20.ロボ太と安藤君の違い
「だからね、たっちゃん。八月の頭に、友達二人連れて遊びに行きたいんだけど良い?」
姪の恵莉から電話があったから何かと思えば、津久留島に遊びに来るという連絡であった。普段はラインで連絡を取るだけだったから、電話がきた時は家族に何かあったのかとまで思ってしまった。
だが、まぁ、遊びに来たいという内容なので、俺の答えは決まっている。
「おっけぇー、3JKね」
「そうそう、JKが三人だよ。嬉でしょ」
「嬉しくて、涙が出そうだよ」
そう、これは嘘偽りの無い気持ちです。だって、姪以外のJKが二人も来るんですから!!
「でしょ、でしょ。でね、たっちゃん、水着買ってくれるって言ったのを覚えてる?」
「おう、Tバックのマイクロビキニ限定でな」
「違うよ、普通のビキニだよ」
「ハ、ハ、冗談、冗談。JKには、ハードル高いもんな。で、三人分の水着代だな」
これは、本当に冗談だよ。未だ15歳の姪に、Tバックのマイクロビキニを強要するほど鬼畜ではない。
「ありがとう、たっちゃん。ちょっと馬鹿にされた気がするけど、大スキー」
「おう、今、船に乗ってるから、また後で送るよ」
隣にいる人物から、肩をちょんちょんと合図があったので、恵莉からの電話を切る。
「マスター、予定海域に入りました。船速を40ノット(約時速74Km)まで上げます」
平坦な口調で話しかけたのは、男性型アンドロイド安藤ロベルト君。成後24日。
アンドロイドネタのオチを言い当てたら、ハッタが拗ねてしまい。男性型を安藤ロイド、女性型を安藤ロイ子と名付けるというから、駄目だしをして俺が名付け直した。
因みに女性型の名は、安藤カテジナ。二人は、ヨーロッパ系のハーフの兄妹という設定だ。
ハッタと改良の話をしてから13日後の今日は、チューンが終わったヴェネレ号のテスト航行をしていて、ロベルト君にも同行してナビをしてもらっている。ヴェネレ号の調子も良い ハッタが言っていた通りに優秀なアンドロイドだ。何と言っても会話が出来るので、意思の疎通やり易くて助かる。
ロボ太達は、こちらの言葉を理解しているが、発声機能を持っていない為、俄かマスターの俺には少々戸惑うことがある。何でも、ロボ太が発声機能を持たないのは、指示・命令を明確に出させる為の訓練の一環としてだそうだ。ロボ太の行動が適切でないときは、命令者の責任となるらしい。
ハッタのグダグタ具合とロボ太の愛嬌のある姿を見て、あまり感じないが軍艦の装備品だもんな。
「右前方に阿多田島が見えてきました。左前方・10時方向には、大型船が南へ直進しているのが見えます。塗装から、海上自衛隊の艦船と判断します」
「このままじゃ、自衛隊に近付き過ぎるな。少し右へ舵を切って、間隔を空けよう」
と言っても、舵を握っているのは俺だけどね。
「船速35ノットに達しました」
今日のテストは、改良時の目標である船速40ノット出せるかどうかと、燃費計測が目的だ。その為、津久留島から時間をかけて厳島付近までやってきた。
空は晴れているし、波も穏やか、ヴェネレ号も快調に進み、気持ちイイ!!
「左舷、海上自衛隊艦船を抜けます。船速40ノットに達しました」
おっ、目標達成か。エンジンから、変な振動も無い。ここまでの加速も以前よりもスムーズで早い。うん、良い仕事してくれたね。でも、自衛隊船の甲板に大勢人だかりが出来ているのは、すっ飛ばしていくヴェネレ号を見て呆れているのだろうな。無駄に燃料を使ってやがるって。
常識的には、30ノットを超えると燃費がとたんに悪くなる。それ以上の船速で突っ走っているヴェネレ号の船長は、どアホと言われても仕方がない。って、船長は俺だ。
暫く40ノットをキープして進み、問題無い事を確認したので……、
「目標速度達成、船速20ノットに減速。横島にて左回頭。津久留島へ帰島します」
非常識な速度を出すので、安全を考慮してロベルトに来てもらったが、俺一人でも大丈夫だったね、アンドロイドのみんな、グッジョブ!!
