46.初体験(独断専行じゃないよ独断先行だよ)
エルフさん達の護衛艦と合流した俺達は、直ぐに亜空間航行に入り主星ハメーンリンナへ向かった。
指令室のドーム天井には、前を見ても、右を見ても、左を見ても護衛艦が見える。俺は、この光景を写真に残すべく、色々な角度から激写しまくっていた。
しかし亜空間では、背景が薄暗い灰色なので写真映えせずにちょい不満。明日になれば、一端通常空間に戻るという事なので、今日は大人しく終了した。
そして翌日、通常空間に戻ったと連絡を受け、デジ一眼を片手に暢気に指令室へ現れた俺に……、
「マスター、護衛艦から減速要請が出ています。了解して、減速します」
ハッタって、報告はするが、判断は結構勝手にするのよね。一応、『艦長なんだから、判断を聞いてよね』とも思うが、要請が来ているなら同じかと一人納得す。
「ふーん、減速って、何かあったのかな」
「救援通信が、オープン回線で流れています」
えっ、救援通信ってことは、トラブルか。来たばっかりだっていうのに、やれやれだぜ。
指令室のあちらこちらで、ドームスクリーンに映った護衛艦を激写していたのだが、救援通信と聞いて流石に撮影を止め艦長席な座ったよ。
「護衛艦は、どうするのかな」
「それを話し合っている間でしょう。護衛任務を優先して救援通信を無視するか、護衛任務を放棄して救援に向かうかを」
「ああ、成程ね。救援通信の内容は何なの?」
「民間商船隊が、海賊船団の襲撃を受けているので助けて欲しい。との事です」
「げっ、ほっといたら不味いじゃん。こっちは、良いから救援に向かえば良いのに」
思いっきり不味いじゃん。早く助けに行ってもらわないと、こっちから救援に向かうように提案しようかな。
「マスター、提案があります。我々が、この座標に居ても、何の役にも立ちません。なので先に行きませんか」
「うーん、そうだね……。航路は、判っているんだよね」
「はい、勿論です。最短時間で現着する航路計算を済ませてあります」
そうだね、それが良いか。ここにいて時間を無駄にするよりか、俺達がいなくなれば救援にも行きやすいだろうからな。
「よし、そうしよう。先に行こう。ハッタ、護衛艦に一言伝えるから、通信を繋げて」
「不要です。たった今、連絡しました」
うん? 何か忙しないな、急いでいるのか? 失礼なことを言ってないと良いんだけどな。
「ちゃんと丁寧に伝えただろうね」
「勿論です。では、短距離亜空間航行に入ります」
ハッタが告げた瞬間に、前方の護衛艦パーツヨキの横をすり抜け、亜空間航行に入って行った。それにしても、短距離亜空間航行って言ったよね。
このところ、3000光年ぐらい進む長距離亜空間航行をしてるのに、何故に短距離?
そんな俺の疑問は、約五分後に通常空間に戻った時に判明した。
「通常空間に戻ります。全方位、索敵……。敵海賊船六隻確認。距離35万キロ。
二艦隊に分かれて商船隊を攻撃中。海賊船近距離からP1、P2、P3、P4、P5、P6と呼称。
敵全艦ンジェグ駆逐艦と判定。戦闘準備。主砲、P1、P2に照準を合わせます」
「えっ?」
ドーム天井全体には、塊りになって逃げる船を左右から赤い光の束が襲い続けている様子が映る。攻撃しているのは、六隻の焦茶の軍艦か?
塊りになっている船からも、攻撃をしているらしき様子が見えるが、効果は無いように見える。
そしてメインスクリーンには、ズームアップされた焦茶の軍艦が数隻映っている。
何これ? もしかして……、もしかしなくても戦場?
「距離30万キロ、主砲有効射程距離に入りました。マスター、攻撃許可を」
「えっ?」
「攻撃許可です!」
「あっ、うん、良いよ」
「主砲4門、発射!」
混乱している俺にハッタが強めに指示を求め、俺は何が何か判らないまま許可した。すると、ドームスクリーン映る、総旗艦フラデツ・クラーロヴェーから伸びていく四条の赤い線。
そして、直ぐにメインスクリーンに映る二隻の焦茶の軍艦に直撃した。そのまま防御フイールドらしきものを一瞬で消し去り、貫通していく荷電粒子砲。
「主砲、P1、P2直撃。P1、P2撃沈確認。予測回避も出来ぬとは、素人め!
