38.宴会しても、ええんかい?
「では、不肖、総旗艦フラデツ・クラーロヴェー艦長兼高天原責任者である東郷拓留が、乾杯の音頭を取らせていただきます。
アスピヴァーラの皆様の帰国成就とご多幸を願いまして、かーんーぱーいぃぃぃぃー!! 女郎共! 今日は無礼講ーだ! 好きなだけ飲めー!!」
「「「「「おおおおー、カンパイー!!」」」」」
今日は、高天原にて俺とアスピヴァーラ人32人で大バーベキュー大会だ! スペースコロニーの中でバーベーキューなんて、酸素の無駄遣いで正気じゃないと思うかもしれないが大丈夫!! なにせ高天原にも、大規模核融合発電所が在るからだ!
ハッタから高天原に大規模核融合発電所を作ると聞いた時には、『へっぇ、ソーラーパネルが三枚も有るじゃないか」と反応したのだが、『ソーラー発電装置を用意できなかったので、あれは飾りです。スペースコロニーにソーラーパネルの羽が無いのは、画龍点睛に欠けます』との返事があった。
なので、大規模核融合発電所を稼働する為に淡水を電気分解して水素を作り出している。だから、高天原には酸素が一杯なのだよ。勿論、大気中の酸素濃度は21%前後に調整しいあるが。因みに淡水は、亜空間転送ゲートを使って津久留島から直送です。
海王星から帰還中の事、指揮官であるはずのレフティマキ少佐はふて寝していたが、修復管理を担当した有能なリンネ大尉は、早速ハッタと訓練艦ラハティの修復計画を練っていた。
修復の最大の悩みが、主動力機関を修理するかどうかの判断が難しい事だった。元々の主動力機関は貧弱で壊れやすいうえに、補助動力機関は更に出力が貧弱で、漂流中も生命維持がやっとだったらしい。
この主動力機関を修理しても、帰国中に主動力機関が壊れてしまったら、今度こそアウトかもしれないとの恐怖が有る。
元々、訓練艦は本国の近宙域で活動を想定しており、地球のような辺境まで態々やって来る事を想定していない。
では、どうするかとなった時にハッタが提案した内容は、モルダヴィア帝国工作艦ムレシュの主動力機関をまるっと換装する事だった。
しかし、この案にも欠点がある、ムレシュの主動力機関がラハティの主動力機関より大きく場所をとる、その為に、ラハティの補助動力機関を取り外さなければならなくなる。非常時用の安全装置が無くなるという訳だ。
「小官、一人の判断では決めかねますので、協議をさせて下さい」
ハッタの提案を聞いたリンネ大尉は即決はしかねるといったん保留して、一応上官でありアスピヴァーラ軍人の指揮を執っているレフティマキ少佐に報告したが……、
「あのような、役立たずの補助動力などスクラップにしてしまえ」
と即答。せめてもう少し考慮してくくれば参考にもなったであろうが、機械化装甲兵という白兵戦のプロであるレフティマキ少佐の豪快な意見には素直に頷けなかった。
ハッタに教えてもらったのだが、機械化装甲兵は白兵戦で無類の強さを誇る部隊で、アスピヴァーラ国民の間でも非常に人気が高いそうだ。
自らの存在を誇示するような白金のパワードスーツを装着して、戦場でハルバートを振るい血の雨を降らせながら駆け巡る。更には、たった一人で、敵駆逐艦に乗り込み制圧したなどという武勇譚も残っている。そんな精強無比な脳筋どもだ。
高天原に帰還してからも、アスピヴァーラ軍人達には総旗艦フラデツ・クラーロヴェーでの滞在を許可している。訓練艦ラハティは、生命維持がやっとの状態で、乗艦には色々と不具合があるし、高天原には大勢の人が滞在できる施設が無いからだ。
そして、アスピヴァーラ軍人達の部屋の割り振りや作業割り当てもリンネ大尉が行っていた。つまりは、リンネ大尉の双肩にアスピヴァーラ軍人達は、乗っかりまくりだった。
そんな重圧からか、少々やつれたリンネ大尉を見掛けた俺は、『悩みなら聞きますよ。言葉にして、誰かに話せば考えが纏まるかもしれませんよ』と甘い言葉で言い包めて艦長室へ引っ張り込んだ。
