54.ロリ疑惑
「それはマスターの横暴です。私は、今まで通りの待遇を要求します」
「ダメです。それに、あれは待遇とは呼びません。ハツタが、勝手に俺のパーソナルスクリーンに干渉していただけです。不当行為です」
「ても、それで助かった事もあった筈です。一概に不当と言うのは、私の貢献に対する侮辱です」
「ハメーンリンナに来て、総督閣下様とお二人の大使閣下との会談で、何度も呼びかけたのに無視しましたね。それ以外にも、大切な会談の最中は、呼びかけを無視することが多かったですよね。これで、貢献と言われても、片腹痛いんですけど」
「そ、それは、貴賓室の修復監督という大切な要件がありましたので致し方なく」
「致し方なくで、主の呼びかけを無視するのですか? それを貢献と呼ぶのですか?」
「むむむ、それは……」
「拓留もハッタ殿も変な話し方して、何をしているのだ?」
俺とハッタは、昨日の続きの交渉という名の言い合いをしているのだが、翌朝になっても居続けるクリスティーナがいるので敬語での言い合いとなっている。それが、クリスティーナには奇妙な行動と思えるのであろう。
ポート解放の件だが、俺はハッタにどうしても譲れない二つの条件を出した。
一、重要人物との会合または、重要な会議などには、必ず俺に情報提供や助言をして、不必要な時は通信をオフにする事。
これは、中央銀河の情勢と状況に疎い俺が、重要な判断をしなければいけない時に必要な手助けをして欲しいだけなのだが、ハメーンリンナに来てからのハッタは役立たず状態なので『喝』を入れる事を目的としている。そして、俺の僅かばかりのプライバシーを守る為だ。
二、他者に対しての言動を、もっと敬意をもってする事。
先日戦ったンジェグに対して、『ノロマ』、『グズ』、『愚か者』、「馬鹿』、『ドブネズミ』と言いたい放題なのだが、日常会話での他者を貶める言動は控えなさいと言ってある。俺は、戦場では兎も角も平時において他者を軽んじる者は、他者から軽んじられると思っているからだ。
だが、ハッタは、この二つの条件を飲むのが嫌だと駄々を捏ねている。通信状態を常に維持して於かなければ、緊急事態が起きた時に初動が遅れると。そして、ハッタにも表現の自由があると。
しかし、俺はハッタの言い分を撥ね退けている。
先ずは、新しくなった生体保護ナノマシーンなのだが、緊急時に個人用簡易防御フイールドが展開される機能が追加されたので、少々のことなら耐えられるからだ。
もっとも、その耐久力は、幼年学校の子供達にハルバートで殴られたら粉々になると言われている。これは、防御フイールドが弱いと見るべきか、子供たちが強靭と見るべきか悩むところだが。
そして、『表現の自由は無制限ではありません』とYAHOO掲示板にも書いてあるだろと。誹謗中傷はいけませんよと。
「仕方ありませんね、今回は私が折れましょう」
なんだか、ハッタが大人の対応をしているみたいなカンジがして、俺が駄々っ子みたいだが、条件を飲ませたのでオッケェーだ。
「で、クリスティーナ。ラウタサロ大尉以外に、あと二人来るって言ったけど。誰が来るの?」
そう今日、俺はアスピヴァーラ国を立ちシュクヴォル王国へ向かうのだが、出発前に国家特別遺伝子提供者の事で訪ねてくる人物がいるとのこと。それで、待っていたりするのだが、誰が来るのかクリスティーナが口を割らない。
「そんな細かい事は良いではないか」
「少しは、説明ぐらいしろよ」
言っても無駄な人に、言っても無駄な事を言っていると、ドアがノックされた。やっと来たか、さっさと話を済ませて総旗艦フラデツ・クラーロヴェーへ向かうか。俺は、出発準備オッケェーだぜ。