続いてP3、距離25万キロ。副砲4門P3照準……ヨシ。発射! 今更回避しても遅いノロマめ!」
ただ、唖然としている俺を余所に戦いは続いていくが、ハッタさん、お口が悪いですよ……。
「P3、撃沈確認。P4、P5、P6との距離約38万キロ、有効射程距離に入り次第主砲攻撃。主砲照準……。
後方に重力波確認。亜空間航行より離脱艦船あり。艦数3。アスピヴァーラ護衛艦と確認。
慌てて追いかけて来たみたいですね。可哀想だから、少し待ってあげましょう。当艦、加速中止します」
「待ってあげましょうじゃねェー。何で戦場にいるんだ!」
「やですね。言ったじゃないですか、先に行きましょうって」
「その場合、ハメーンリンナだと思うだろ!」
「おや、それぐらい想像して下さいよ。マスターなんですから」
「ふつー、戦場だなんて思わねェーよ!」
「何を言っているんですか、当艦は総旗艦フラデツ・クラーロヴェーですよ。友好国の民間人が生命の危機に晒されているのに、戦場以外に向かう場所がある訳ないじゃないですか」
ハッタは、小さく両手を広げ首を左右に振りやれやれ何言ってのって態度だが、やれやれはこっちのセリフだよ。いきなり人を、碌に説明もせず戦場へ連れて来るんじゃねぇー。
「おいハッタ、後は護衛艦に任せよう。それに護衛艦には、ここへ来る前なんて通信したんだ」
ドームスクリーンには、総旗艦フラデツ・クラーロヴェーに追いついた護衛艦が映し出されている。
「そうですねぇ……、でも敵艦隊は目の前ですよ。攻撃しないとやられちゃいますよ。
護衛艦隊には、効果的に且つ端的にこちらの意図が伝わるように『総旗艦フラデツ・クラーロヴェー、独断先行す!』と通信しました」
「Oh.No~、殺る気満々と思われてるじゃん」
そりゃ、護衛艦隊も慌てて追っかけて来るハズだよ。
「護衛艦より通信が入りました。返信しておきました」
「何て、返事したの!」
「効果的に且つ端的にこちらの意図が伝わるように『我に続け!』です」
「Oh my God!」
何ってこった、また攻撃に加わるのか! というよりも、なに率先して攻撃してるんだよー。
「敵、P4、P5、P6反転逃亡に入ります。距離約25万キロ、もう遅いわ、愚図め! 全艦主砲発射」
四隻の軍艦からの主砲一斉射撃に、反転中の駆逐艦が耐えられようも無く、一瞬にして爆発していく。そして塊りのまま、この場を離れていく商船隊。
「敵、P4、P5、P6の撃沈確認。まっ、海賊まで凋落したンジェグ駆逐艦ですからね。あんなものでしょう。当艦のリハビリにもなりませんでしたね。
護衛艦より通信。戦術データーリンク接続要請あり。要請受諾。以降、護衛艦は当艦の指揮下に入ります。全艦、船首回頭3時の方向へ転舵、当艦を先頭にデルタ陣形を組みます」
えっ、戦闘終わったんじゃないの?
「へっぇ、何で?」
「質問は、具体的にお願いします。戦術データーリンク接続の事でしょうか? 転舵のことでしょうか?」
「両方!」
「戦術データーリンク接続は、次の戦いに於いて作戦及び情報共有をする為です。
転舵した方向には、民間商船隊が逃げる時間を稼ぐ為に、警邏艦が三隻で6倍の敵艦隊を相手に戦っているからです。
マスターは、それを見殺しにしろと仰いますか?」
ぬぐぐぐ……、駄目って言い辛い事を言いやがる。
「くっそ! 判ったよ。覚悟決めるよ。早く迎え!」
「はい、マスター!」
ハッタは、今まで見た事も無いほど良い笑顔で微笑んだが、俺には悪魔の嗤いにしか見えなかった。
そんなこんなで俺は、気が付いたら宇宙艦隊戦を初体験していた。
応援ありがとうございます。拓留です!
「独断専行」ではなく、「独断先行」だそうです。
「勝手に先に行っちゃうよー」ってことで戦場へGO! しやがった。
勿論、ハッタの造語です。
機動総旗艦フラデツ・クラーロヴェー、次回「総旗艦フラデツ・クラーロヴェー健在なり」
俺は、生き延びることができるか?




