかりである。

 言い出したら聞かない相手と認識する現在であれば、マテオは力を振り絞る。流花の肩を乱暴に掴んでは上体を起こした。

 まだ片膝を着く体勢が精一杯だ。

 けれど腰元に差さる短剣を抜く。

 流花を背にしてマテオは足音がする方向へ顔を向けた。


 暗い路上にて、常夜灯が追手の姿を照らしだす。

 のっそりとした男たちだ。

 鬼へ変身していない。

 チャンスとマテオが考える間もなくである。

 能力が発現された。

 男たちが一斉にツノを生やした筋骨逞しい赤黒い姿へなる。

 ちっと舌打ちしてしまうマテオだった。

 変身前ならともかく、姿を現すと共に発現されては戦況としてだいぶ不利だ。

 だが、やるしかない。  


「流花、下がってろ」


 まだ立ち上がれないながらもマテオは闘志を燃やす。

 夜闇に煌めくような白銀の髪をなびかせ前へ向く背中に両手が当てられた。  

 ほっそり白い指がシャツを、ぎゅっと掴んだ。


「おい、流花。なに、やってんだ。動けない……」


 マテオの文句は尻すぼみなってしまう。手の震えがはっきり伝わってきたからだ。


「もういい、もういいよ。このままじゃ、マテオが……」


 ふっと笑みが洩れるマテオにすれば、なおさらだ。命を賭けて立ち向かう決心を固めていく。

 だが流花のセリフを遮るまま事態を先へ展開させたのはマテオではない。


 対峙する鬼どもが吹っ飛ばされていく。

 脇道から出て来た長槍を振り回す派手な着物姿が、誰と問うまでもない。

 後ろに付いて登場した集団もまた琉路(りゅうじ)に似た格好をしている。

 ここ一帯に起きる荒事を引き受ける『カブキ団』と名乗る者たちだ。


「大丈夫か、マテオ」

「マジで助かった、頭領、ありがとう」


 とても素直なマテオの返事だ。

 訊いた琉路が驚きを閃かせるが、たちまちにして微笑へ変えていく。


「ここは俺たちに任せて、行け」

「頭領さんたちが流花なんかのために危ない目へ遭う必要なんてないです」


 マテオより先に叫ぶ流花だった。

 あっはっはっ! となぜか琉路は高笑いを挙げた。それから引き連れた連中へ顔を向ける。おい、おまえら! と始めた。


「金に釣られて居場所を売ったヤツがいるのは分かっている。だけど責めるつもりはねぇ。所詮は出来損ないが集まった俺たちだからな。碌でもねーことをしちまったからって、いちいち咎めねー。だけどな……」


 ここでカブキ団の頭領は腹の底からの声を発した。


「俺たちがやらなきゃいけねー場面で、泥を塗る真似は許さねぇ。金を受け取っていようが、今は俺と共にある。ここで敵に媚び売るヤツは、この場で、この俺が叩き斬る」


 いいな! と琉路の確認が強く響く。

 受けた側は即応だった。おぅー、と多人数ながら返す声は揃っている。

 一致団結で敵へ向かっていく。


 集合によって増員を叶えた鬼どもであったが、思わぬ苦戦となった。

 裏切り者を抱えた集団だと甘く見ていた点もある。能力を所有しない一般人だと声高に訴える者もいる。

 何より士気が圧倒されるほど高い。


 マテオと流花に、カブキ団の評判が高い理由をまざまざと見せつけていた。


「これで逃げる気になったか、お嬢さん」


 琉路が笑うように言ってくれば、今度はマテオが先んじた。


「さっきは頭領を疑ってすみませんでした」

「なに、鬼どもに売ってたのは間違いないからな。あの奮戦ぶりを見れば、だいたい予想がつく。てめぇーの後始末しているようなものだから、気にせず、さっさと行け」


 カブキ団に押されながらも鬼の五人が突破してきた。

 マテオと流花へ目がけて来る。

 手にした長槍を掲げた琉路が、その間に割って入った。


「やいやい、鬼ども。これ以上は先に行きたくば、俺を倒していきな。だがこの鷹野琉路、刃を交えた戦いで敗北は一度きり、アイラさんのみだ。かかってくるなら、それを承知でこい」


 頭領の口上が為されている間に、「行こう」とマテオはふらつく足取りで流花を腕を引っ張った。

 盾になってくれる琉路は真実に有り難いと思うもののである。

 姉の名前を出したところで、敵の鬼どもが怯むとは考えられない。

 やっぱりというか、激戦を告げる物音がすぐに立った。


 急ぐマテオだが身体は言うことを聞かない。

 しばらくもせずに、流花の肩を借りなければ歩けなくなる。

 先に行け、とマテオは何度も訴えた。

 が、その度に流花は返事をせず首を横に振るだけだ。肩に置かれたマテオの腕を離そうとしない。

 言い争っている暇などなければ、ともかく懸命に先へ行くだけだ。


 無我夢中が功を奏したか。

 そう思わされた時点で、相手の陥穽へ落とされていたマテオと流花だった。

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