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多分……、宇宙もの……。  作者: わだつみ
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16.先人の言葉

ファーストコンタクトを終えてからのハッタの動きは素早かった。翌日には洞窟から、ロボ太が何体いるの? ってぐらいにワラワラと出て来て工事を始めた。

 地上部のアンテナを館の居間まで伸張し設置する者、洞窟の入り口に自動認識扉を設置する者、洞窟から館までの道を舗装整備する者など、多岐にわたってうじゃうじゃと何かをしている。


 まぁ、津久留島には俺しか居ないから良いんだけどね。もし誰かに見られても、新型のアシモですと言い張ればなんとかなりそうだし。因みにロボ太がアシモに似ているのは偶然らしい。

 理論的に無駄を省き効率的な運用を考慮すれば、優れた製品のデザインは自然と似てくるとハッタが言っていた。そして、流石はホンダとも。


 そして、ハッタ自身もネットに繋がると瞬く間に必要書類を作り上げた。館の居間にあるプリンターをWI-FIで接続しフル稼働させながら。

 その書類一式と印鑑を持った俺は、役所廻りに銀行の法人口座開設と走り回る事となった。しかも手続きの殆どが地元で出来ず、レヴォーグに乗って県庁所在地まで行って為さねばならなかったのでめんどくさい事この上なし。


 しかし、その甲斐あってか一週間もしない内に『量子技研工業株式会社』なる、怪しげなペーパーカンパニーが出来上がった。

 ネットバンキングを利用する為、法人口座の管理はハッタが行ない、俺のパソコンからはアクセスを禁じられた。

「専門の業者に依頼して強固なセキュリティー管理をしなければ、あっという間に侵入され、残高0円になっちゃいますよ」

と言われれば、

「管理お願いします」

としか言えなかった。


 だって当面の運用資金融資との名目で、俺の資産の6割を超す数の栄一さんを法人口座に移したからだ。随分と栄一さんの数が減り寂しくなったが、それでも余裕で遊んで暮らせるだけあるから恐ろしい。

 もっともハッタは、まだまだ使うかもしれないと言ってたが……。大体考えてみれば、宇宙戦艦を個人資産で修復させようなんて土台無理な話しだ。俺が大勢の栄一さんを抱え込んでいなければ、ハッタはどうするつもりだったのだろうか。

 そう考えると、老後を迎えられるだけの金額が残りますようにと願うばかりである……。



「マスターが、すかんぴんウォークの荒唐無稽な若者であったとしても、計画自体は少し遅延するだけでさほど変わりませんでしたよ」

 何を言っているのか良く判らないが、きっとナチュラルに毒を吐いているのだろう。


「現在も、マスターの融資した資金でネット株式投資をしていますが、資金が無ければ無いでマスターに借金をしてもらい、それを掛け金にして財を成す予定でしたから」

 しれっと、俺の人生を掛け金に変える事を言いやがった。いつの時も持ってて良かったと思うのは、栄一さんとゴムだよね。もっとも、ロト7が当たっていなければ、俺はここに居ないのだが。


「24時間、365日、一時も休まずフル稼働している私が、全世界の監視網から情報を集め状況予測をし株式取引をするのです。財を成すなど簡単な事です。今も、世界中の市場で利益をだしていますよ」


「簡単な事ですって言っているけど、相場の変動なんてハッタでも予測出来ないでしょ。それと、ブラックな働かせ方をさせてるみたいな表現ヤメテ」


「いえいえ、簡単な事です。売買する銘柄の情報を、イロイロとネットで流してやれば勝手に下がったり上がったりするので、適価にて売買すれば瞬く間に莫大な資産を作り上げるという寸法です」


「なんか怖い事言ってるが、それって価格操作じゃねぇの」


「大丈夫です。幾つものサーバーを経由していますので追跡できませんから。しかも嘘はついていません。少々誤解するような文面になっているかもしれませんが」


 やっぱ、それ駄目じゃねぇ。と思いもするが、何をしているか把握できないので、取り敢えず任してみる事とした。というか、ハッタを制御できる気がしないので、目を逸らしてしまった。



「以上が、レアメタルの購入に関する進捗具合です」


 今俺は、総旗艦フラデツ・クラーロヴェーに来てハッタからあれやこれやと報告を受けている最中である。スクリーンに資料を映しながらの説明は、判り易くて助かる。


「うん、動き始めたばかりなのに順調だよね。それは良いんだけど、わざわざ高額な見積もりを出した会社から買うの?」

 そうなのである。普通、安い会社の方が良くないか。


 ハッタは信用できそうな商社をいくつかピックアップし、レアメタル購入予定量の見積もり金額と納品予定日を出してもらっていた。支払いは、全額先払いするとの一言を添えて。

 コロナ不況の中、全額先払いをしてくれるなら、少々怪しげな新興の会社でも構わぬとばかりに、全社とも非常に丁寧な見積もりを出していただいた。その中で、価格の高かった三社から購入を決めていた。


「価格の安い業者は、送料を少しでも節約するために共同運航の貨物船を利用するのでしょう。到着予定日の幅を長めに取っています。

 今回、購入を決めた業者は、到着予定日の幅を短めにしていますから専用の貨物を運航しているのでしょう。それだけ、会社の取引規模も大きく、安定しているという事です」


「なるほど、納得の理由だ」

でも、ハッタさん。貴方、宇宙戦艦の制御AIで、航法、戦術、戦略用でしょ。なんで、商売や株取引に詳しいの?