「テストの結果は、良好です。目視によるチェックですが、船体およびエンジンに異常なし。燃費も予定通り4割減です」
「おお、凄いじゃん。ここまで、上手くいくとは思わなかったよ」
「私が、製作立案・現場指揮をしたのですから、当然です」
とスクリーンの中のハッタがメガネをクイっと上げる。何故か今日は、秘書風スカートスーツにメガネの装いだ。まぁ、恐らくだが、出来る女を演出しているのだろう。ただ、メイド服以上にコスプレチックに思えるのが謎だ。
「しかしながら、幾つかの改善点もあります。集団にて分担作業を行う上で、重複した作業を行うなどの情報並列化のミスが見受けられました。これらは自己判断領域が、ロボ太の経験アーカブの領域を逸脱しているのが原因だと思います」
「そうなの、ロボ太達も色々とやってくれているし、何でも出来そうだけど」
うん、本当にすげーんだよ、ロボ太って。
実は、踊りも出来るんだよ。以前に、キレッキレのランニングマンを二十台ぐらいが並んでやってくれた時は、大興奮して一緒に踊ちゃったよ。勿論、俺が一番ヘタだったけどね。まぁ、各家庭に一台は欲しくなるヤツさ。
「ロボ太の行動は、全てマニュアルに沿って行われています。多様な機器の設置、施設の補修、艦船の修復作業。全ては、過去に於いて行われた作業を最適化して、ロボ太の作業マニュアルとして保存されています。
しかし今回のヴェネレ号は、基本となる設計図と改良後の設計図を比較しながら、変更点のみを改良しなければなりません。よって高度な自己判断が、必要となりました」
「そうかなぁ~、十分な気がするけどね」
えっと、ランニングマンは、どのマニュアルに入っているんですか?
「そうですか。留守番係りのロベルトとカテジナが、かかってきた電話に非常に誤解を招くような応対をしたり。宇宙にて、宇宙海賊の襲撃時にオペレーターのアンドロイドが適切に処理できずに攻撃を受けても良いと言うのであれば、私も良いとしましょう」
「いえ、不十分でした。サーセン」
うん、どっちも俺の人生が終わる可能性がある。
「そうでしょう、そうでしょう。と言う訳で、前回の反省点を見直して、次はレヴォーグの改良をしましょう。
なぁに、大丈夫ですよ。誰も見た事の無いような、キレッキレのマシーンに仕上げて見せます」
おっ、レヴォーグね。面白いやろう、やろう。ヴェネレ号が、俺が思った以上の仕上がりだし、レヴォーグもやらせよう。
「いいね。でも、どこで作業すんのさ。津久留島には、持って来れないよ」
「ご心配無く。作業が出来る大きさの貸倉庫を、本土側に既に抑えてあります」
「素早いのは良いんだけど、俺が駄目って言ったらどうするつもりだったのさ」
「勿論、許可をいただけるまで24時間、昼夜を問わず説得しました」
「それって、説得というより嫌がらせだよね」
「そうとも言います」
認めやがった……。まぁ、反対する気なかったから良いんだけどね。それよりも、最後にニヤと笑ったのは何故?
館に戻ると、スマホに恵莉から『栄一さんカモン!』とラインが入っていた。忘れていた訳ではないのだが、もう随分と時間が経っていたので焦れてしまったのだろう、露骨な催促がきた。
これ以上待たせて拗ねられても面倒なので、PayPayにて栄一さんを五人ばかり送りつけると直ぐに電話がかかってきた。
「たっちゃん、五万も入ってたよ。金額を間違えてない? もう返さないけど」
「間違ってはおらん。JK三人分の水着やら浮き輪・ビーチボール・日焼け止めなどなど必要な物一式買うがいい~。サービス次第では、もっと融資してもええんやで」
「ごめんない、お母様にふしだらな娘と叱責されますので、それ以上は……」
「サーセン。義姉には、今の発言内緒で」
「あははは、たっちゃんカッコワルー。じぁ、また連絡するね。バイバイ」
と、元気よく別れの言葉を残し電話が切れた。
そんなこんなで俺は、3JKとの夏休みを心待ちにしていた。
呉市の「アレイからすこじま」に行くと、目の前にドドンと海上自衛隊の護衛艦や潜水艦が見れます。
潜水艦を激写していた僕は、「スパイ容疑で逮捕されないかな」と斜め下の心配をしながらビクついていました。