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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第3部 彼女がチート篇
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第1章:ある被検体の記憶【エピソード楓】ー003ー

 入室してきた研究員へ向く瞳はうつろだ。

 (かえで)の心は諦めというより壊れかけている。


 もう昼か夜なのか、解らない。

 時間を問わず実験に駆り出されて、感覚が狂ってしまっていた。

 いっそのこと、まともな意識など無くなってしまえばいい。

 思考も認識もしない、単なる屍人で構わない。

 手や足だけでなく身体中に感覚がない。

 頭以外ならば、何処を傷つけもいでも再生可能とくる。


 楓の身体を調査する者たちは一様に驚嘆の声を上げていた。

 死んでいるにも関わらず、死んでいない肉体。衰え知らずで、復元も行われる。


 まさしく不老不死! 昔宮亮平(せきみやりょうへい)は研究を完成させていたのだ。


 調査結果が明らかになるにつれ、研究施設の空気は興奮で包まれていく。

 楓の気持ちは忖度されずだ。

 両親は死んでしまった。

 娘の手によって、八つ裂きにされてだ。

 正確には死んでいたも同然だったから、殺したわけではない。

 だからといって罪の意識が消えるはずもなく、なぐさめまでには至らない。

 お父さん、お母さん……、と呟けば事故が起こる直前まで罵っていた自分に後悔が押し寄せてくる。胸をかき毟りたくなるほどに。

 なのに、涙が流れるどころか溢れてもこない。

 感情を反映する身体機能は失われてしまったようだ。


 世界には『能力』と呼ばれる超常機能を所持した人物はたくさんいる。能力のない一般人からすれば注意すべき者たちとされている。区別という建前で差別を公然と行う事例も多くある。


 楓だって、以前なら『能力者』など関わりたくもなかった。


 能力者は危険どころか、むしろ大人しくしている者が大多数だそうだ。むしろ社会的に平穏の立場を守りたいなら能力を秘匿しておくに限る。

 能力者と知られないほうが生活していくうえで都合がいい。

 第一『能力』といっても、内容や力量は様々だ。

 世界を破滅に導く強大な力が存在する一方で、握ったナイフの切れ味がやや良くなる程度のものもある。

 ただ厄介なのは能力の度合いが測り切れない点にある。

 各自に強力の上下も激しければ、種類も多岐に渡る。

 手にした物をより強固とする強化系を中心に、何もないところから物体を出現させられる具現系や別の生物へとなる変身系に、他人を操る催眠など、どこまでどういった『チカラ』があるのか。能力を所持しても口に出さない者も多ければ把握は困難を極めていた。


 得体が知れなければ、心など許せない。


 楓はあからさまでないものの距離を置くが能力者に対する姿勢だった。

 けれども今となっては、である。

 能力者くらいならいい。

 変わった力が否応無しとはいえ備わっただけではないか。

 まだ人間である。


 較べて楓の分類は、アンデッドかゾンビとするか。

 どんな呼称を与えられようが、所詮は『バケモノ』でしかない。

 もう人間じゃなければ、実験も過酷さを増した。

 いくら痛みなく復元するとはいえ、自分の身体が切断されるさまを目の当たりにすれば気持ちは荒む。

 当初は遠慮がちに始まった指から徐々に箇所を中央へ寄せられていく。

 切り刻まれるたびに、自分が人間から遠のいていくようだ。

 首元へ至った際には、これで自分も終わって欲しいと願った。


 残念ながら斬首刑とならず、実験は次の段階へ入っていく。

 数知れぬ薬品が射たれ、最近では電流を流された。

 ここにきて初めて楓に反応が現れた。

 頭の中へ届く電流に、悲鳴を上げ、涎を垂らして意識を失う。

 どうやら脳だけは直接の刺激を感知するらしい。

 研究施設に連れて来られた楓が、ようやく介抱を受ける身となった。

 貴重な実験材料が失われては困るとする、無情な判断からだ。

 大事だからではない。


 その証拠に不調が治まった楓に告知された。

 次は男女の交配において、どのような反応があるか確認する、と。

 交際もしたことがない十五歳の少女が性交を強要されるわけである。

 たぶん感覚はないだろうが、認識はするだろう。

 実験の様子を想像しただけで泣きたくなる。


 けれども今の楓に涙は出てこない。


 綺麗だが殺風景な部屋に閉じ込められていれば、じっと待つほかない。


 ドアが開けられれば、来たんだなと思う。

 告知から今までの間で、楓の心をひび割らせるほど乾かせていた。

 もう好きなだけ陵辱すればいい。


 入ってきた太めの体格を白衣で覆う研究員はドアを閉めない。

 掛けたメガネのブリッジを押し上げては、ぼそり告げてくる。


「逃げてください」


 うつろだった楓の瞳に、微かながらも感情の光りが宿った。

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