45.エルフの護衛艦
さて、意気揚々と出発した俺達だが、全員で来た訳では無い。津久留島には、以前も言っていたがロベルトとカテジナが留守を守り。高天原は、バルトロメイとアレンカ、それにドウアを残してきた、建設を進める為だ。ああ、そうそう、念の為に内火艇も一隻置いてきた。彼らが、俺の帰る場所を守ってくれている。
総旗艦フラデツ・クラーロヴェーは、先ず木星まで亜空間航行を行い、その後は光学観測できる距離を亜空間航行で進む。そして、亜空間航行可能な宙間観測ブイの範囲に入れば、そこから数回の亜空間航行にて銀河中央部を目指すとのこと。
「亜空間航行で、一気に銀河中央部へ行ける訳ではないんだね」
「亜空間航行にて一度で安全に進める距離は、2000光年から3000光年が限界ですね」
「それでも十分に凄いんだけど、総旗艦フラデツ・クラーロヴェーは一回の亜空間航行で、アステロイドベルトまで来たんだよね」
「亜空間は、通常空間のように一定の物理法則で成り立っていません。空間が歪んでいると言えば、イメージしやすいでしょうか。通常空間で短距離が、亜空間では長距離だったりします。そして、そのまた逆もあり、その現象を利用して光の速度を超えて移動します。
亜空間航行の航跡を3Dマップで表示すると、左右にフラフラしたり上下に上がったり下がったり、時には戻るような航跡を描きます。一見、無駄に思えますが、現在もっとも安全な亜空間航行の航路です。
ですので、長距離亜空間航行は主動力機関に多大なる負担をかけ故障による遭難のリスクを上げますので、安全に亜空間航行を行う為に実行する者はいません。
1700年前は、たまたま超遠距離のアステロイドベルトの側に出ただけで、訓練艦ラハティのように近距離のブラックホールの側に出る事もあります」
成程ねェ。ラハティの事を含めても、良く判る話だ。
太陽系の近くにはブラックホールは無いが、銀河中央にはいくつかブラックホールが確認されている。そのいずれかの側にラハティは出たのであろう。
パロヘイモ特務中佐が指揮を執っていなければ、天の川銀河辺境の太陽系の海王星まで来る事も無かったんだろうな。
「なら、日程は12日間って聞いているけど、亜空間航行は何回するの」
「高天原を出て17回で到着できるかと。訓練艦ラハティが、本国帰還時に徹底した宙間観測を行ってくれています。更に、そのデーターを元にアスピヴァーラ国が、宙間観測ブイの設置に動いてくれていますので範囲に入れば一気ですね。
判り易く言うと、高速道路のICが近くに無い地方都市で、ICまで一般道でゆっくりと進み、高速に乗ったらイケイケドンドンってカンジでしょうか」
「うん、ありがとう。最後の説明は要らなかったけど、判り易かったよ」
ハッタの説明にケチを付けたので『ウキー』と叫んでいるが、面倒なので放っておこう。亜空間航行を利用しても12日間かぁ、この間はする事無いし、艦長室に閉じ籠ってエルフさん達の写真の調整&整理でもして過ごすか。
ついつい調子に乗っちゃって、ビーチだけでエルフさん達の写真が1万枚近くあるからね。
1万枚って思うと凄い数だけと、全体集合写真やグループ写真を含めての32人だから一人当たり300枚か、そんな程度しか撮っていなかったか。
仕事の場合、1カットに70枚位から90枚ぐらい撮影していたのにな。まぁ、撮影のペースは凄まじかったが。
それからの俺の生活は、朝起きて食事を作り食べ、指令室でハッタに『万事順調です』との報告を受け、無駄話で少し時間を潰したら、艦長室に戻ってシコシコ画像処理の作業をし、適当な時間に昼飯を食べ、軽く艦内を走る運動をし、夜までダラダらし、夕食を食べながら酒を飲む毎日だった。
そんなダメ男な生活を満喫していた俺だが、あるの日の事……、
「マスター、明日、アスピヴァーラ国の護衛艦と合流します。ちゃんと髭をそって、髪の毛も整えて下さいね」
とダメだしをされてしまった。
確かに今の俺の姿は、ダメなおっちゃんスタイルだ。草臥れたスエット上下に、伸びた髭、寝癖のある髪の毛、シャワーは毎日浴びているから匂いはしないと思う。
これは、いかんなニューエルフさん達にお会いするのに、だらしない姿では幻滅されてしまう。ここは、ビシッときめてバッリとしたスーツ姿でも見せなければ。と気合を入れ直すと……、
「マスター、明日で良いんですよ」
との、冷ややかな声。あれ、俺何かやっちゃいました?
