表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
多分……、宇宙もの……。  作者: わだつみ
73/94

72.曇天に想いを馳せる

「地球か……。なにもかも、みな懐かしい」


 宇宙戦艦艦長の名ゼリフを呟き、地球を潤んだ瞳で見詰めている。だが、これは俺ではない。その証拠に……、


「ああ……、そうだぜ……」


「これが……、地球なんですね……。私達、やっと辿り着いたんですね」


 残りの2エルフも目を潤ませて、メインスクリーンに映る地球を見詰めている。そして3エルフは、お互いの肩を寄せ合い、何かを遣り切り感無量といったカンジだ。

 一方俺は……。


「やっと、着いたか。疲れた……」

 ただ、疲れ切っていた……。


 

 連合の艦隊が、俺達に先んじて宙間観測ブイを設置してくれたお蔭で、地球までの航路が確定され復路は7日間で帰って来た。往路は12日間+3日間だったので、気分的には随分と早く帰って来れた気がする。

 しかし、総旗艦フラデツ・クラーロヴェーでノンビリと過ごしていた往路と違い、何度も調査団との打ち合わせをしたり、長期間旅行していたと家族についた嘘を補完する為にお土産をネットで手配したり、確定申告の書類などを作ったりして忙しくしていた。



「何か、俺の資産が増えてないか? それと会社を解散した時に、残金をみずほ銀行口座へ移せばいいのにと思っていたが、わざわざ東京三菱UFJ銀行の口座に移したのは投資信託をする為だったのか?」 


「ええ、マスターに総旗艦フラデツ・クラーロヴェー修復の資金を出させたのですから、利子を付けてお返ししました。

 それに、マスター程の資産を持つ者が、資産を普通口座で遊ばせているのは不自然なので、ローリスク・ローリターンなものに突っ込んでおきました。これで、マスターが『量子技研工業株式会社』で上手く行かなかったから、割と安全な投資をしているとのバックストーリーが作れました。

 なので、税務署から突っ込みはされませんよ」

 

 何が、なのでかは俺には判らないが、今まで経験した事ない莫大な収入と節税の為のアレコレが申告書類を複雑化させている。

 出発するの前に必要書類や領収書などを高天原持ち込んで、基本的な書類作成をハッタがやってくれたのだが、俺の知らない間にハッタが投資信託とか色々とやっていて申告書類を見ただけでは、もう良く判らないことになっていた。

 なので、考える事を辞めて、そのまま申告書類などを提出して税金を払おう。それでも、十分な資産が有るのだから。と、半ば諦めの境地に達した頃に亜空間航行を抜け地球へ帰還した。



 メインスクリーンに映る青い星を見詰めて、肩を震わせる頬を濡らす3エルフ。地球へ来たいと言い続けてはいたが、これは少し大袈裟だ。と云うか変だ! 今後の事もあるので確かめなければ!


「3人ともどうしたの? そんなに、地球へ来たことを喜んでくれているのかい?」


 俺の言葉に肩を組み滂沱の涙を流している3エルフは、目を合わせて何かを確認したように頷き、助言役のエルヴィが涙を流しグスグスと鼻を鳴らしながら話し出しす。


「わ、私達、ご、護衛官は、国家特別遺伝子提供者のホームタウンまで同行して行くのが第一関門と言われているのです。

 国家特別遺伝子提供者となられた方の中には……、なんと言いますか私達とは相性と言いますか……、肌が合わないと言いますか……、直ぐに国家特別遺伝子提供者を辞退する方もいます。

 ですので先ずは、国家特別遺伝子提供者のホームタウンまで同行して行く事を第一目標としているのです」


 成程、アスピヴァーラ国以来、3エルフがアレヤコレヤ趣向を凝らして夜も激しいのは、気に入られようとしての事か。更には最悪の場合に備えて、国家特別遺伝子提供者を辞退した時の為に遺伝子を搾り取っておくおく事が目的か。

 でも、激しすぎて逆効果になってますよ。エロフの皆さん……。


「それだけではない。拓留が、ニジェールのサブリナ・アシュールに惹かれているようだったからだ。あの場は、物事を知らぬ者として治めたが、本当はハッタ殿からニジェール人の風習を聞いていて知っていたのだろ。だから、初対面にも拘らずプロポーズをしたんだろ。

 拓留が、地球人と結婚するなら良い。伴侶も同意の上で遺伝子改変薬を投薬すれば、何の問題も無い」


 うわ! 黒歴史が、俺を責め立てているよ。泣き顔のクリスティーナに、本当に知りませんでしたと言っても信じてもらえないよね。と考えている間にもクリスティーナの言葉続く。


