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多分……、宇宙もの……。  作者: わだつみ
30/94

30.ハッタの企み

東京から帰ってきた翌日のこと。早速俺は、月の裏側に浮かんでいる総旗艦フラデツ・クラーロヴェーへ亜空間転送ゲートで向かった。


「お帰りなさい。マスター」

渋谷で一方的に通信を切ったハッタは、少しばかり慌てているようなカンジであったが、今は落ち着きを取り戻しているみたいだ。


「ハッタ、聞きたいことがある」


「後にして下さい。それよりも重要な報告があります」

うん、全然落ち着いてなかったよ。


「二日前の午後9時。グリニッジ標準時午後0時、マスターが渋谷で素敵な熟女と戯れていた時に、全世界で同時に震度4の地震がありました。

 南極大陸を含めた全ての大地に於いて、地震が観測されています。一部の地域で被害が出てますが、それほど大きな被害は出ていないようです。

 なお、地震の原因は、今以て不明です。世界中の研究機関と学者が色々と説を述べていますが、いずれも推測の域を出ません。

 当艦の他星に於ける地質学のアーカイブにも、今回のような例は有りません。全くを以って不明です。ですので今後に地球規模で、何かが起きるとしても予測できません」

重要な要件というのと、ハッタが慌てていた理由は判ったよ。でも、熟女と戯れていたって必要な言葉か? しかも尋問はされたけど、戯れてなんかないぞ。


「異常事態が起きているの判ったよ。でも、震度4程度の地震だったんだろ。そんなに慌てることか?」


「日本は、三つのプレートが重なり合っていますので地震が多発しています。

 もしも地球規模の異変が……、例えば大規模な大陸移動などが起きれば、かわぐちかいじ作『太陽の黙示録』のように日本列島が分断されるかもしれませんし、最悪の場合は小松左京作『日本沈没』のように日本列島自体が海の藻屑となる可能性もあります」


「うん、具体的な例を出してくれてありがとう。判り易かったよ。で、そんな事になると確かに大変だけど、何故ハッタが慌てているの?」


「勿論、オティーリエ王女が日本で眠っているからですよ」


「なら、何か対策はあるの?」


「残念ながら当艦の機能では、惑星改造は不可能です。もし日本沈没となれば、当艦を奈良に緊急降下させ、オティーリエ王女の御遺体を回収するしかありません」

そっかー、オティーリエ王女絡みだから慌ててるのか。まぁ、緊急降下する時は、俺の家族も乗せてもらおう。友人達は、タイミング次第だな。


「なら、当面は監視をする程度か。監視装置……、軌道上にあるから、もう監視衛星か……。監視衛星からの情報を分析してるんだろ。この二日の間に、何か異変はあったのか?」


「はい、精密に、綿密に、重箱の隅をつつくが如く監視していますが、何もありません」


「そう、では監視を続けるようにね」


「はい」

という事で、原因不明な話は終わりだな。これからは原因がハッキリしているであろう、マフィアの抗争の話だ。


「俺が聞きたいのは、世界中でマフィアが抗争をしてる件なんだけど、ハッタお前マフィアの金盗んだ?」


「ええ、がっつり、がっほり、大きな組織から一通り全額頂きましたけど、それが何か?」

何か? じゃねぇーよ!! やっぱ、コイツが絡んでたー!


「何で、そんな事すんの!! 世界中が混乱してるじゃん!」


「何故って、犯罪組織に資金を持たせておくと、更なる犯罪を行うからですよ。放置しておくと、更に被害者が増えますからね」


「被害者が増えますからねって、抗争に巻き込まれた被害者もいるじゃん」


「それは各国政府の怠慢ですよ。さっさと犯罪組織を摘発・撲滅していれば、こんな事にはなりませんでした。

 犯罪組織は、存在しているだけで被害者を増やします。そうなると犯罪組織を時間をかけて摘発し、長期間に渡って被害者を増やすか。それとも短期化間で始末し、被害者を少数にするかの二つに一つです」


「そうだとしても、もっと穏便な方法はなかったのか?」


「私は、魔法使いでありませんから、そんな便利な魔法なんて使えませんよ。

 マフィアの資金を対立する組織が盗んだように偽装して、スッカラカンにするのが一番効率が良く効果的でした。実際、マフィアが元気良く襲撃を繰り返しているではありませんか。このまま、一匹残らず駆除出来れば良いんですけどね」


