57.ハッタ、故郷に錦を飾る
「現在高度約12万メートル。ドヴール・クラーロヴェーの大気圏へ突入します。対空監視により3万メートル以下の高度にて、航空機多数確認。報道各社及び、歓迎の民間機だと思われます」
「接触事故にだけは注意してね」
「大丈夫ですよ。シュクヴォル王国側が降下路を開けてくれています。それに何度も降下した航路です」
俺達は、シュクヴォル王国が指定した場所、首都チェスキークルムロフ郊外に在る王家座乗艦停泊地である『王家の丘』を目指して、近衛護衛艦二隻と共にドヴール・クラーロヴェーへ降下していた。
『宇宙港が在るんだから、宇宙港でいいじゃん』と言った俺にハッタが猛然と『何を言っているのですか、総旗艦フラデツ・クラーロヴェーがドヴール・クラーロヴェーに在る時は、王家の丘に停泊して国民に安心を与えてきました。今回も当然のこと、王家の丘に向かいます」と言って、近衛護衛艦とデーターリンクして降下準備を終えてしまった。
そして、右後方にウースチー・ナド・ラベム。左後方にチェスケー・ブジェヨヴィツェとデルタ陣形をとりながら降下している。お蔭で気分上々、ノリノりのハッタは、『デルタ陣形を維持のまま、大気圏航行速度まで減速』と俺の名を使って二隻に指示を出しまくっている。
少しでも陣形が乱れようものなら『陣形維持が聞こえなかったのか?』と通信しやがって、ウースチー・ナド・ラベムのドルホシュ艦長が謝罪の通信をしてきたよ。まぁ、『こちらこそ、細かい事を言ってすみません』と謝って於いたけどね。
総旗艦フラデツ・クラーロヴェーは、待ち構えていた羽の無い航空機の間を抜け徐々に高度降ろし、やがて地表に近づくと今度は航空機が上空を舞っている。非常に壮観な光景だが、皆さん事故起こさないでね。時々、接触事故起こしそうな人たちがいるからね。
「マスター、心配しなくても大丈夫ですよ。基本的に民間機は、今はオートパイロットで飛行しているはずです」
「なら、良いんだけどね」
と言った途端に、小さな航空機が総旗艦フラデツ・クラーロヴェーの防御フイールドに接触して弾き返され、錐揉みしながら墜落して行く。
「やれ、やれ、当艦を近くで見たいからと言って、ぶつかって来ることは無いでしょうに」
「おい、のんびり構えてないで、トラクタービームを出して助けてやれよ」
「大丈夫ですよ。ある一定の高度より下がったら、緊急自動制御が発動して安定飛行をしますから。でも、航空管制からは、目茶目茶怒られると思いますが」
確かに、錐揉み降下をしていた期待が突然何もなかったかの如く安定した飛行へ移り、警邏機に先導されてどっかへ飛んで行った。
「大歓迎なのは良いけど、ちょっと盛り上がり過ぎじゃねぇ。アスピヴァーラの時も大勢の人に歓迎されて驚いたけど、それ以上だと返って俺なんかにって思って萎縮しちゃうよ」
「そこは、頑張ってもらうしかないですね」
くっ、他人事だから気楽に言いやがって。今度は、ちゃんとサポートしてよね。してくんないと、俺困っちゃうから。
「それはそうと、陸地への着陸って着陸脚でも出すの?」
「いいえ。重力制御で、地上数メートルの高さに滞空しています。着陸脚では、当艦を支えるだけの強度を持てませんから」
「そうか……。重力制御装置を稼働しているなら、主動力機関は起動したままということだな」
「ええ……、そうですが。それが何か?」
「勝手にオーロラビーム撃つなよ。特に夜。皆の迷惑になるから」
「くっ、どうして、それを……」
三艦隊からの祝砲に、ノリノリでオーロラビームを撃っていたからな。気に入ったんだろうと思っていたよ。夜に、急にオーロラビームを撃つと住民の皆さんが驚くから止めなさいよ。マジで。
「ハッタのマスターだからさ。それはそうと、ドラーパル大佐の件は何か判ったの?」
「いえ、私は何も。やはり、合法な範囲では限界があります。マスター、是非とも私に限界突破の許可を下さい」
「ダメ。軍からは、連絡無いの?」
「ホラショヴィツェ村なる、長閑な農村に足跡があったそうです。現在確認中とのことです」
軍から連絡着てるのに限界突破させろって、何する気だったんだよ。軍に対抗でもしたかったのか?
