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第7話 学校一の美少女から本を借りた

 久しぶりにバイトがなく、暇だったので図書館で本を読んでいたら、斎藤が図書館にやってきた。

 扉を開ける音で、入ってきた時には既に気付いていたが、別に話す必要もないだろうと気にも留めていなかった。


 まさか自分に向こうから話しかけてくるとは思わず、しばらく呆けて固まってしまった。


「ああ、こういう題名なんだが知ってる?」


 手に持っていた本を持ち上げて、見えるようにする。


「ええ、まあ」


 意外だった。この本はそれほど有名なものではないので、作者のファンか、もしくはこういうサスペンスものが好きでないと知らないような本だ。

 それを知っているということは、彼女も相当な本好きなのだろう。


「その作品面白いですよね。決して王道ではなくて意外性の連続のサスペンスもので、初めて読んだときは引き込まれて一気読みしたものです」


 どうやら、この本がお気に入りならしい。それを俺が読んでいたから話しかけにきたのだろう。

 饒舌に話す斎藤は、無表情だが心なしか目を輝かせていて、好きという気持ちがひしひしと伝わってくる。


「この本、好きなんだな」


「あ…………」


 俺の言葉にかあっと頰を薄く赤らめる斎藤。自分が無意識に熱弁していたことに気づいたらしい。

 コホンッと咳払いをして気を取り直したことを主張している。

 まだ微妙に頰は赤いままなので、あまり変わった風には見えなかった。

 

「好きですけど?悪いですか?」


 ツンと素っ気ない声でこれ以上触れるな、と暗に釘を刺された気がした。


「別に。俺も本を読むのは好きだしな」


 さすがに機嫌を損なわせるわけにはいかないので、肩を竦めて大人しくしておいた。


「そういう系の本が好きならおすすめのがありますよ。系統としては近いのでその本が好きなら合うと思います」


「へー、そんな本があるのか!気になるな。この図書館に置いてあるかな……」


 この本はなかなか面白くて今最もハマっている本なのだ。これに似ている本で面白いと聞けば気になってくる。

 本を探しに席を立つか迷ったその時だった。


「……よかったら貸しましょうか?今、私持っているので」


「へ?」


 まさかの提案に思わず固まってしまう。


「……別にいらないならいいですけど」


「え、あ、いや借りる!あるならぜひ貸してくれ」


 パチっと目を瞬かせて固まって黙っているのを拒否と受け取ったのか、ツンとした口調で諦めようとしたので、慌てて引き止めた。


「……はい、これです」


「ありがとな」


 ゴソゴソと鞄の中から一冊の本を差し出してきたので、受け取る。

 パッと見た感じは確かに似た系統の本みたいだ。


 それにしてもまさか縁なんてないと思っていた彼女から本を借りることになるとは。

 奇妙な巡り合わせだな、と思いながら受け取った本をじっと見つめていると声をかけられた。


「どうかしたんですか?」


「いや、学校一の美少女から物を借りるなんて滅多に出来ない経験だなって思ってさ」


「……それやめて下さい、本当に」


 俺が学校一の美少女と口にすると分かりやすく白い頰が赤みを帯びた。


 学校一の美少女なんて呼ばれているのは恥ずかしくて仕方がないらしい。俺だって彼女と同じ立場になれば間違いなく嫌なので当たり前と言えば当たり前であるが。

 

 頬を紅潮させてちょっぴり涙目で恨みがましげに見上げてくる斎藤は、普段の澄ました姿と違って余裕なさげで、少しからかいたい気持ちが湧き起こってくる。

 まあ、本人は嫌がっているので、さすがに実際にからかいはしないが。


「悪かった、もう言わない。本は貸してくれて本当にありがとうな。読んだら返す」


「はい、期限は気にせずゆっくり読んで下さい」


 そこまで言葉を交わすとあとは特に話すことはなく、俺たちは別れてそれぞれの席で本を読み進めた。


 家に帰り、早速借りた本を読み始める。

 

「おお!めっちゃ面白いな!」


 確かに斎藤が言っていた通り、俺がさっきまで読んでいた本と内容というか雰囲気が似ていてとても俺好みの本だった。

 ページをめくる手が止まらず、ぐんぐん物語に引き込まれてしまう。

 この本を教えてくれた彼女に感謝しつつ、俺は本を読み進めた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 本の題名は、適当な架空の名前をでっち上げるか、書名を出さない表現にした方がいいと思う。 「〇〇」のような表記が出てくるのは文学表現としてあまりよろしくないと思うので。 [一言] 表現の…
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