ドアを開けると部屋に入って来た三人のエルフさん達。ラウタサロ大尉と小柄な初対面の薄茶エルフさん。それに、なんとヴィーヴィ。
「お待たせしました提督。この二人が、提督の護衛官に就任した者達です」
「護衛官?」
護衛官って、昨日の女の子が言っていた役職だよね。なんで、出国する今日に護衛官を付けるの? しかし俺が質問をするより早く、小柄な女性が一歩前に出て敬礼をする。
「参謀本部中尉、エルヴィ・アンティラであります。護衛官に着任した以上、全身全霊を以って提督をお守り致します。しかし、僭越ながら提督に質問が在るのですが、宜しいでょうか?」
「ご丁寧な挨拶ありがとうございます。東郷拓留です。宜しくお願い致します。私に答えられる事でしたら何でもどうぞ」
身長150センチぐらいかな。顔付もやや丸顔で幼く見えるが、精悍な目つきに軍隊調のハキハキとした話し方。参謀本部勤務なら、見た目とは違ってかなりの遣り手なんだろうな。
「提督の乗艦たる総旗艦フラデツ・クラーロヴェーのオペーレーターアンドロイドは、みな女性型で小柄と聞いていますが理由は何故でしょうか?」
「ああ、それは、男性型で体格を大きくするとオペーレーターシートが壊れるといけませんから、小柄な体格にしたんですよ。女性型なら小柄でも違和感ないですし、それに資源の節約になりますからね」
「そうですか。では、提督は子供が好きなのでしょうか?」
「まぁ、そうですね。子供は朗らかな気持ちにしてくれますので、嫌いではないですね。と言いますか、子供が嫌いと仰る方の気持ちが私には判りませんね」
「では昨日の事ですが、幼年学校に児童に対して、『護衛官になるの待っている』との発言をされたそうですが、その本意は何でしょうか?」
「子供が未来の希望を語っているのですから、激励しただけですよ」
何なんだろうな、この質問は。意図が良く判らん。しかし、ラウタサロ大尉も止めないし重要な事なのか?
「では、提督が護衛官に小官を選ばれたの……」
「話を遮って御免なさい。護衛官って、私が選ぶのですか? それにアンティラ中尉が護衛官に選ばれたという事は、ここに居るレフティマキ少佐とエスコラ曹長も選ばれたという事でしょうか?」
「そうですが、昨夜。提督は少佐から説明を受けていませんか?」
これは、ラウタサロ大尉の発言。やっぱり残って於けば良かったーって顔してるけど、俺も何度もそう思ったんですよ。
「将来、私の伴侶となった者にも遺伝子改変薬を投薬してもらえるとだけ説明がありました」
ラウタサロ大尉とアンティラ中尉が、額に手を当てOh.No~ってなカンジで天を仰ぎ見る。俺の方が、Oh.No~なんですけど。
「出来る事なら、説明をお願いしたいのですが」
俺の願いを聞き入れてくれたラウタサロ大尉が、丁寧に判り易く国家特別遺伝子提供者の説明をしてくれた。
国家特別遺伝子提供者には、アスピヴァーラ国から三名の護衛官が付く。この護衛官は、中央銀河連合法によって『アスピヴァーラ国存続の為の特別事項』として地位が定められており、どのような場所であろうと国家特別遺伝子提供者に同行することが出来る。それこそ、中央銀河連合議会であろうと王家との面談であろうとも。
護衛官の職務を邪魔する者は、連合からの批難決議とアスピヴァーラ国との対立を覚悟しなければならないとまで言われている。つまり、連合をバックにつけたアスピヴァーラ国と一戦交える覚悟が必要という事だ。
そして最重要な事であるが、護衛官は国家特別遺伝子提供者の遺伝子提供協力をしてくれるという事だ。
「遺伝子提供協力?」
「子を成すための遺伝子で、最も優れ、最も採取しやすく、最も頻繁に採取出来る物を、国家特別遺伝子提供者が提供して下さる時に協力する事です」
「あー、成程ね」