「そっ、ならドラーパル大佐の件は軍に任せよう。ハッタは、俺のサポートを全力てしなさい」
「くっ、判りましたよー。精々美味しいレストランの情報で集めますよーだ」
拗ねやがったよ。まぁ良い。放置だ放置。そろそろ、下船だから付き合いきれん。
「エルヴィ、下船の準備は?」
指令室のソファーに、唯一人静かに座っていたエルヴィに声を掛け確認する。本当にエルヴィは、優秀だよ。俺の助言者兼秘書兼秘所をしてくれている。
「はい、少佐と曹長が亜空間転送ゲートで待っています」
エルヴィもスッカリ打ち解けて普段はクリスティーナ、ヴィーヴィって呼んでいるんだけど、お仕事中なので階級呼びです。
「ならハッタ、留守中頼むよ。行ってくる」
「言ってらしゃいませ。精々楽しんでくるが良いー。私は、一人で寂しくゲームでもしています」
いや、サポートしてよ。
地上から2メートルぐらいの高さで滞空している総旗艦フラデツ・クラーロヴェーから、三人の護衛エルフさん達と亜空間転送ゲートを抜け、敬礼をしている係りの人に会釈しながら施設の外に出ると、白い三列シートのオープン地上車が駐車してあった。もしかして、このリムジンカーに乗れと?
「さぁ、提督どうぞ!」
との声に押され、右隣にクリスティーナ、左隣にヴィーヴィ、前列にエルヴィの配置でリムジンカーに乗り込むと、待ってましたとばかりに滑らかに動き出す。そして、丘を下り大きく壮麗な正門を抜けると……、やっぱり……。
「「「「「お帰りなさーい! 」」」」」
「提督ー! ご帰還おめでとーございまーす!!」
「シュクヴォル王国の武威を示された提督に敬礼!!」
「「「「「はっ!」」」」」
「我らの英雄オティーリエ王女殿下の子孫。新たなる英雄こと東郷提督。お帰りをお待ちしていましたーーーーーー!」
道路沿いから、建物の上から、はたまた上空に掛かる橋の上から、大歓迎の大声援が飛んでくる。一度めよりもマシだったけど、半分顔を強張らせながら笑顔をつくり、両手を大きく広げてフリフリ。そりゃーもう、360度にフリフリ。力の限りフリフリ。
大歓声の中、何処までも続く観衆の中をゆっくりと進むリムジンカーに乗って、俺達は進んだ。
「ようこそ東郷提督。そして、よくぞ総旗艦フラデツ・クラーロヴェーを帰還させて下さいました。ありがとうございます」
そう言って俺達を出迎えてくれたのは、シュクヴォル王国首相、ラドヴァン・クベリーク氏。50才前後に見えるナイスミドルだ。
「こちらこそ、温かいお出迎えありがとうございます。私のルーツの一つでもあるシュクヴォル王国へ来れて、大変に喜んでいます。これから、お手数をお掛けしますが宜しくお願いします」
そう俺とハッタは、シュクヴォル王国訪問に当たって色々と手を煩わせてしまう事を承知で対策を練って来た。
その一つがオティーリエ王女の遺体帰還に関することだ。 オティーリエ王女の御遺体を帰還させるためには、大まかに二通りの手段が考えられる。
先ずは、融和策。地球と友好な関係となり、日本との交渉によって平和裏にオティーリエ王女の御遺体を帰還させる。
次に、強硬策。地球を侵略して、オティーリエ王女の御遺体を力づくで回収したら、とっととシュクヴォル王国へ帰還するという手だ。
俺達は、中央銀河連合が強硬策を選択することは無いと思っている。
連合は、汎銀河戦争に於いて自由・尊厳を掲げて戦い、戦後結成され他国への侵略を厳に戒めている。
連合結成以降に、他の星間国家から侵略を受けた事も有るが、戦勝後は連合が主体となり植民地などにせずに再建させ、敵国を連合と理念を共有できる国家へと変貌させた。
