第9話 バイト先の彼女と贈り相手のその後
あれからというもの毎日、本を返すたびに新しい本を借りるので、必然と斎藤と話す回数は増えていった。
かといって特に変化はなかったが、一つあったとすれば、どうしても夜遅くまで起きてしまうので、毎回本を返すたびに小言をちくちくと言われるようになったくらいだ。
ただ、その小言も心配から来ているとなると、反論する気にはなれず、毎回大人しく聞くのが毎日の日常になり始めていた。
「随分と眠そうですね」
お客さんが全然来ず、暇と眠気のせいでバイト中にあくびをしていると、久しぶりにシフトが被った柊さんが声をかけてきた。
「ええ、最近ハマっているものがありまして、少し寝不足で……」
「そうなんですか、でも身体には気をつけたほうがいいですよ?若くても体調を崩すときは崩しますから」
「同じようなことをこの前も別な人に言われました」
「きっと、その人もあなたのことが心配なんでしょうね」
斎藤のあの口ぶりはなんというか母親が息子に言う感じに近い。
母親というにはあまりに若々しく可愛らしいが、心配そうにして注意してくれる彼女のことを拒絶する気にはなれなかった。
「そうなんでしょうね。少し口うるさいと思いはしますが、大人しく聞いていますよ」
「どうせ、聞くだけで反省はしないんでしょう?」
肩をすぼめてみせると、はぁというため息とともにそう返された。
「まあまあ、そういえばお礼のプレゼントは気に入ってもらえましたか?」
これ以上この話題を続けても俺が責められ続けそうなので、気になっていた話題を振ることにした。
「ええ、その節はありがとうございました。美味しいと言って頂けたので、多分気に入ってはくれたと思います」
「そうですか、それならよかった」
ぺこりと頭を下げて礼を言ってくる柊さん。わざわざ頭を下げるあたりが彼女らしい。
随分と不安そうだったので気になっていたが無事成功したようで、内心でほっと胸を撫で下ろした。
「それで拾ってくれた人って一体どんな人だったんですか?」
「いい人でしたよ。実はあれから多少交流を持つようになったんですが、素直で優しい人といった感じですかね。……たまに聞く耳を持たない時はありますが」
やれやれといった感じで小さく呆れたように息を吐く柊さん。
ため息を吐いてはいたが、その姿はどこか楽しげな感じにも見えた。
柊さんの意外な反応につい凝視してしまう。
「……なんですか?」
「いや、意外と男の人と交流を持つんだなと思いまして。てっきり人との関わりとか毛嫌いしているかと思ってました」
俺と話しているのは仕事の関係があるため止むを得ず話しているにすぎないだけだろうし、他の人と親しく話している姿は見かけたことがなかった。
「あー、なるほど。確かに基本的に異性との関わりは苦手で断ってますから、田中さんの言う通りですよ。ただあの人はなんていうか下心がないといいますか、私自身にはあまり興味を持っていないので安心して話せるんですよね」
そう語る柊さんの表情には普段の無愛想さは無く、ほんのりと柔らかい笑みが浮かんでいた。
(へぇ、柊さんもこういう顔をするんだ)
滅多に見せない柔らかい笑みは、彼女の地味さを補ってあまり余るほどの魅力を兼ね備えていて、これを見たら大抵の男は落ちるだろうな、とふと思ってしまった。
彼女が目立たない格好をしているにも関わらず、あのモテるような発言をしていたので気になっていたが、きっとこの笑顔が理由なのだろう。
「それは、よかったですね。いい友人が出来たようで何よりです」
彼女の性格は初対面の人には壁を感じやすいものであるので、こんな笑みを見せられるような人なら本当にいい人に違いない。
祝福のつもりでそう言うと、柊さんは目をぱちくりとさせて固まった。
「友人……。こういうのを友人というのですね」
誰に言うでもなくほんの少しだけ声を弾ませながらポツリと呟くと、彼女は穏やかに口元を緩めていた。
気付いたら日刊ランキング4位になっていました!
信じられず二度見してしまいました。嬉しすぎて朝から更新です(笑)
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