翌日、髪を整え、髭も剃り、オーターメイドで作ってもらったスーツ一式をパッリと身に着け、艦長席でアスピヴァーラ国護衛艦の到着を予定座標で待ち構えていた。三隻もの護衛艦が迎えに来てくれるからである。
最初は、百席単位の小艦隊が迎えに来る予定だったのだが、総旗艦フラデツ・クラーロヴェー単艦でも行けるのに大袈裟過ぎると俺が断って、擦った揉んだの末に三隻になった。
「はぁ、お迎えは嬉しいんだけど、三隻も来なくても良いのに、道案内なら一隻で十分なのにね」
「マスター、中央銀河連合の軍艦船は、最低行動数が三隻と決まっているのですよ。以前も言いましたよね」
俺は昨日まで、お迎えのエルフさんがこちらに乗り込んでくると思っていたのだ。だが、周囲を並走するだけで乗り込んでは来ないとのこと。以前、三隻単位だよと教えられていたのだが、スクリーン越しの挨拶なら一隻で良いじゃんとゴネていた。だって、パルヴィのような癒し系のエルフさんと仲良くなりたかったんだもの。ゴネれば誰か一人ぐらい直接挨拶に来るかなって思ったんだよ。でも、駄目だったよ……
「前方に重力波を感知しました。亜空間航行より離脱の艦船アリ。識別通信及び艦名受信。アスピヴァーラ国軍、護衛艦、パーツヨキ、ヴァンター、トルネの三隻と確認しました」
「時間通りだね」
「当たり前です。命の恩人の艦内を破壊したのですから、客人を待たせるような不調法は許しません」
「まだ怒ってんの。直してくれるんだから、許してあげなよ」
「それはそれ、これはこれです。あの馬鹿男、見つけたら軌道上からでも狙撃してやる、ぐるるる」
あかん、全然怒りが収まっていない。これは、修復工事が終わるまで、何を言っても無駄だな。アスピヴァーラに頼んで、パロヘイモ特務中佐に合わないようにしてもらおう。
「それはそれとして、マスター、護衛艦から通信が入っていますが断りますか」
「断らねェよ、地味な嫌がらせすんな。はよ繋げ」
『プイ』と自分で口に出しながらスクリーンの中で横を向くが、仕事はしてくれたみたいだ。メインスクリーンが四分割され、その内の三画面にエルフさん達が映った。
「お初にお目にかかります。総旗艦フラデツ・クラーロヴェーの警護を担当します。護衛艦パーツヨキの艦長、ヘンリーッカ・ミュッリュス少佐であります。両名は、僚艦、ヴァンター艦長、アンサ・サンッティ少佐とトルネ艦長、フローラ・タパニ少佐です。
我ら三艦乗員一同全力を以って、総旗艦フラデツ・クラーロヴェーの護衛を果たしますのでご安心ください」
ミュッリュス少佐が代表して名乗りを上げると、三人の艦長が同時に右手を左胸にあてる敬礼をしてくれる。動作が機敏で、そろっててカッコイイ。練習とかしてるのかな。
ミュッリュス少佐とタパニ少佐は、黒エルフさん、サンッティ少佐は、薄茶エルフさん。うん、本当に肌の色による扱いの差は無いようだ。クリスティーナの言葉を疑った訳では無いのだが、クリスティーナって、ほら、アレでしょ、脳筋でしょ。だからね、チョットだけ確認が必要と思ったのさ。
「総旗艦フラデツ・クラーロヴェー、艦長、東郷拓留です。お出迎えありがとうございます。アスピヴァーラ国、主星ハメーンリンナまで、宜しくお願い致します」
「「「はっ」」」
おっふ、返事までそろっているよ。流石、VIPを警護する艦隊だね。精鋭が揃ってる感じだ。でも、機械化装甲兵も精鋭だったけ……。
臍を曲げたハッタの邪魔も無く、順調に合流した俺達は、護衛艦パーツヨキを先頭に、ヴァンターとトルネが両脇を固めハメーンリンナへ向けて進みだした。
しかし、その歩みは直ぐに止まる。それは、救援通信を受信したからだ。
そんなこんなで俺は、アスピヴァーラの護衛艦と合流したばかりなのに、もうトラブルに巻き込まれる予感がした。
ダメ男な生活って、楽しいんだよね。
一度嵌ったら、抜け出せない魅力があります。
やっぱ、ダメ男だ。




