76.また世界を検討する……、その前に精神攻撃を受けました。ダメージ大
なろうよ! 私は、こっそり帰って来た!
「さぁ! マスター、今日は私の活躍をお見せする日ですよ。昨日の検討会は、私が発言する程の事も無かったですが、本日は違いますよ!」
「ハッタ、朝から騒々しいけど、どうしたの?」
昨日は出番が無かったって文句言っていたが、今日は妙にゴキゲンハイテンションだな。ヤル気マンマンみたいだけど、今日も聞いているだけだと思うよ。
「本日は、検討会の目玉。米国と中国の登場です。気分も盛り上がると云うものですよ。直ぐに昨日の検討会が、今日の為の前フリだったと判ると云うものです!」
まぁ、確かに昨日は影響の少ないグループを纏めて検討したので、かなり駆け足だったことは否めない。本来なら中東から南アジアの不安定要素であるイスラム原理主義に対する検討をした方が良いのだろうが、日本に対する影響が少ないとスルーされた。感心するぐらいの日本ファーストな考え方である。
それに対して今日は、カナダ・オーストリラアを加えた西欧グループ、米国、ロシア、韓国、大本命の中国と混乱の影響が大きくなっていく順に続く。そして、最後に中国の混乱に巻き込まれるであろう東南アジアの国々のグループとなる。
そう日本と同盟国である米国。ロシア、韓国、中国、日本と領土問題の有る三国。と、イロイロ一筋縄では行かない国が続く。
「張り切るのは良いけど、くれぐれも調査団員の方々の邪魔をしないようにね。俺達は、あくまでもオブザーバーなんだからさ」
「そう、クドクド言われなくても判っていますよ。しかし、必ずや私の出番が有るはずですから、その時は括目せよ!」
うん、全然判っていないね。何が『括目せよ』だ。このまま話を続けても、ハッタの空騒ぎな言葉を聞かされるだけな気がするよ。仕方無いから、話題を変えよう。
「ところでハッタ、頼んで於いた児童養護施設への寄付金振り込みは済ませたの?」
「ええ、勿論バッチリ、全て済ませましたよ。ただ、振り込み手続きを638回もすると流石に厭きましたね。
みずほ銀行も、個人口座のネットバンキング振り込み限度額を一日500万円なんて言わないで、自己責任で無制限にしてくれれば簡単に終わったんですけどね」
アスピヴァーラ国とシュクヴォル王国で児童養護施設への訪問と寄付をさせて貰った時に、ポツリと『帰ったら、日本でも寄付しないとな』と呟いた俺の言葉を覚えていたハッタの提案で寄付をする事となった。
ただ、日本全国の児童養護施設が638か所も在ったのには驚いたよ。2019年の時点で605か所だったらしいのだが、コロナ禍不況に於いて経済的に苦しくなった家庭の子供達を受け入れる為に増えたとの事だ。
当初は、1施設につき100万円を寄付しようと思ったのだが、流石に計6億3800万円の金額にビビッてしまった。ならば、数か所に絞ろうかとも思ったのだが、児童養護施設の内情に詳しくない俺では、何処を選べば良いのかも判断出来なかった。
どうして寄付する側が悩まなければならないのかと思った俺が、地元を中心に近場の10施設だけに1000万円寄付しようとドンブリな決断をしたところ、ハッタが全ての施設に100万円寄付するべきだと主張した。
1施設100万円づつでも638回も振り込み手続きをしなければならない煩雑さに嫌がる俺に、『振り込み手続きは、私がします。それに金額の事は気にしなくても大丈夫ですよ。どうせ直ぐに取り戻せますから』と言って、スクリーンの中のハッタは『ニヤッ』と悪そうな笑みを浮かべた。
何か気になる笑いを残したハッタは、638の児童養護施設と連絡を取り、二か月ちょっとの時間を掛けて全ての振り込みを済ませたそうだ。ただ一か所だけ、地元から少し離れた児童養護施設だけは、俺が一度直接赴いて代表者と面談した後で寄付金を振り込んだ。
その児童養護施設には、中学まで一緒だった女の子の子供が入所していると風の噂で聞いたからだ。その女の子とは、今も良い思い出になっている特別な関係だった……という事は無い。