それらの事柄から、いくらオティーリエ王女の御遺体を回収するためとはいえ、強硬手段など軽々に取らないと判断した。
しかし、融和策には大きな問題がある。地球には統一政府が無いという事だ。
連合の連合法には、惑星内国家が乱立し統一政体にない惑星との接触を原則禁じている。原則なので例外的措置もあり、今回のように星系連合の立役者であるオティーリエ王女に関する事であれば例外が認められる見込みだそうだが、それも連合本会議で決議してからである。
連合本会議では、どのようにして地球の国々と接触するか、国交をどの範囲まで持つか、その後の技術や文化提供はどうするかなどが議論され決定される。
そして、地球と接触しオティーリエ王女の遺体帰還に関する事柄の主導権を、シュクヴォル王国に取ってもらおうと俺は考えている。
「我々シュクヴォル王国にとって、大いなる喜びを運んで下さったのです。多少の交渉など些細な事です」
「ありがとうございます。そう言っていただけるだけで、気が楽になります。しかし、気が重いお話もあります。アスピヴァーラ国からシュクヴォル王国に至る間も、星間ネットワークに私の総旗艦フラデツ・クラーロヴェーを所有に異論があるお方の言葉が流れ続けていました。
私としましては、クベリーク首相、ヘニッヒ議長との間で片が付いていると思っているのですが、そう思われていないようですね」
そう、なんとか王子がしつこく総旗艦フラデツ・クラーロヴェーは、シュクヴォル王国の宝だから取り返せと言い続けている。しかし、殆どのシュクヴォル王国民は、俺がオティーリエ王女の子孫なのでなんとか王子を相手にしてはいない。これが対策、その二。首相からも言質を取る為にネチネチとクレームを付ける。
「東郷提督のご懸念は、 在アスピヴァーラ大使カベルカからも聞き及んでいますが、何の心配もありませんよ。総旗艦フラデツ・クラーロヴェーは、連合法によって東郷提督の所有として認められています」
「しかし、ルフレート国王陛下は認めるか否かを表明しておられませんよね」
「陛下の御叡慮は、私などでは計り知れませんが、少なくとも反対の意は聞き及んでいません。それに東郷提督には、王家に準ずる敬意を以って接すると我らの国会に於いて決議されております。準王族扱いの提督の意に染まぬ事を、強制する事が出来る者など居りませんよ」
「ではクベリーク首相は、私の望まぬ出来事が起きた時は、連合法と国会決議を順守する為に私に協力していただけると思って宜しいのでしょうか?」
「勿論ですよ。しかし、提督の思い過しになると思いますよ」
良し、現地取ったどーーーー!!
「ははは、私も考え過ぎであると望んでいますよ」
この後は、歓迎ムードの首相と穏やかに会談をして、今後の協力について十分に話し合った。ハッタは、前回アスピヴァーラでの事で俺に怒られているので、適切な情報と助言をパーソナルスクリーンへ送って寄こしていた。
その後は、シュクヴォル王国国会議事堂に移動して議員と放送ではあるが全シュクヴォル王国民に挨拶と言う名の演説をした。ハッタと三人のエルフの助言を貰っての演説内容なので、とってもウケが良くて、国民の好感度マックス状態だそうだ。
そんなこんなで俺は、シュクヴォル王国でも大歓迎を受けている。
地球は、100キロメートル(10万メートル)までが大気圏だそうです。
地球より大気圏が厚い星が有っても良いじゃん! と思いドヴール・クラーロヴェーは、120キロメートル(12万メートル)にしてみました。
勿論、思いつきなので根拠は無い!