「もし拓留が、ニジェール人と婚姻をするとしたら、一度遺伝子改変薬で地球人のDNAに戻し、暫くしてまた遺伝子改変薬にてDNAをニジェール人との中間にする必要がある。

 しかし、その場合は我々アスピヴァーラ人とはDNA的に懸離れた存在になる。そして、その場合は提供してもらった遺伝子に大幅な改変を行う必要があり、人工授精での受胎率が大幅に下がる。

 今、提供されている遺伝子もアスピヴァーラ人としての生を果たす為に改変は行なわれているが、それでもアスピヴァーラ人に近いDNAを維持していれば、国家を成立させるだけの出産数になる。

 我々、アスピヴァーラ軍人が護衛官と成り、娼婦と罵られようが、性奴隷と蔑まれようが、胸の内に誇りを持っていられるのは祖国に必要な事だから! 祖国に忠誠を誓い、この身を以って責務の完遂に務め、アスピヴァーラ国民の負託に応える為だ!

 だから……、だからこそ、この星に……、地球まで来れたのが嬉しいのだ……」


 胸の内を曝け出す熱い言葉にエルヴィとヴィーヴィも共感したのか、クリスティーナを二人して抱締め地球到着を喜びあっている。確かに彼女達の任務は、アスピヴァーラの未来を支える大切な任務だ。アスピヴァーラ女性の容姿に惹かれる男性達の多さから、嫉妬心に満ちた者達から心無い言葉の数々に晒されたのであろう。しかしながら俺は、この光景を冷めた目で見ていた。

 

 大体にして悪意を向けられたアスピヴァーラ人が、大人しく引き下がるとは到底思えない。それに、総旗艦フラデツ・クラーロヴェーが地球への帰路へ就いたときから、クリスティーナとヴィーヴィが約束を破り下着姿で艦内を歩き回っているからだ。俺には二人が、もう交代させられる事が無いと弛んできているとしか見えない。

 俺も、そうそう3エルフを交代させるつもりは無いと言ったからには多少の事には目を瞑るが、流石に一番最初に交わした約束を簡単に破られるのは面白くない。なので、感動を噛みしめている所を済まないが、ここで一言言っておこう。って、俺って結構酷い奴だな。


「そうか、三人とも今日まで良くやってくれたからな、喜びもひとしおだね」


「「ああ……」」


「ええ」


「なら、地球まで来たのだから一区切りという事でクリスティーナとヴィーヴィは、アスピヴァーラ国へ帰ってもらおうか」


「な、何を言っている拓留。良くやってくれたと言ったばかりではないか!」


「そうだぜ拓留。俺達ほど、拓留を喜ばせている者はいないぜ!」


 クリスティーナとヴィーヴィは血相を変えて俺にアピールしているが、エルヴィは静かにそっと二人から距離を取りつつある。うん、流石に機を見るに敏。


「確かに二人は良くやってくれているし、その責務を果たそうとする姿勢も感じる。ただ……」


「「ただ?」」


「一番最初に交わした、下着姿で艦内を歩き回るなって約束を破っているだろ! それに昨夜クリスティーナは、入浴しながら飲む酒が足りなくなって、全裸で食堂まで撮りに行っただろ! だからだ。

 約束を破ったら二人を帰国させて、アウリッキ・レフティマキ少佐とロニヤ・ハカミエス曹長に交代してもらうと言ったハズだ! 覚えていないとは言わせないぜ!」


 そうなんだよ。昨夜、食堂の前を通り掛かったら、ロボ太が濡れた通路の床を掃除していたので監視カメラで確認したら、髪まで濡れた全裸のクリスティーナが酒を持って歩いているのが映っていたんだよ。

 俺に指摘された二人は、一瞬だけお互いの目を合わせたが直ぐに逸らして視線を泳がしている。どうやら、全力で言い訳を探しているようだ。


「それにだ、何度も言うがアシュール議員に対して恋愛感情は無い。ハッタからも、俺がニジェール人の風習に疎いと聞いていただろ」

 これもなんだよ。何度も『俺はロリでない!』とも言っているのだが、ニジェール人の風習の件についてもナカナカ信じてくれない。それで、チョット困っているんだよ。

 行動は大胆なくせに、妙に慎重なトコロが有ると云うか疑い深いというか、俺を信じ切っていない。まぁ、その事についてはエルヴィも同じだから、責務に対して真摯であり過ぎ空回りしていると思っているがね。