ただ、思い出の中に存在している20年以上前の少女姿の彼女が、どの様な人生を送っていたのか知らないが、困難な状況にあると安易に想像出来て少しだけブルーになったからだ。
ついでに、その児童養護施設には、サッカーボール数個と手芸用品、児童図書、絵画道具一式を送っておいた。俺のささやかなプレゼントで、あの子達の瞳が少しでも輝いてくれればと願いながら……。
「ああ、そうそうマスター。UBSのカードが郵便局留めになっていると連絡が有りました。近いうちに受け取りに行って下さいね」
少しばかり子供達の未来に思いをはせていたら、ハッタよりの業務伝達。やれやれ、ノスタルジックな思いに浸る事も許されないか。
まぁ~、ハッタがどんなに人間臭くてもAIだからな、人の機微までは汲んでくんないよな。
先日、調査団と奈良と大阪へ行った後、急にUBSで口座を作ってこいとか言い出したので、未だその理由は聞いていない。ただ、言われるがままに大阪に在る出張所へ行ってきただけだ。
UBSは、日本にも支店があるスイスの商用銀行で、信託投資を主業務としてプライペートバンクを利用する富裕層を顧客とている。ザ庶民の俺には少々敷居が高かったが、一見若造に見える俺にも少々大阪訛りな言葉で丁寧に対応してくれたのには感謝だ。
そんなUBSを使ってハッタが、何やら悪巧みをしているみたいなのは感じている。なので……
「ああ、了解だ。でも、UBSに口座を作ってどうするの?」
「勿論、マイケル・イーストビレッジ口座から送金するんです。それで、使える綺麗なお金にするんですよ」
「……それって、……一般的にマネーロンダリングって言わないか?」
「マスター、バレなければ犯罪ではありませんよ。そんな事を二度も言わせないで下さい。忘れたのなら『17.ハッタ曰く……、オートマタはエロイ』を読み直して下さい」
「発言、ダブルでダメじゃん!」
無茶苦茶良い笑顔でハッタが犯罪すると言っているよ……。
連合が日本と接触すると、案内者として同行する予定の俺も注目を浴びる。そんな俺が、マーネーロンダリングをしていると知れたら……。
うん、胡散臭さ120%で大騒ぎだな。
俺が表に出ないようにしてもらうか? いや、無理だな。連合が来訪してきた理由でオティーリエ王女関連を説明すると、必ず俺の事がでる。というか、俺の事を隠して連合の来訪を説明なんか出来っこない。
どうにかして止めたい……。
「UBSだって、犯罪に加担しないようにチェックが厳しいだろ。スイス銀行の金を使うのは無理なんじゃねェ? 」
「マスター以前も思いましたが、スイス銀行なんてありませんよ。国立スイス銀行は有りますけど、商用銀行ででなく日銀のような政府系金融機関ですよ」
「知ってるよ、ゴルゴ13トリビアでやってたわ! 」
「なら良いんですよ。前回その話題が出た時に、誰も突っ込んでくれなくて寂しかったんですよ。ああ、前回というのは『30.ハッタの企み』 の回です」
「そんなメタな話題はどうでも良いから、犯罪は止めなさい!」
3年ぶりだからな、やたらとメタな発言が多いな。と思ってたら……。
「3年ぶりだから、私自身の設定を忘れがちなんですよ」
あっそ。
「話を戻しますが、送金するのは連合が日本と接触した後ですからバレても大丈夫ですよ。立証できませんし、マスターのメインバンクはみずほ銀行のままですから、気付きもしないかもしれません」
「なんで、みずほ銀行が関係あるのさ? 」
マンガなら、きっと俺の頭の上に? マークが大量に浮かんでいただろな。それぐらい意味不明。
「連合が日本と接触してマスターの事が明るみに出たら、高天原も地球と月の中間宙域ラグランジュポイントへ移動して存在を明らかにする。その上で、マスターの住民票を高天原へ移住してるので日本から抜くって話でしたよね」
「うん、そうだね。その為に根津さんを顧問弁護士に雇おうって話だったな」
高天原に住んでるからって住民票の転出届を受理されるかが問題なのだが、台湾など国家として認められていない所謂『地域』に住んでいる日本人も居るのだから受理されるであろう。