聞き覚えの無い言葉に理解が追つかない俺に、ラウタサロ大尉がやや迂遠に説明してくれた。それでも、大人なら判るよね。俺は、昨夜クリスティーナに搾り取られたばかりだから、『最も優れ』でピンときたよ。
「で、その護衛官を選べるというのは、どういうことでしょうか?」
うん、こことっても大事。このままだと、クリスティーナとヴィーヴィが野放し状態で付いてくる。
「通常は、国家特別遺伝子提供者の選定には、数年を要します。候補者となった者の功績、人格、言動などを精査し国家特別遺伝子提供者として相応しいかを審査します。その間に全機械化装甲兵から立候補者を求め、護衛官を選び出す作業をします。勿論、今回の提督のように助言者が必要と思われたり、国家特別遺伝子提供者の要望が有れば機械化装甲兵以外からも選出されます。
今回の提督の国家特別遺伝子提供者選定は、軍関係者や経済界、そして国民の要望が多くあり、異例ですが短期間で決定されました。その為、ハメーンリンナに滞在中の機械化装甲兵から選出されました」
「そうですか~、どっにしろ機械化装甲兵から選ばれるのですね」
ラウタサロ大尉の説明を聞いて、はぁ~と溜息一つ。なんだか、最近溜息が多いな俺。
「そうだぞ拓留。私達機械化装甲兵の精鋭でなければ、護衛も勤まらんからな」
「そうだそうだ、拓留。俺達機械化装甲兵なら、どんな要望だって答えてやれるぜ。拓留は、何が好みだ?」
と、突然にクリスティーナとヴィーヴィが話に加わって来るが、最後が下ネタなので不必要な言葉だったよ。大体さっきから、俺やラウタサロ大尉が話している脇で、クリスティーナとヴィーヴィはコソコソと猥談してやがった。
『で、少佐殿。昨夜はどうでした?』
『うむ、あれで結構、拓留もなかなかやる。かなり楽しめたぞ。それに、私も初めての技を使ってくるしな』
と、部屋の中に居る者に丸聞こえな内緒話だった。
「コホン、説明を続けます。国家特別遺伝子提供者には、その業績に合わせて報奨金が支払われます。遺伝子を求める人数が多い国家特別遺伝子提供者には、遺伝子提供量も増えますのでそれなりの金額が支払われる事となります。既に提督には、申し込みが殺到していますのでかなりの金額になると思われます。ただ、その為にもそれなりの量の遺伝子の提供をお願いしたいのです」
成程、とっても良く判りました。つまり俺は、提督だけでなく種馬にもなったのね。はぁ~、また溜息だよ。まぁ、今はそれよりも……、
「良く判りました。ありがとうございますラウタサロ大尉。それで、アンティラ中尉。私は、今まで護衛官の事を良く判っていませんでしたが、アンティラ中尉は私の護衛官になるにあたって、何か疑念が御有りなのでしょうか? 私の理解が足りなかった事もありますが、アンティラ中尉の質問から含むところが有るのは判ります」
「いえ、提督には失礼しました。あの、その……、提督が児童性愛者ではないかとの声がありまして、それで外見の幼い私を選んだのではないかと邪推してしまいました。本当に失礼しました」
なんと、知らないところで俺にロリ疑惑が起きてたよ! 失礼な話だ、俺はロリではなくて、JK愛好家だ!
「そうですか、残念な噂が立っていたのですね。しかし下らぬ噂など、時期に消えるでしょう。
それよりもアンティラ中尉、先程ラウタサロ大尉が仰ったように私には助言者が必要です。参謀本部は、アンティラ中尉ならきっと任務を遂行すると判断して選んだのでしょうから、私も期待させていただきます」
「はい、微力を尽くします!」
うん、アンティラ中尉の事は、上手く纏まったな。アンティラ中尉は小柄だが、出るところは出ている立派な大人体型をしているのが軍服の上からでも判る。イロイロとエロエロなお世話になりまーす!