リンネ大尉は、俺の差し出したエディーのオンザロック、ツーフィンガーをぐいっと一気に飲み干すと、『はぁー』と大きなため息をつき口を開いた。
「どちらを選択しても、必ずリスクは有るんです。そのリスクをどう判断するかを悩んでいるんです」
と告白するリンネ大尉に俺は、質問をする形で一つ一つ問題点を挙げてはその対策を協議し、考えを纏める方向へ思考を誘導した。
って、俺にそんな事出来る訳ないから、ハッタからのアドバイスという名の強制的でリアルタイムな助言を受けてやった事だ。
ハッタのヤツは、リンネ大尉を艦長室へ連れ込んだ直後にメッセージを寄越しやがったので、ムムフな展開になる暇はこれっぼっちも無かったよ。
その後は、エディーをたらふく飲んだお蔭かリンネ大尉も気を許してくれ、『だから少佐は、脳筋だから筋肉でどうにかなると思っているんでよ。筋肉で亜空間航行してみろってんだ!』とか『あの馬鹿男が、私の言葉を一つでも聞いていればこんな目に合わなかったのにー!』とか『参謀本部も副長にするなら、ソイニンヴァーラ中佐にすれば良かったんですよ。あの腹黒な黒真珠が!』とか『何で私ばかり苦労しているんだ。軍なんて辞めてやるー!』とか『その前に、あの馬鹿男ブチ殺す!』と、とっても心を開いた言葉を俺に聞かせてくれた。そして、そのまま寝てしまったので、他のエルフさんを呼んでリンネ大尉を部屋まで連れて行ってもらった。
俺、宇宙に来てまで愚痴を聞いています。しかも、他星から来られたエルフさんの愚痴です。予定では、ムフフな関係になる予定でした……。何故、こうなった!
翌日のリンネ大尉は、色々と吹っ切れたのであろうムレシュの主動力機関への換装を決意。ハッタと作業工程を詰めて、テキパキと迅速にエルフさん達を働かせ始めた。そして、作業は進み、全て順調と思われた時にレフティマキ少佐が騒ぎ出した。
「大尉だけに酒を振舞うのはズルい。私にも飲ませろ」
アンタ、本当に士官か? アンタが部下の不満を抑える役だろ、率先して我儘いってどーすんの。しかし、リンネ大尉から理由を聞いて少しだけ許す気になった。なんと、レフティマキ少佐は、本当に己の身体を犠牲に部下を助ける覚悟を決めていたのだ。
美しいアスピヴァーラ人の魅力は、多くの他星人を魅了する。そして、隙あらば我が手にしようとも。今回の様に生命の危機に晒された場合など、まず間違いなく、救助して欲しいならアスピヴァーラ女性を寄越せと言ってくるそうだ。
あのコントのような光信号での通信も、最初はレフティマキ少佐が返信していたのだが、あの通信のせいで俺の事を『緊急時にも関わらず、偽りの名を名乗り、搾取しようと近づいてくる怪しい輩』と思ったそうだ。そして誰かが犠牲になるなら、最上位士官であるレフティマキ少佐がなるべきだとも宣言していたらしい。
しかし中央銀河の常識など知らない俺は、真正の変態性を封印し、可能な限り紳士的に振舞った。それが、レフティマキ少佐にとっては自らの魅力を否定されたと思ったらしい。そして、レフティマキ少佐は拗ねてしまった。
その結果、主動力機関の換装が終わり、テスト起動が成功したのを祝い大バーベーキュー大会となった。
因みに、パロヘイモ特務中佐及び取り巻きの女性は参加していない。総旗艦フラデツ・クラーロヴェーに持ち込んだ食糧を食べ、貴賓室に引きこもっている。ただ、時々大きな音がするぐらいだ。
高天原滞在で、仲良くなった大いにバーベーキューを楽しんでいるエルフさん達に一通り声をかけてから、俺も食事をしようと席に着いたら、エスコラ曹長と機械化装甲兵の面々がやって来た。
「おう、拓留。肉だ肉。肉を食え」
「ヴィーヴィは、もう食べたの?」
エスコラ曹長や機械化装甲兵さん達とは、ここ数日ですっかり打ち解けて、ファーストネルームで呼び合っている。エスコラ曹長って、ヴィーヴィっ可愛い名前なんだよ。
「おう、食ってるぜ。地球の肉も旨いな」