 そんな事を考えていると……、


「マスター、お気に入りの二人を手放すつもりも無いくせに、ネチネチ虐めるのは如何なものですか。三人は私のゲーム友達なのですから、それぐらいにして下さい。

 それとも、精神的に追い詰めて隷属させる新しいプレーですか? それなら、夜にしてもらえませんか。もう、高天原に入港しますよ」


「うぐっ」

 今度は、俺が言葉を無くす番だった。俺の考えを見透かしているハッタに、めんどくさそうにネタバラシをされちゃったよ。ほら、さっきまで神妙な顔をしていた3エルフが冷静になって、これまでの俺の言動からブラフだと気付き、もうニヤついた表情になっているよ。


「と、兎に角。これは、最終通告です。約束を守るように!」


「「「はぁ~い♡」」」


 ナチュラルに追放から最終通告まで格下げさせられた俺の言葉だったので、返って来たのは緊張感のない言葉だったよ……。締まらねぇ~。



 その後、総旗艦フラデツ・クラーロヴェーを先頭に調査船と新しい工作艦が高天原の宇宙港へ入った。が、調査船が調査団員と200人ぐらい乗れる降下船を高天原に降ろすと、休む事無くムレシュの牽引準備をしている。

 準備が終わったら高天原で一休みする事無く、新しい工作艦を持って来てくれた連合軍人達を乗せて直ぐに木星へ向かうそうだ。そして調査団員達も、俺達が高天原に用意した宿舎に荷物を置くと直ぐに会議室に集合して仕事に取り掛かっている。その為、俺達だけがゆっくりと休んでいる訳にもいかず、早速にマリーナまで調査団員の着衣を受け取りに行く事になった。


 今は、日本時間で二月初旬の午後一時過ぎ。荷物は午後二時から四時の間にマリーナへ届くそうなので、少ししたら行かなければならない。って、二時から四時の間に来るって、ハッタのヤツ最初から今日俺を働かせるつもりだったんだな。


 銀河中央部へ出発する前から高天原にも豪勢な館を建ていたのが完成しているので、少しは休みたかったが家具や電気製品が一つも無いので使用できませんでしたー! こっちも、色々と揃えないとね。

 はっ! 調査団員達の宿舎も、家具も何も無いのでは! と思い慌ててハッタに通信をすると……。


「今、連合で買い揃えて総旗艦フラデツ・クラーロヴェーで運んだ物をロボ太とドウアに運ばせて設置しています。もう少しで、終わりますから問題無しですよ」

との事だった……。調査団員達が休まずに直ぐに働きだしたのは、宿舎にベッドも無いからかも……。しかしハッタのヤツ、何時の間に買い物なんかしていたんだ?


「ベジャルーでマスターが馬車馬のように働いている間は暇だったので、連合のECサイトで買い物をしておきました。支払いは、アスピヴァーラ国で作った口座から振り込んでおきました。

 急に調査団が来る事になったので、買い揃えるのも一苦労だったのですよ」

との事らしい……。その気遣いを俺にもしてくれませんか、ハッタさん……。



 マリーナへ行くのに3エルフさん達を連れて行く事が出来ないので、置いて行こうとすると駄々を捏ねるので津久留島まで同行させると大喜びしていたのだが、真冬の海は物悲しいのでガッカリしていたよ。

 で、結局はロベルトとカテジナを連れて、真冬の海をマリーナへ向けてヴェネレ号を走らせた。


 マリーナへ到着してみると荷物が届いていなかったので、ラウンジでマリーナ職員達と世間話をしていると頼んでいた荷物が届いたのだが、むちゃくちゃ大量のダンボールだったよ。

『一人一着でも120人分だと、こうなるのね』などと思いながら、ロベルトとカテジナがせっせとダンボールを運んでいるのをヴェネレ号でダンボールを整理しながら眺めていた。本当、働き者のアンドロイドが居ると助かるよ。


 

 今日の瀬戸内海は、少し曇っていて波が少し高い。冬であっても晴れ間が多く温暖な瀬戸内だが、今日は運が悪かった。普段なら、こんな日は館に籠って海になど出ないんだけどね。


「帰ってこれたか……」


 ンジェグ海賊艦隊戦から始り、アスピヴァーラ国、シュクヴォル王国、中央銀河首都星ベジャイアへの訪問。目まぐるしい日々と出会った多くの人々達との交流。全てが、夢のような煌いた素晴らしい日々だった(但し、馬鹿王太子は除く)。

 そんな日々を思い起こし、俺は空一面に立込める雲を見ていた。



 そんなこんなで俺は、瀬戸内の片隅で、これからの日本を想っていた。

豪雨が終わると30℃超えの日々が戻ってきました。お蔭で、八月も終わるのに夏バテ最高潮!


それでも、頑張れば最低でも週一ぐらいは上げれて、先までイケそうな気がするよ……。


真の完結に至るのであれば、それまでの苦しみはエピソードに過ぎない。って、999で賢治も言ってるしね。


えっ、そんな事は言ってないだって!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