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【斎藤さん視点】第18話 学校の彼の連絡先

「じゃあ、お前の家に行くか」


 早速今日から来るつもりらしい。別に何かがあるわけではないけれど、なんとなく少し緊張してくる。誘ったのはこっちなのだからこんな気持ちになる必要なんてないはずなのに。落ち着きなくそわそわしそうになる心を抑えて平静を装う。


「ええ……あ、ちょっと待ってください」


「どうした?」


「あの……連絡先教えて下さい」


 連絡先を聞いていないことに気付き、慌てて引き止める。いつも連絡先は聞かれる側だったので、自分から尋ねることに慣れていない。しかも相手が異性なのでなんとなく少し恥ずかしく、声が小さくなってしまう。


 ほんの少し頰に熱が篭るのを感じながらちらりと彼の様子を伺うと、連絡先を聞かれた理由が分からないのか首を傾げた。


「は?なんで?」


「毎日一緒に帰れるわけではないでしょう?用事がある時は連絡して下さい。その日は学校に一冊持っていきますので」


 伝えたい時に伝えられないのは何かと不便。彼の連絡先があればそのようなことはなくなるだろう。この前みたいに体調が悪い時にも行けないことを知らせることが出来るので、連絡先を交換しておくに越したことはない。……それに、交換したら夜でも一緒に話すことが出来るようになるし。


 私が理由を説明すると、納得したように頷いてスマホを取り出して某メッセージアプリのQRコードを見せてきた。


「ああ、なるほどな、ほらよ」


 彼の見せてくれた画像を読み込もうと自分のスマホをかざした時、彼の名前に目がいった。


「ありがとうございます……っえ?田中湊?」


 思わず自分の目を疑い、何度も彼のスマホの画面を確認する。だが、その名前は変わることなく『田中湊』と書かれたままだった。


 田中湊。確か、バイトの彼の名前も田中湊だったはず。まさか、同じ人?え、そんなことある?

 怪しまれない程度に彼の顔を見るけれど、彼は私が驚いていることに何も感じていないようで、不思議そうにきょとんとしている。


「ん?ああ、そうだぞ。言ってなかったか?」


「……ええ、聞いてませんよ。話すようになっても全然自己紹介してくれませんでしたし、こちらとしても特に興味なかったので」


 それほど興味もなかったし、そのうちでいいか。と後回しにしていたけれど、まさか同姓同名なんて。そんな偶然ある?本当に同じ人なの?それとも別人?

 何度彼の顔を見ても、いまいちピンとこない。そもそもにバイトの田中くんのことをまじまじと見たことがないので、比較しにくい。切れ目の綺麗な瞳は似ているような気もするけれど、確信は持てない。


 ふと、バイトのことを聞いてみようかな?と思う。バイトの話をすれば本人がどうかは確かめられる。だけどそれは同時に、自分もバイトをしていることを明かすことになってしまう。

 事情が事情なのでバイトをしていることをバレるのは避けたい。とりあえずはバイトの時に田中くんのことを観察して同一人物かを確かめてみるとしよう。考えるのはそれからにすることにした。


「そうかよ。じゃあ、改めて俺が田中湊だ。よろしくな」


「はい、よろしくお願いします」


 田中くん……か。もし万が一、彼がバイトの田中くんと一緒だったら……うん、考えるのはやめておこう。精神的によろしくない。気付いていないとはいえ、本人に思ってることをあれこれ話していたなんて考えたくない。想像しただけで恥ずかしくて死ねる。まだ決まったわけではないんだから後回しだ。顔が熱くなりそうなり、慌てて頭の片隅に追いやった。


 改めて正面から向き合うと、彼はなんともいえない複雑な表情を浮かべて手に持つスマホを見ていた。妙な様子につい気になる。


「どうしました?」


「いや、この学校の男子が喉から手が出るほど欲しがってる連絡先がこんなに呆気なく手に入るなんて、と思ってな」


「広めないでくださいよ?」


「しねえよ。俺が持ってるって知られた時点で俺が睨まれるわ。そんな視線には耐えられねえよ」


 どうやら私と連絡先を交換したことが周りにバレることを危惧していたらしい。連絡先を交換するということは、多少なりとも親しいことを表すもの。なのでバレれば何かしら言われることは間違いない。特に私の場合は異性に教えていないのでなおさらだ。彼が心配するのも頷ける。

 まあ、私も誰にも言わないつもりだし、彼も目立ちたくない人であるからバラすようなことはしないだろう。


「じゃあもう行くぞ。早く読みたい」


「もう、本は逃げませんよ?」


 よほど本を読めるのが楽しみならしい。無愛想な表情を綻ばせながら急かしてくる。幼い少年がおもちゃを待ちきれなくて胸を膨らませているようで、なんだか面白い。まったくぶれない本好きの彼に、思わず笑みが溢れた。


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