が、前例主義のお役所が、地球上ではない人工の大地である高天原に関する事柄を素直にオッケーって言ってくれるとも思えず、根津さんにお願いしようという結果になった。
その為、詳細は伝えてないが……。と云うか詳細を勘違いするように、既に消滅している『量子技研工業株式会社』の顧問弁護士に成って欲しいと思わせるようにとメールで伝えてある。
「と云う事は、これからのマスターの収入には税金が掛からないという事です。何せ日本在住ではありませんからね。
ですが連合が日本と接触すると、それに反発する勢力が必ず生まれます。何事も反対を叫ぶ人達は一定数いますからね。それに連合の件では、陰謀論が大好きな陰謀論者に格好のネタを与えるのですから、それはもうディープステート論者などが多数湧いて出ることでしょう
そして、その反発する勢力が目を付けるのは、唯一調べられるマスターの情報。特に財産。みずほ銀行の収支に注目居する事でしょう。
ですが、みずほ銀口座は、税務署になどに調べられても明瞭会計なので付け入る隙など有りません。
それにUBSは、スイス系金融機関なだけあって顧客情報を漏らしません。なので世界的な衝撃的出来事の中で、犯罪だとしても気付かないでしょう。
もし気付いたとしても、マイケル・イーストビレッジなる人物は存在しませんし、ケイマン諸島口座は既に記録諸共全て消滅していますから立証はまず不可能です」
ハッタは、やたらと自信マンマンだが、そんなに上手く行くものなのなか? いや、ハッタなら無理矢理にでも……、具体的に言えば非合法手段を使ってでもやるか。いや、もう非合法手段使っているか……、今更だな。
はぁ~、ならばせめて日本国民としての義務を果たす方向に話を進めようか。
「UBSの件は判ったよ。でも、税金は払おうよ。国民の義務だよ」
するとスクリーンの中のハッタが、目を見開いた! くわってカンジで。
「マスター、日本で起業した日本人が、アメリカに商品を売って利益を得ました。納税はどこへ? 」
はて、迫力ある表情をしながらの不可解な質問。何が言いたいのやら。でも、何かを言いたがっているな……。
「日本だろうね」
「では、アメリカで起業した日本人が、日本に商品を売って利益を得ました。納税はどこへ? 」
「アメリカだろうね」
「では、高天原で起業した日本人たるマスターが、日本へ商品を売って利益を得ました。納税はどこへ? 」
「この話の流れで云うと高天原?」
「そうです。だから、日本への納税義務はないんですよ」
いや、それは屁理屈ではないか。そんな俺の思いを無視してハッタは言葉を続ける。
「接触後、連合の日本との交流には、宇宙港などの施設が必要になります。その為の資材は、わざわざコストを掛けて中央銀河から輸送するのでなく、高天原にて生産する事になっていますよね。そして、その一部は連合の日本への技術供与に使用される為、日本政府へ売却する事となります。
しかしマスターの会社と言いますか組織は、日本の企業法人としての枠に収まりません。何と言っても、本社は高天原で従業員がゼロなんですからね。
しかも、高天原は宇宙空間に存在していて、地球上のどの国の施政下にもありません。これは地球上の如何なる国の法も高天原には適用出来ないということです。
もしマスターが日本へ納税するとしたら、それは高天原が日本の施政下にあり、日本の法が適用されるという事です。
つまり、武器の所持を禁止している日本の法では、当艦は違法所持となり日本政府に没収されるという事です。
マスターは、当艦を手放すつもりですか?」
カーン、カーン、戦いの終了のゴングの音が脳内に響く……、気がする。はい、負けました。ド正論にしても屁理屈にしても、ハッタに論戦を挑んだ俺が馬鹿でした。
そう、やりたい事、やるべき事が有る以上は、総旗艦フラデツ・クラーロヴェーを手放す訳にはいかない。だから、すんげぇ~借金を連合にして、無重力下で分子構造を並べ変えするしか生産できない金属の生産プラントを買い付けてきた。ここで、止める訳にはいかないだ! 主に財政的理由で……。
そう、今の俺は、貧乏提督から昇格して借金提督なのだ!
