依頼
友人から電話があった。
どうやら深刻な様子で、頼み事を聞いてくれと言う。私は渋々了承した。
しばらく経って、彼女がうちに来た。
「どうぞ、入って」
「おじゃましまーす...うわ、何この匂い...」
「ごめんね、片付け苦手でゴミが溜まってるのよ」
玄関には大量のゴミ袋が積まれており、私は慣れたが少々匂いがきつい。
「まったく、いい加減片付けなよ」
「おっしゃる通りです、ははは...」
とりあえずリビングに彼女を座らせる。
「それで、頼み事って?」
「うん...そのことなんだけど...」
苦しい表情をして歯切れも悪い。
どうやらよほど深刻なものらしい。
「...私、実は○○君と付き合ってるんだけどさ」
「............はい?」
拍子抜けした。ただの恋愛相談なら他所に頼んでくれ。
「あの、恋愛相談なら他の人を当たってくれないかな」
「いや、違うの」
「彼をね、殺してほしいの」
「............」
言葉が出なかった。何を言ってるのだこいつは。
私は動揺しつつも、どうにか声を絞り出した。
「えっとあの、それは一体どうして...?」
「そんなの簡単よ、浮気よ浮気」
確かに簡単だった。そういや彼はかなりの浮気性だった。 何股も平気でやる男らしい。
しかしそれでも、殺人だなんてバカげている。
「やっぱり無理だよ、殺すなんて」
「お願い!あなたしかいないの」
「私が殺してどうするのよ、罪をなすりつけるつもり?」
「そこは私が上手くやるから、殺すとこだけお願い」
どう考えても私にメリットがない。馬鹿馬鹿しい。
「悪いけど帰ってくれないかしら」
「どうして!上手くやるって言ってるじゃん!なんで引き受けてくれないの!?」
「私には殺すなんて無理だからよ」
「無理じゃないよ!やってよ!」
最後まで騒ぎ立てる彼女を、どうにか外へ押し出した。
しばらくは玄関の扉を叩く音がしていたが、30分程すると鳴り止んだ。諦めてくれたようだ。
まったく、私には彼を殺すなんて無理なのに。
だって彼はそこのゴミ袋に入っているのだから。