第60話 学校一の美少女と手を繋ぎたい②
(くそっ、いつ手を繋いだらいいんだ……)
バイト先の柊さんにまたしてもアドバイスをもらってから3日が過ぎた。だが、タイミングが掴めず、いつ手を繋げばいいのか分からないでいた。
一度失敗している以上、なにもないところで突然「手を繋がないか?」なんて聞くのは不自然すぎる。流石に俺だってそんな突然言われたら戸惑うのだから、斎藤だってきっと困ってしまうだろう。
何かしらのきっかけというものが欲しい。きっかけさえ有れば、自然に手を繋ぐ提案を出来る。だがそんな手を繋ぐきっかけなんてものはそうそう起こるものではない。そんなわけで、きっかけが掴めないまま3日が過ぎてしまった。
「はぁ……」
打開方法が思いつかず、ついため息が漏れ出る。これからどうしたものか。途方に暮れそうになった時、放送が入った。
「昨日、夜10時頃、不審者が現れました。気をつけて帰ってください」
……これだ!多少強引な誘い方になりそうだが、もうそこは気にしていられない。せっかくきっかけが出来たのだ。やらない手はない。これを逃したらいつまたきっかけが現れるかも分からないのだから。
ここで思い止まったらいつまでも状況が進みそうになかったので、善は急げと早速、斎藤に連絡を入れる。
『今日、一緒に帰らないか?』
『いいですよ。すぐに一緒に帰ると人目につくので、授業が終わってから三十分ぐらい過ぎたぐらいに下駄箱のところで』
『了解』
断られるか少し不安だったが呆気なく承諾してくれた。ひとまず第一段階を突破したことにほっとする。今回こそ手を繋ぐ、そう気合を入れて放課後を待ち望んだ。
放課後、約束通りきっかり30分後に彼女は現れた。
「よお、突然で悪いな」
「いえ、帰る時間が遅いか早いかの違いだけですので」
流石に当日に誘うのは急すぎだったと思わなくもないが、彼女は特に気にしている素振りはない。むしろ表情は相変わらずの無表情だが、どこか声を弾ませて嬉しそうだった。
前回と同じく、他愛もない話をしながら歩き始める。一緒に本を読んで感想を言い合うのも楽しいが、こうやってなんでない道のりをただひたすら気ままに話して歩くのも楽しい。
今まではただ黙々と歩いて帰るだけだったが、こういう帰り道もありだ。きっと話し相手が好きな人だからなのだろうが。
相変わらずの人形のような白い綺麗な手に視線を送る。もう失敗は出来ない。きっかけはあるから誘うのが不自然にはならない……はず。覚悟を決め、意を決して口を開いた。
「なあ、斎藤」
「……はい、なんですか?」
少しだけ間が空いたあと、まっすぐこっちを見つめてくる。
「その……嫌じゃないなら、手を繋がないか?……ほら、不審者が出るって言うし、いざって時に」
いざってなんだよ。いざって。思わず内心で自分の言葉に突っ込む。手を繋いだら不審者を撃退できるなら全国の小学生みんな手を繋いでいるってんだよ。緊張するあまり変な言い訳を言ってしまった。
ちらっと斎藤の様子を伺うと、ほんのりと頬を朱に染めながら、瞳をぱぁっと輝かせた。
「嫌じゃないです。手、繋ぎたいです」
「そ、そうか」
流石に俺でも、彼女が本心で喜んでくれているのが分かり、嬉しいやら恥ずかしいやらで背中がむず痒い。にやけそうになるのをなんとか抑えながら手を差し出す。彼女はその手にゆっくりと手を重ねると、満足げに微笑み上目遣いに覗き込むように見てきた。
何か言いだけなその視線についぶっきらぼうに尋ねる。
「なんだよ」
「田中くん、そんなに手を繋ぎたかったんですね?言ってくれたら、これからいつでも手を繋ぎますよ?」
からかうような楽しげな表情を見せてクスッと笑った。いつもの冷めた表情とは違う年相応のあどけなさと少しだけ色香を纏った表情はあまりに魅力的だった。
ドキリッと胸が高鳴り、顔が熱くなる。それを見てまた斎藤はふふん、と満足げに微笑んだ。
ああ、顔が熱い。からかわれてしまったが、なんとか手を繋ぐことに成功したんだ。ひとまずは無事に手を繋げたことにほっと内心で一息をつく。だがそれも束の間、成功すると人間というものは欲深になるらしい。手を繋げたことで次の欲望は湧き上がってきた。
恋人繋ぎをしたい。そういう思いが心に浮かんでくる。よくよく考えてみれば、無意識とはいえ冬休みの時に手は一度繋いでいるのだ。やっと冬休みの時と同じ段階に戻ったに過ぎない。関係が進んだと言うにはもう一歩進まないと。
手は繋いでくれたんだから、嫌がられることはないだろう。あとは俺が勇気を出すだけだ。ぐっと息を飲み、自分の指を斎藤の細い指と絡めた。
「えっ、ちょ、ちょっと、田中くん!?」
絡めた指の間から自分より少し冷たい彼女の体温が伝わってきた瞬間、彼女は素っ頓狂な声を上げた。驚いたように慌てると、顔を真っ赤にし、丸い瞳を大きく見開いてこっちを見つめてくる。
「……ダメか?」
流石に少し強引だったか。不安になりながら尋ねると、赤面したままふるふると首を振った。
「い、いえ、私もこっちの方がいいです」
「……ん」
そう言ってきゅっと少しだけ強く手が握られる。繋いだ手のひらが熱くなるのを感じながら、帰り道を歩き始めた。
やっと手を繋ぐことに成功しました(*>∇<)ノ
今回の話いかがだったでしょうか?筆者は書いてて一人でニヤニヤしてました(笑)
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