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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第2部 一緒に過ごす彼女はインクレディブル篇
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第9章:逢魔街の大厄災日ー009ー

 瑚華(こなは)へ手向けの言葉を投げて、道輝(どうき)は力尽きた。

 地面に付いていた腕が折れれば、絶妙なバランスで静止状態にあった瓦礫の山である。コンクリや鉄といった塊は墨色の裳付姿をした僧侶だけでなく、周辺も押し潰す勢いで覆い尽くすだろう。


 マテオは決断するしかなかった。

 例え瑚華に恨まれても、道輝が最後に向けた頼みを聞かないわけにはいかない。

 一瞬にして、この場を離れる能力を発現しかけた。


 きらり、微かな反射が止まらせる。

 なんだろうと疑問を寄せる間もなくだ。

 道輝に伸し掛かる瓦礫が氷山のうちに閉じ込められる形となった。


「来てるなら声をかけてくださいよ」


 いつの間にか、傍で微笑んでいた。

 切れ長の目が特徴的な青年が右腕を突き出している。手のひらから放射される煌めきは冷気だろう。

 万物根源素に当たる『氷』を能力とする冷鵞(れいが)であった。


「おいおい、道輝のおっさん。大丈夫か。身体半分、埋まってるじゃねーか」


 逆立つ赤髪が『火』の緋人(ひいと)だと知らせてくる。

 灼き切れるか、と冷鵞が訊ねれば、「少し時間かかるけどな」と緋人が答えている。


「もぉー、まどろっこしいー」


 焦れた髪の長い美人が登場だ。

 よせ、と言う冷鵞に合わせ、「バカ、やめろ」と緋人が叫ぶ。


 上空から目も眩む稲光りが落ちた。


 あまりな急展開にマテオは追いつけない。取り敢えず閃光から目を背ける。瑚華を押さえ付けておく意識は消えた。


 どっかーん、と文字にしたくなる爆発音が立っていた。


 再び目を向けたマテオは、何とも表現し難い表情をするしかなかった。

 確かに凍結していた瓦礫の山が粉砕されている。舞う粉塵は、きらきら氷粒も混じっているおかげか、風景を美しく彩っている。辺り一帯を、綺麗な平地へ返していた。

 とても道輝が無事とは思えない。


 マテオの見立てが誤っていたことは、いち早く発見した人物の行動で判明した。

 駆け出した瑚華が、まだ煙るなかでも一直線だ。

 倒れている道輝を抱えては、「バカ……」と涙を溢れさせている。

 向かうマテオに、能力である『雷』を放った女性も肩を並べた。


「ほらー、大丈夫だったじゃない。冷鵞も緋人も心配しすぎなのよね」


 胸を張っている莉音(りおん)に、マテオはおずおずだ。


「雷のお姉さん。ちょっと言いにくいんですけど、道輝さん、けっこう焦げてません?」

「だろだろー、だからやめておけって言ってんのによー」


 活きのいい兄ちゃん風情が板に付いている緋人が乗っかってくる。

 莉音が頬を膨らませて、瑚華が顔を押し付けている道輝へ立てた人差し指を向けた。


「よく見なさいよ、どこが焦げ……」


 言葉が途絶えた理由は、よく見た当人が正確に状況を把握したからだ。

 黒焦げと表現してもいい、道輝のさまであった。

 生きているだけで良い、としている瑚華を除けば微妙な顔つきになるマテオ他三人である。


 何とも言えない雰囲気に莉音が耐え切れなかったようだ。


「い、生きてるんだから、いいじゃない」

「でもどう考えても傷口を広げたとしか解釈しようがない」

「ホント昔から莉音って、雑だよなー」


 冷静な口調の冷鵞とざっくばらんな物言いの緋人といった両人の口撃に、「なによー」と唇を尖らせる莉音である。


 わいわいがちゃがちゃの三人を放ってマテオは歩を進めた。

 間近に迫る気配に瑚華が顔を上げてくる。

 泣き濡れた目と合えば、マテオは神妙な面持ちで口を開く。


「センセイって、スゴくかわいい人だったんですね。道輝さんに意識があったら感激して、もっと好きになってしまうと思います」

 

 あ然となった瑚華だが、ぷっとすぐに噴き出す。道輝の首を抱えるまま、あはははと声にして笑ってからだ。


「マテオは女たらしの素養が充分ね。ううん、男だっていけそうなくらいかしら。あ、でももうなってるか。天下の美少女を落としていたんだわ」

「もしセンセイが想像している相手が、流花だとしたら違います。僕にとってあれはそんなんじゃありません」


 自分でも驚くほど強く抗議したマテオだ。


「そういう天然さが武器よね〜」


 思わずといった調子で笑う瑚華が、「さてと」と表情を改める。

 どうしたんですか? とマテオが問いかけるまでもない。


「せっかく助かったんだから、このまま無事で終わりたいわね」


 それはもう、とマテオが答える前だ。

 地上のものを吹き飛ばしそうな咆哮が轟く。

 白銀の髪を揺らして振り向くマテオの視線上に、こちらを向く巨獣と化した鬼の顔が迫っていた。

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