そうなんです。今日の食材と酒は、ロベルトとカテジナに手伝った貰って、コストコで買って来た物なんです。牛、豚、羊と合わせて32Kgも買ったから、レジ係りの人の表情が引き攣っていたけどね。
「あれ、少佐は?」
さっきまで豪快に食べていたのを見たけど、今は見掛けないな。
「ああ、大尉に呼ばれて、あっちで何かやってるぜ」
あっ、本当だ。レフティマキ少佐が、眉間に皺を寄せてリンネ大尉と話し合っている。宴会が終わってからにすればいいのにねぇー。
「拓留は、少佐が気になるのかい?」
ヴィーヴィが、密着するぐらいに身体を寄せてくるんだが、オッパイの感触が直に感じるので質問なんてどうでも良くなるよ。機械化装甲兵の皆さんは薄着なのよね。
機械化装甲兵以外のエルフさん達は、皆パンツスーツの軍服を来て作業をしているが、機械化装甲兵の皆さんは戦闘服というのか作業着というのかラフな格好をしていらっしゃる。
今日もヴィーヴィは、素肌にタンクトップ、ブラ無し、戦闘服使用のカーゴパンツだったりする。ブラ無しなのは、機械化装甲兵の基準なのか、皆さんポッチがタンクトップに浮かんでいらっしゃる。
但し、俺を誘惑する為にブラ無しではない。それは、ハッキリしている。機械化装甲兵の皆さんが高天原で訓練をしている時に、たまたま通りかかったので実剣ハルバートを振らせてもらったら、重たくてまともに振れなかった。それ以来、男としては、相手にされていないような気がする。
「まぁ、しょうがねぇよな。拓留は、もう少しで少佐の身体を手に入れる事が出来たんだもんな」
ヴィーヴィさんや、断ったのは俺なんですけど……。何だろうか、俺が振られた事になっているのだろうか。
「まぁ、正直それが正解だぜ。あの少佐じゃあな」
「「「「そうだそうだ」」」」
「ホイホイ、ベッドまで行くと、とことん搾り取られて、その後役立たずと捩じ切られたな。絶対」
「「「「「あの少佐ならまちがいねぇー」」」」
君達、上官をボロクソに言っているね。機械化装甲兵の皆さんは、酒も入っているし、ノリノリで悪口を言ってるよ。大丈夫なの? 不満あるのなら、少しなら聞いてあげるよ。
「大丈夫かどうかなんて関係ねェー。不満があるかって? そんなの決まっているじゃねェーか。あの場で、独り占めしようとしたんだからな」
うん? 独り占め? 何か、俺が思っていたのと少し違うのか?
「少佐は、部下を差し出すのは哀れだと思って、自分が犠牲になるつもりだったんじゃないの?」
「表向きはな。実際は、久々の男だからな。楽しみにしていたのさ。だから、自分を高く売りつける為にラハティ甲板で仁王立ちしてたのさ」
ニヤっと笑うヴィーヴィの顔は、肉食獣そのもの。この人達、見た目はエルフでもアマゾネスだって事を忘れてたよ。そんな、愉快で楽しい酔っ払いの下品な会話をしていた時…………。
「誰が、自分を高く売りつけるだって?」
テンプレなタイミングで現れたのは、テンプレ通りレフティマキ少佐だ。そして、これまたテンプレなコメカミにおっきな怒りマーク。
「おや、少佐殿ではありませんか。小官は、現在東郷艦長に選ばれて楽しくやっております。選ばれておられぬ少佐殿は、どうぞあちらで楽しくやって下さい」
どう見ても喧嘩を売ってるにしか見えないけど、見え透いたヴィーヴィの挑発には乗らないよね。だって、佐官だものね……。
「良かろう、その挑戦を受けてやろう」
乗っちゃったよ……。何か、俺、前フリ役になってねぇか。ヴィーヴィの挑発に軽々と乗ったレフティマキ少佐は、軍服の上着を脱ぎ、これまたタンクトップ、ブラ無し姿になる。
「ハッハ、士官学校上がりながら、実戦で武勲を上げ続け『血まみれのクリスティーナ』と二つ名をもつ少佐とは、一度手合せしたいと思ってたんですよ」
ヴィーヴィもノリノリです。良いのか曹長が、それで。曹長と言ったら、下士官のトップ。纏め役で規範となる人物だろ、それが率先して暴れていいのか?