「大体にしてですね。マフィアから巻き上げた金額が80兆という話が出た時に、日本の予算の三年分だとか言っちゃうマスターに金融や経済の事が判るんですか? 」
「えっ、国家予算って、今25兆円ぐらいじゃなかったけ? 」
「何言ってるんですか。本年度の一般会計予算は、120兆円を超えてますよ。本当に、現代日本人ですか? 」
「がはっ」
AIに一般常識を教えられ、アイデンティティまで疑われてしまった。血を大量に吹き出しそうだ。その精神攻撃やめて~。
120兆円超かぁ~。確かに、そう云われてみれば年末のネットニュースに書いてあったような気がする。
では、何故25兆円だと思い込んだろうか?
考える考える……、ポクポクポク……。思い出す思い出す……、ポクポクポク……。更に考える考える……、ポクポクポク……。思い出す思い出す……、ポクポクポク……チーン!
ああ、そうだ……、そうだった……。
あれは美帆と別れる切っ掛けとなったキャッシュカード事件で、美帆と大喧嘩をした夜に、ナントカ大臣だか幹事長だとかが『コロナ対策の為、補正予算は20兆から30兆の大型補正予算を組まなければならないな』とかテレビニュースで言っていたんだった。
ふ~う、その時の事を中途半端に覚えていたんだな……。
これから会議だというのに、アイデンティティ疑惑と黒歴史が俺を襲って来たよ。部屋に戻って引籠っちゃおうかな。
「ああマスター、それとですね、高天原に日章旗をペイントしたいんですが良いですよね」
「それは許可を求めるんじゃなくて、もう進めてますよっていう事後報告か?」
「そうとも言います」
またもやしれっと、勝手なことをしているのに悪びれもせずに言い放ちやがった。
でもなんで日の丸をペイント?
「月の裏に隠れているのになんで日の丸をペイントするの? 誰にも見せないのに必要か?」
そうこれね、ここ大事。そんな手間のかかることやる必要あるのか。
今の高天原は、内部の住居建設や連合から買い付けてきた金属生成、加工プラントの設置で大忙し! ロボ太とドウアが、24時間頑張ってくれているけど手が足りないのよ。
「連合基準では、宇宙空間における人工物は所有者の国籍が判るようにしなければなりません。マスターの国籍が日本である以上は、日章旗をペイントしておかなければいけません」
な、なるほど、またもや俺の知らない常識があったのね。
「分かったよ。でも今度から、始める前に報告をくれ。それとペイント作業で遅れる工程があればそれも報告してくれ」
そう報連相これ大事。そしてハッタに欠けているもの。
「遅れる工程なんてありませんよ。それも最初から工程に含まれていますから。
今頃になって報告したのは、宇宙線でも劣化しない塗料を連合で仕入れることが出来たからです。塗料を仕入れられなければ、一から作ることになり時間がかかるので報告しなかっただけです。何か問題がありますか?」
「ねぇよ」
まったくコイツは! と思いながらも上手く反論できそうにないので憮然と答えるが……
「さぁ! マスター、そんなヘタレな顔しないで会議に行きますよ。今日こそは、私の活躍をお見せしなければなりません!」
人のヤル気を削いでおいて、うぜぇ~。
そんなこんなで俺は、いつもの様にハッタを振り回されながら今日を生きている。
やぁ、皆さんお久しぶりです。
ちょっと、勤めていた会社が倒産したり、家族が順番にコロナに罹ったり、再就職したら三か月程で会社が買収されて部署が統合されたり、買収会社の前任者が退職したばかりで未経験者を率いる立場にされたりした挙句部署が無くなったり、再々就職して全く違う仕事に始めたりと結構波乱万丈な三年間でした。
ですが、戻ってくれば『我々は三年待ったのだ!』と言ってくれるだろうと思い……
言ってくれるよね……
みんな信じてるよ……




