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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第2部 一緒に過ごす彼女はインクレディブル篇
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第10章:飛ぶー006ー最終節

 地上は穏やかだったが、上空は吹き荒れていた。


 ヘリポートとなっている高層ビルの屋上に立てば、流花(るか)の髪は強風に持っていかれる。

 例え風などなくても髪は振り乱していただろう。


「離して、離してよっ」


 両脇を抱えられ必死に抗う姿は美しい。

 押さえる粗暴そうな男たちが、ごくり生唾を呑み込んでいる。

 黙ってろ、と恫喝を張り上げ前へ立った男の目つきは生々しく光っていた。

 感情が色となって自分の瞳に写る流花にとって、いずれの男たちもピンク系統を閃かせている。情欲へ繋がる見慣れた彩りであった。


 もうダメかもしれない。

 流花は身体は抵抗するものの、諦めの心境へ傾きつつあった。

 鬼へ変身する能力者を要する『東』が移送手段としてヘリを用意したところに本気度を感じる。飛行できる能力者など、思いつく限り『風』を操る夕夜だけだ。その夕夜でさえ、どれほど飛んでいられるか。地域を跨ぐほどの長距離は難しいだろう。


「それにしてもこんな時に風が強いだなんて、ツイてないな」


 目前に立つ、べったり髪が貼り付いたような男が嘆く。

 隣りにいる小太りな男が嘲笑うように言う。


「どうせ長女が大暴れしたせいで、当分こっちへなんか手が回せねーだろう。少し後にズレるだけさ、ヤレる時間がよー」


 男たちが一斉に目を向ける。

 集まる視線が、流花を心胆寒からしめた。

 連れ帰された時点で『花嫁の儀式』と呼称される行動へ移される。男たちの嬲りものにされる。

 怯えが隠せなくなった流花に、小太りの男が弑逆性も露わな顔つきを向けてきた。


「そんなに次女、怯えなくていいぜ。最初は痛いかもしれないが、そのうち気持ち良くなるくらい、たっぷり可愛がってやるよ」

「女性に向かって吐くセリフがそれでは情けない限りだって、兄上なら言うな」


 いきなり降って湧いた声に、『東』の男たちが驚く間もなくだ。


 押さえていたはずの次女が消えている。

 慌てて探せば、ヘリポートである屋上の片隅で見つけた。


 白銀の髪をした少年が美少女を抱えている。

 夜も間近な薄暮の空が、マテオと流花を引き立てていく。

 まさしく一幅の絵となる光景であった。


 粗野な連中である『東』の男たちでさえ声なく見惚れてしまうほどである。

 神聖な空気を無粋に破るは、小太りの男だ。


「てめぇー、ナニもんだ」


 おやおやといったマテオである。

 流花を付け狙っていたわりに、自分の能力を見て正体が導き出せないなど下調べが出来ていないのか。それともまだ『瞬速(しゅんそく)』と見抜けない節穴か。

 どちらにしてもである。


「流花は渡せないな。オマエたちの都合で、勝手に姉妹を引き離させはしないぞ」


 マテオ、と呼ぶ流花の瞳にうなずいて見せた。


陽乃(ひの)さんは元に戻った。悠羽(うれう)の身も確保できている。だから心配すべきは……」


  白銀の髪の下、苦笑とも微笑とも 取れる表情が閃く。


「流花だな。なかなかな大ピンチときている」


 男どもは次々と能力を発現させている。鬼へ変身している。

 マテオと流花へ、じりっと迫ってくる。


「大丈夫だよ、流花は。だってマテオがいるじゃん」


 心の底からと解るから、マテオはちょっぴり申し訳なさそうに打ち明けた。


「流花、悪いな。どうやら僕の身体は意志に反して悲鳴を挙げている。これからやろうとしていることは、絶対じゃなくて、一か八かなんだ」

「わかってるって。それでもあいつらに連れていかれるより、マテオの命懸けに付き合うほうが、流花としては満足かな」


 鬼たちの足が止まる。

 思わず恍惚としてしまったせいだ。


 にっこり、流花がマテオへ向けた笑顔はまさに女神だった。

 見惚れずにはいられない美しさであった。


 ところで向けられた当人のマテオと言えばである。

 美より胆力に感心していた。

 こんな場でも考えてしまう。

 お見通しときたおかげで、説明もいらない、覚悟を問う必要もない。

 マテオにとって流花は面倒なキャラをしているが、一緒にいるには楽な能力の持ち主なのかもしれない。

 これを口にしたら、流花本人は驚くだろうか。

 相手の内面を否応なく読めてしまう能力のせいで嫌悪されてしまう。そう考えて他人との接触を避けてきていた。

 けれどもマテオのような者もいる。

 見透かされるほうが楽だと思う者も少なくてもいるにはいるのだ。


 流花は、これからもっと出会いを重ねたほうがいい。


 我れに還った鬼たちが再びにじり寄ってきだした。

 じわじわと多勢を持って、距離を狭めてくる。


 ふぅ、とマテオは息を吐く。

 地上からの高さは百メートル近く。飛び移りたい先のビルまで直線にして十メートルくらいだ。高低差は距離の倍近くある。能力を発現しなければ、届かない。

 能力の切れたら、地面へ叩きつけられてしまうだろう。

 到底、無事には済まされない。


 (かえで)たちを乗せた救護車から高層ビル屋上まで、瞬速をもって一気にやってきた。

 痛んだ身体は、特に両脚がガタガタなのは本人こそ承知している。

 無理を承知で力を振り絞らなければならない時だった。


「もし失敗したら勘弁な。僕と心中だ」


 するとマテオは胸に縋りつく流花の腕の強さを感じた。


「いいよ、マテオとなら。覚悟はできている」


 上等! とマテオが返答したタイミングである。

 鬼どもが一斉に飛びかかってきた。

 マテオは例え両脚が砕けようとも、力の限りだ。

 屋上の隅を蹴り、能力を発現する。


 流花を抱え、飛んだ。

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