しかし、俺の思いも空しく、周囲の機械化装甲兵達に囃し立てられた二人のアマゾネスは向かい合って立ち、次の瞬間ガシッとモンゴル相撲のようにお互いの肩口を掴み組み合った。
周囲は大盛り上がり、二人を囃し立て応援する声や賭けをする声が聞こえる。
「拓留もかけるか?」
「俺には、賭ける金が無いよ」
機械化装甲兵の女性に声を掛けられるが、そう俺は中央銀河の金を持っていない。
「そうか残念だな。勝ったら、オッパイ揉ましてやるのに」
「バーボン一本、少佐の勝に」
あっさり掌を返した俺を機械化装甲兵達がケラケラ笑っているが、俺はチャンスとオッパイを掴む男です。だから、レフティマキ少佐に賭けました。
この間リンネ大尉と飲んだ時に、ナノマシーンが入ってるって言ってたのに酔っぱらって寝ちゃったんだもの。
だから、エルフさん達は、ナノマシーンが入っていてもアルコールに弱いとみた。酒は好きだけど、弱いとみた。そしてヴィーヴィは、もう結構飲んでいる。
「ふぬっあらー」
うら若き乙女が発したとは思えない掛け声と共に、ビリビリと何かが敗れる音。ドスンと何かが落ちる音。ワーと巻き起こる歓声。
そして、右手を天に突き上げ、ヴィーヴィの着ていたタンクトップを掲げるレフティマキ少佐。レフティマキ少佐に小手投げで投げられ、褐色の肌にピンク色が映えるオッパイをポロロンと曝け出すヴィーヴィ。何とも眼福です。俺は、小声でパーソナルスクリーンを呼び出し、今見ている光景を脳内のどこかに保存した。
そして、胴元をしている機械化装甲兵の女性に掌を広げて、ニギニギしながら近づいた。おや、女性も満更でもないようです。怪しげな笑みを浮かべています。良し、このままマックス・ベッドルームだー!!
「はい、これまでです。今日は、これで終了です。みな片付けを始めて」
無茶苦茶盛り上がってんのに水を差す声。そして、俺の下心を打ち砕く声。そうです、訓練艦ラハティの良心、リンネ大尉です。
「大尉、まだ、これからだろう」
「そうですぜ、大尉。夜は、未だこれからだ」
オッパイ丸出しのヴィーヴィが、とっても大きなオッパイをプルルンと震わせながら立ち上がる。この光景、ちゃんとピアスカメラで撮れてるかな。映ってなければ、
泣いちゃうよ俺。
「いいえ、機械化装甲兵が暴れ出したらお開き。これは、アスピヴァーラ軍の伝統です」
嫌な伝統もあったもんだな。どんだけ暴れてるんだよキミ達。お蔭で、今晩のパイパニックな予定が台無しだよ。
しかしリンネ大尉は、テキパキと片付けの指示をだし、あっという間に後片付けは終わってしまった。
「拓留さん、明日、少しお時間いただけますか」
総旗艦フラデツ・クラーロヴェーへ戻ろうとした時にリンネ大尉がやって来て、そっと耳元で囁いた。
「構いませんよ、パルヴィさん」
あの日以来、俺とリンネ大尉も、名前で呼ぶ仲間で発展したのだ。嬉しー!
「リンネ大尉は、本国に恋人がいるぜ。可愛い亜麻色の髪の乙女がな」
ヴィーヴィが耳元で囁き、俺の喜びを一瞬で打ち壊した。悔しー!
そんなこんなで俺は、異星人との交流に励んだ。
ポロリ。ポロリ。
次の次ぐらいには、もっとポロリ&ガバっな……。