「ラジオっ子でしたから」

そうですか、頼もしいです……。


「運搬業者の船が、レアメタルを届けに8月の終わりに来ます。それと四日後には、大量のシリコンが届きますので港の倉庫に搬入をお願いします」

 

「シリコンは大量と言っても台車に載せて重機で引っ張れば、岸壁から倉庫までなら何とかなるけど、レアメタルは俺一人では運べないよ。人前で、ロボ太を使う訳にもいかないでしょ」

そうなんだよ、フォークリフトが有れば何とかなると思うけど無いからね。


「その事につきましては、二段階の対応策を考えています。


 先ずマスターの館に地下室を作り、今後必要となる施設を作ります。その際出た土砂を港に運び、貨物船が接岸しやすいように今の岸壁を拡張します。そうすれば港にレアメタルを一時的に置くことが出来ますし、運搬船が去った後にロボ太に当艦の装備にて運べばよいでしょう」


「岸壁を拡張するだけの土砂って、館の地下をどれだけ掘るつもりなの!」

頼もしいと思ったのは、嘘だ! とんでもない事言いだした。岸壁だって、勝手に拡張しちゃダメでしょ。ちゃんと許可取らないと。



「地下三階を予定してますが天井を高くしますので、マスターの感覚では地下八階程度の深さかと」


「地下八階って、無茶苦茶深いじゃん。そこまで掘って、何作るの」

そう、そこだ! きちんと確認しておかないと。


「地下三階には、家庭用小型核融合自家発電機を設置し、地下二階には……」


「ちょっと待って! さらっと言ったれけど核融合発電機って言ったよね。そんな巨大な物、地下に作れないでしょ。それに作ってどうするの!」


「家庭用小型核融合自家発電機と申しました。大きさは、左程大きくないですよ。精々ミニバン程度です。理由につきましては、他の施設と合わせて説明致します。

 地下二階は、逆浸透膜法式の淡水施設と水素製造施設を作ります。当艦を航行させるのに、大量の淡水と水素が必要になりますから。

 水素については当艦でも製造できますが、その為には淡水が必要で、淡水施設を稼働するには家庭用小型核融合自家発電機が必要となります。また、家庭用小型核融合自家発電機を使用するには水素が必要なので、淡水施設と水素製造施設が必要となります」

卵が先か、鶏が先かって話になってるな。

 そして、核融合発電機って、未だ夢の技術なのに家庭用にまで小型化出来るんだぁ~と、やや遠い目になりながらも、そりゃ必要だなと納得した俺がいた。


「成程、良く判ったよ。この館の水と電気を使うと、使用料金が大変な事になちゃうもんな」


「マスターの館でも使用できるように配管・配線しますから、水道・電気代が基本料金のみになりますね」


「それは嬉しいね……。スケールの大きな話をしているのに、家計を気にしてくれて助かるよ……」

ほんと自分が小さく感じる。あっ、小さくって言っても愚息の事じゃないよ。


「いえいえ、どういたしまして。で、地下一階が大本命の固定型ゲート式亜空間移動装置を接地します」


これはアレかな。ファンタジーに良く出る転送系の門かな。


「えーと、ゲート式亜空間移動装置って事は、この館から遠くへ一瞬で移動できる装置と考えていいのかな」


「ええ、そうです。遠くと言っても、精々火星ぐらいまでですけど」


「すっげーぇ! いや、火星で十分遠いよ! あっ、もう一つは何処に設置するの」


「もう、既に当艦に設置してあります。当艦が宇宙空間に上がると、この島に戻る為にイチイチ大気圏降下するのは効率的でないので、移動に使っていただきます」


「おー、考えてくれてて嬉しいよ」


 ちょっとだけ、いろいろと萎えてたけど、一気に元気を取り戻しましたよー! 良し、調子に乗って少しリクエストしてみよう。


「なら、ついでに、この館のお風呂の海側の壁をガラス張りのオーシャンビューに出来ないかな。無駄に大きいのに、窓が小さくて閉塞感が有るんだよね」


「それぐらいなら簡単に出来ますよ。丁度良い材料もありますし」


「あざぁーす」

この時俺は、順調に進む話に浮かれ、岸壁拡張の事を確認するのを忘れていた。



 そんなこんなで俺は、宇宙探検旅行へ向けて小さな一歩を踏み出した。

「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」BY アームストロング

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