さて、あとは下ネタ話から、この場に居ない人をディスってる脳筋二人組だな。
「ははっは、良い面の皮だなあの黒真珠め。拓留を見誤るから、己の不明を晒す」
「ははっは、仕方ないですよ少佐殿。中佐殿は拓留と過ごしていないのですから、己の狭い価値観で判断するしかなかったのですよ」
「「ははっは」」
景気よく笑い者にしてやがる。これは、こいつらにも釘を刺しておかなければな。
「おい、二人とも、ソイニンヴァーラ中佐がどうかしたのか?」
「ああ、元々拓留の護衛官に、参謀本部から助言者として派遣すべきだと言い出したのは、あの黒真珠だ。ところが、拓留がペドだという噂が流れたら、『私には、荷が重い』とかぬかして降りたのさ」
「ふふ、中佐殿が、ペドの噂はただの誤解で、拓留が単に子供に優しくしただけと知るとどんな顔をするやら」
「「ははっは、ははっは」」
そうか、ソイニンヴァーラ中佐は何を考えているか判らない人だったから、関係ないのなら別に良い。それよりも、お前たち二人の事だ。
「これから言う決まりを守らなかったら、クーストネン総統閣下にお願いして交代させてもらうぞ。
一、裸で歩き回るな。
二、下着姿で歩き回るな。
三、客が来たときは、上下とも下着を身に着けろ。
この三点だ。特にクリスティーナは、カーゴパンツ脱いでショーツ丸出しで指令室で遊んだりするな」
「そんな細かい事言うな。我々の仲だろ」
「そうだぜ拓留。服を着てたら、プレーの幅が狭まるぜ」
「守らなかったらクリスティーナは、妹さんのアウリッキ・レフティマキ少佐に交代してもらう。
ヴィーヴィは、ロニヤ・ハカミエス曹長と交代してもらうからな。良いか、本気だぞ」
「「ふぐっ!」」
ふん、取り敢えずぷっとい釘を刺してやったぜと思っていると……、
「提督、今の御話しを軍司令部に伝えると、少佐と曹長を交代させることが出来ますが如何しますか? 特に少佐は、提督が国家特別遺伝子提供者に選定されるのを見越して、勝手に任地を離れたと思われています。少佐だけでも、交代させた方が宜しいのではないですか」
やけに強引に総旗艦フラデツ・クラーロヴェーへ乗り込んできたと思ったら、クリスティーナのヤツ下心満載だったのか。昨夜も、積極的だったしな。そうか、そんなに俺の事を……、フフ、中々に愛いヤツではないか。
「た、拓留、交代なんかさせないよな。私と拓留の仲だろ。私は、また津久留島で刺身が食べたいんだ。交代させないでくれ」
そっちかよ……。
「なら、二人とも決まりを守るよな」
「「もちろん!」」
「ラウタサロ大尉。二人とも約束を守ると言っていますし、交代させても誰が来るか判りませんので、この三人でお願いします」
俺の言葉にラウタサロ大尉は、やや不満そうだ。まぁ、気持ちは判る。お馬鹿を二人も、重要な護衛官という地位に着けたくないよね。しかし、お馬鹿二人は、『流石、拓留信じてたよ』とか『ふう、危ない。少佐の巻き添えを喰うところだった』なんてぬかしてやがる。
お前たち、約束破ったら本気で交代させてやるからな。そして、名前出さなかったけどパルヴィに来てもらおう。
と考えていたら、これまで我慢していたのだろうか、ハッタが妙に浮かれた調子で話し掛けてきた。
「やりましたねマスター、これで『多分小説家だろう』で人気のキーワードの『ハーレム』を手に入れましたよ。
これまで、当艦艦長になっていたので、『俺TUEEE』と『チート』を手に入れてましたから、これで三つ目ですね。あと、マスターが手に入れる事出来そうなのは二つですね」
『これハーレムなの?』って、聞きたいんだけど。どっちかと言うと、搾精牧場のような気がするんだけどね。でも、あと二つ、って何?
「ハッタ、因みにあとの二つは何なの?」
「それは勿論の事、一世を風靡した『ざぁまぁ~』と『追放からのもう遅い』です」
「『ざぁまぁ~』は、他人が勝手に陥るだけだから良いけど、『追放からの』って一度追放されなきゃいけないんでしょ。なんかヤダな」
「おや、そうですか? てっきりマスターもその気だと思ったんですが」
「何故?」
「だって、良くロボ太とランニングマンを踊っていたではないですか」
「ああ、追放者ね」
「御後が宜しいようで、マスター座布団一枚下さい」
ねぇーよ、そんな物。
そんなこんなで俺は、知らぬ内に掛かっていたロリ疑惑を払拭した。俺は、紳士的なJK愛好家だ。
ギリシャ彫刻のようなクリスティーナ!
ボン、キュッ、ボンの我儘バァディーのヴィーヴィ!
一見合法ロリ、でも脱ぐと大人のエルヴィ!
この三人がハーレム要員だ!




