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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第1部 出会った彼女はミステリー篇
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第2章:出会いの記憶ー006ー

 こてんぱんだったせいか。

 マテオは負けて悔しいがなかった。

 助かった、と心から喜んでいた。

 しかも窮地を脱したと捉えてよさそうな登場人物だ。

 大丈夫、と覗き込む女性は歳は同じ頃合いか。まだ少女とする面影であるものの、目を奪われる容貌だ。どんな天の配剤が働いたかと思わせるほど、ともかく美しい。

 そんな男女問わず骨抜きにする美貌を目にしたマテオの感想といえばである。


 不幸だな、と。


 だいぶ男らしい顔つきになったマテオだが、幼き時分は可愛らしい女の子そのものだった。アイラと共に美少女の双子姉妹と見做されたこともあった。いかがわしい商品として両親に売り飛ばされようとしていたことも後に知った。

 秀ですぎた容姿が、況してや年端もいかなければ悪徳の標的になりやすいだろう。ならざるを得ない美少女だ。傷だらけで動けない我が身を忘れて心配してしまうくらい綺麗な娘であった。


 マテオは何とかお礼は口に出来た。それから、はぁ〜と大きく息を吐いて路上へ大の字になる。


「そんなの放っておいて行こう」


 まだマテオが顔を認識していない女子の声が聞こえる。

 無情な言い草だが、もっともだとマテオは了解していた。

 これだけの美少女が『逢魔街』で過ごせている要因の一つに、冷酷でも的確な判断できる友人を得ているおかげがあるだろう。

  

 ところがである。

 美少女が言われたことと逆の行動を取ってきた。

 しゃがみこんできては、じっと向けてくる視線を外さない。

 大抵の人間なら全ての意識を持っていかれるほど魅了されているだろう。


 マテオは目の前の美貌より別の心配事が先立っていた。

 訪れたその日に命あって良かったとされるほどの負傷をしてしまった。階段から落ちたとしたいが、そこへ至る言い訳が考えつかない。ついドジを踏んでとするには怪我の度合いが大きいし、そもそもそんなヘマはしない。

 両親に、特にソフィーには見抜かれるに違いない。

 これは呼び戻されるかな〜、とマテオの胸の内は諦めがほぼ占めつつあった。

 戦闘で敗北は仕方ないが、初日早々に引き揚げとなるのも悔しい。自分の役割りが果たせないが、なんか情けない。


 姉のアイラにウォーカー家の一員となるよう集中させたかった。


 自問自答に没頭していたマテオだったから、ようやくだ。


「な、なんだよ?」


 一心に向けてくる視線に少々怖気つつ尋ねれば、なぜか美少女が得心顔だ。


「キミ、名前なんて言うの?」


 もの凄く当然な問いであるはずだが、帯同している女子が驚愕の声を挙げる。


「ど、どうしちゃったのよ、いったい!」


 うろたえている以外の何物でもなければ、マテオとしては不思議だ。なんだか好奇心も湧いてくれば、答えてやるか、となる。


「マテオ。姓は……まだない。そっちは?」


 ふ〜ん、と唸るばかりで答えない美少女が、にっこりしてくる。

 誰もが蠱惑的と捉えそうな笑顔に、マテオは初めて警戒心が起きた。つまり普段の調子を取り戻しつつあったわけである。


「別に答えなくてもいいぞ。いろいろ問題もあるんだろ、それだけ綺麗な顔をしているんだからさ」


 ふむふむといった具合に美少女が独りうなずいている。

 さすがにちょっと薄気味悪さを感じたところで、先方から回答があった。


「私は、流花。苗字はそうだね、マテオと一緒でどうなるか解らない」


 もう呼び捨てかよ、と言いかけた口を噤んで上半身を起こす。ぎこちないながらも、何とか動くようになれば少し自信が回復だ。イテテ、と思わず口にしてしまうほどだが、多少なら相手の出方には対処できるだろう。


「そんなに警戒しなくてもいいよ、マテオ。キミという為人は知ったから、流花も悪いようにはしないよぉ」


 なんだこの上から目線は? と思うマテオだが、流花と自己紹介してきた美少女のにこにこした顔に偽りがないような気がした。


「悪いヤツとされなかっただけでも良しとするか。実際、流花が来てくれて助かったしな」

「えっ、キミ。私を呼び捨てなの」


 不満をはっきり滲ませてくる。

 面倒くせーなぁ〜、とマテオはなった。


「今、マテオ。面倒臭い女だと思ったでしょ」

「はい、思いました。だから訊くけど、そっちは僕のことを呼び捨てでもいいのか?」

「あっ、そうか、そうだね。なるほどぉ〜」


 どんな反論がくるか身構えていたから、マテオとしては拍子抜けだ。

 とんでもない天然かもしれない。


 流花! と小さくも鋭い呼び声がした。


「ちょっと、離れて」


 流花と共にあった少女の声に違いなかった。

 ゆっくり立ち上がったマテオは、もう一人へ目を向ける。

 路地外からの逆光で姿は薄ぼけている。

 とても幼い体型で、髪型がおかっぱなのが解った。


「あんた、只者じゃないわよね」


 今度はあんたときたか、と胸裡で呟くマテオだが危険を察知する本能が囁いてくる。流花になくても、こちらは殺す気満々だ。


「どうだろうな。助けられたとはいえ、初対面の相手になんでも喋るほど僕は甘くないぞ」


 挑発的な返しをそのまま受け止めたようだ。


「マテオって言ったっけ。もう少し自分自身のことを話してもらえない? この娘を狙うヤツは多いから、簡単に解放なんていかないの。素直に言うこと聞いたほうがいいわよ。さもないと」


 さもないと? とマテオが鸚鵡返ししたらである。


「生命を失くし、あたしの意のままに動くだけとなるのよ」


 そういって開く口から、深く突き立てられそうな二本の牙が顕れる。


 マテオは逢魔街初日から見舞われた窮地から、なかなか脱せそうもなかった。


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