 駆除って、はぁ、駄目だ。軍用AIのハッタとは、敵に対する考え方と被害を最小限に抑える為の決断の速さが違う。平和な日本で生まれ育った俺の言葉とは違って、説得力がある。それは、冷徹に俯瞰した立場の考えなんだろうな。俺には、出来そうもない。

 しかし、この抗争に巻き込まれて傷付いた人々は溜まらないだろうな。確かに各国政府の怠慢だから、批判は政府へ向けられて、存在の知られていない俺達に向かうことは無いだろうが遣る瀬無い。


「それで、盗んだ金はどうしたの?」


「ケイマン諸島に架空名義の口座をいくつか作り分散していたのですが、結構な金額になったのでスイス銀行に『マイケル・イーストビレッジ』の名で架空口座を作り、そこに纏めて入金した在ります。大体80兆ぐらいですかね」


「80兆って、日本の国家予算の三年分ぐらいあるじゃん!」


「いえいえ、マスター。スイス銀行の通貨は日本円では無くて、アメリカドルです。なので、80兆円ではなく80兆ドルですね。日本円にすると約9600兆円です。世界中の悪人から取り上げたとはいえ、随分と貯まりましたね」


 随分と貯まりましたねって気楽に言うけど、いったいどうすんのよ、この金。出所がヤバ過ぎて、使う事も出来ないじゃん。しかも、『マイケル・イーストビレッジ』って、いかにも偽名ですって名前を使い…………。

 うん? イーストビレッジ? イーストは、東。ビレッジは、村。でも、ビレッジって他にも日本語に訳せたハズ。なんだっけ、ああ、そうそう、里とか郷だ。郷だーー!! イーストビレッジ=東郷。つまり俺だ!! しかも、名前はマイケル!! なんてっこった。バレたら、世界中のヒットマンが来るよ。なんて楽しい未来予想図だ。


「いつから計画してた?」


「ヴェネレ号の改修の前からです」

つまり、その頃からネタを仕込んでいたのね……。だから、ヴェネレ号やレボォーグの改造をOKした時に、何か企む表情をしてたのね。


「世間にバレない事を、神様に祈るよ」


「想像上の神に祈っても、ご利益なんてありませんよ」

お前が言うなよ…………。



そんなこんなで俺は、解決しない事態と解決したくない事態に見舞われた。



「未だ、もう一つ報告がありますので、勝手に終わらないで下さい」

えっ、未だあるの?


「マスターと頭のおかしなウォーカーとかいう変態との会話に出てきた、『田中美帆』という名の女性の事です」

おう、そうだった。忘れてたよ。ハッタに、調べてもらおうと思ってたんだ。しかし、ウォーカーさんを頭がおかしいと言い切っちゃったよ。


「田中美帆なる人物から、マスターが東京に赴いている最中、頻繁にメールが届きました」

えっ、そうなの? 俺のスマホでも、メール見れるようにしていたのに通知来なかったよ。


「スパムメールに設定していました」

あっ、そうなんだ。


「メールの内容は、『会って話がしたいの』や『ごめんなさい、あの頃の事は私が悪かったわ』や『もう一度だけ、会って欲しいの』などなど、ストーカー認定間違いなしの内容でした。更には、田中美帆が現在交際している坂東なる人物ですが……」


 ハッタが調べてくれた、美帆と坂東の暮らしぶりや、坂東の言動などがメインスクリーンに映し出される。


「おうっ、これは、想像した以上に酷い」


「対応は、いかがしますか」


「放置で!」


「お優しいことで。そんなに田中美帆なる女性と相性が良かったですか? 具体的にはナニが」


「下世話な事いうなや! 出来るだけ関わりになりたくないの! こちらから何かすれば、関わっちゃうでしょ」


「害虫は、駆除しなければ纏わりつきますよ」


「その時は、それなりの対処するよ。それまで情報だけ集めておいて」


「了解しました。そんなこんなでハッタは、必ず面倒事に発展すると思った」

俺のモノローグ盗らないでよ……。

 


そんなこんなで俺は、解決しない事態と解決したくない事態と関わり合いたくない事態に見舞われた。

かわぐちかいじさんの大ファンです。

「空母いぶき」なんか最高ですね。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 日本の国家予算は今や年間100兆円超えてます…
[一言] こんな金があったら残りの金が無意味に成ってしまったな。
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