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12、自然の申し子

ザザッ ザザッ・・

今や、真一たちを乗せた二頭は、木々の生い茂る薄暗い山中を突っ切って登っていた。

「平田君」

明るい呼びかけに、隣に目をやった真一は驚いた。だいぶ慣れたのか、綾乃は片腕を剣獅子の首に回し、こちらを向いて手を振っていのだ。

「やるなあ」

自分もと手を振った途端、小枝が激しく頬を叩いた。

「いてて」

「油断めされるな、剣士殿、さあ、しっかりおつかまりを!」

目の前に緑色の高いフェンスが見え、真一は慌てて、逞しい首にしがみついた。

「うわー」

木々の梢を越えるほどに高くジャンプした二頭は、動物園の裏口に降り立った。


開園時間が迫っているはずだが、園内は静まり返っていた。飼育員も動物たちの姿も見えない。視線を回せば、鳥類だけは檻籠の中にいるらしく、高い枝にとまったコンドルが、じっとこちらを見ていた。

二頭の獅子は先に進んだ。気配を感じたのか、園内のあちらこちらから、低い呻き声のような動物の鳴き声が聞こえた。と、向こうにちらりと人影が・・・。二頭はそちらに駆けだした。


目の前には、重そうなバケツを抱えた園長が、忙しそうに歩いていた。

「園長さん」

後ろから真一が声をかけた。園長は振り返りながら、目を大きく見開いてバケツを落とした。中から、リンゴやら人参のかけらがゴロゴロとこぼれ出た。

「あわわわ」

園長は池の鯉のように口をぱくつかせている。その人間くさい驚き方からみると、まだあの隕石を見ていなかった様子である。博物館の車も山の中までは回ってこなかったのだ。


「大丈夫、私たちよ」

綾乃が優しく声をかけた。

焦点の定まらない目付きをしていた園長は、ようやく二人に気がついた。

「き、君たち、一体全体、これはどうしたことか。それに、真一君の跨っているのは、あのライオンではないか。やや!綾乃ちゃんもあのライオンに。わしは夢でも見ているのか」

園長は頬をつねった。

「あいたた」

強くつねりすぎたのか、太った頬には血の滲みができていた。

「こりゃ現実だ。真一君、どうなっている」

二頭の獅子を見つめる園長の高ぶった声に、真一の胸の奥がじんわりと温かくなった。

「普通に気持ちを分かちあえる人がいる。それだけなのに、なんて素敵なんだろう」

しみじみとしたつぶやきに、口を結んだ綾乃が頷いた。


二人は獅子から降りて、これまでのことを短く説明した。

園長からの話では、飼育員たちは、昨日から動物園に来なくなってしまい、連絡も取れなくなってしまったとのこと。そのせいで開園するわけにもいかず、一人で管理舎にいる動物たちの世話をしていたのだ。

話し終えた後で、園長は守護獅子に近づき、その柔らかいたてがみに頬ずりした。

「おまえさんが、そんなごたいそうなライオンだったとはなあ」


「園長よ、時間がない。力を貸してほしい」

守護獅子が口を開いた。

「こいつはたまげた、おまえさん、わしにも口がきけるのか。おうおう、なんでも言ってみい。他でもない守護獅子の申し出だ」

真一と綾乃は顔を見合わせた。一体、守護獅子は何をしようというのだろう。


「ここにいる動物たちを、外に解放してくれ」

園長は、再び頬をつねった。

「動物たちを解放する?まさか園の外にかい?」

「人間を、邪神の呼び声に従わせなくするために必要なのだ」

話を聞いた二人も驚いた。サファリパークでもあるまいし、動物たちが町の中を歩き回るなど、邪神以上に大きな問題になるのでは・・・。

さらに驚いたのは、目に涙を浮かべた園長の返事だった。

「素敵なことだ。動物たちが、人間を救ってくれるなんて。ようし、その申し出、了解した」

「感謝する」

守護獅子が首を大きく揺らした。そして鋭い牙を剥き出し、雷の轟きのような吠え声をたてた。それに応えるように、園内の管理舎に入っている動物たちの鳴き声が、がやがやと響いた。

「自然の申し子たちも協力してくれるといっている。さあ、園長よ」

「おお、わかった」

園長は、ジャラジャラと腰にぶら下げていた鍵の束を、真一と綾乃に分けた。

「君たちも手伝ってくれ、鍵に書かれている数字は、管理舎にぶら下がっているプレートナンバーと同じだ」


ずしりと重い鍵の束を握りしめ、三人は動物園を駆け回った。

真一の鍵には、白熊の管理舎のものが混じっていたが、見上げるような白熊は、太い腕を振り上げることもなく、おとなしく首を振って出てきた。


園の中央の芝生広場には、何百匹もの動物が勢揃いした。皆、鳴き声をたてることなく、前に立つ真一たちに頭を下げている。

「剣士殿、お声かけを」

守護獅子がたてがみを真一の胸に撫でつけた。強く握った真一の拳が、空に向かって突き出された。

「我が兄弟たちよ、内に秘めたる野生の息吹を放ちたまえ!」

高らかに言い放った後で真一は驚いた。まさか自分が、そんなことをするなど思ってもいなかったのだ。

「さすが剣士殿。皆々の眠っていた命が目覚めましたぞ」

そよ風に揺れていた動物たちの毛並みが引き締まっていた。

先ほどまで感じなかった息遣いが熱いほどに伝わってくる。首を低く伸ばし、今にも走りだしそうに身構えている。


「お二人様、参りましょう!」

真一と綾乃が跨った途端、ふたたび獅子たちは走りはじめた。

動物たちは後を追ってきている。翼のあるものは空に舞い上がった。

隣に、カモシカが蹄を蹴り立てて走り込んできた。横目に見つめる瞳には、赤い炎が燃え盛っているようだ。ずっと後ろでは、ペンギンたちが懸命に歩いている。空には、白鳥やフラミンゴ、大鷲などの色とりどりの翼が広がっている。


「なんて雄壮で、鮮やかなんだ」

「忘れていた本当の命を取り戻したみたい」 

二人は、窮屈な家から放たれた動物たちに心を奪われながらも、また緑のフェンスが目の前にあることに気づき、慌てて太い首に腕を回した。


ドシャーン!

爆音のような響きに振り返れば、今飛び越えたばかりのフェンスが、前に押し倒され、象とサイが土煙をあげて、突進してくるところだった。

それになんと、象の背には飾り用の首輪にしがみついた園長が跨っているではないか。

「ひゃっほー、わしゃ、子供の頃からこれをやりたかったんだ!」

「いいぞ、園長さん」

真一は、エールを送るように片手を振り上げた。胸の奥に熱い力が沸いてくるようだった。隣を走る綾乃は目を輝かせ、紅潮した頬に微笑みを浮かべていた。





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