第43話 学校一の美少女と定番の飲み物
手を繋いでいる感覚にやっと慣れてきたと思ったら列の先頭になり賽銭箱の前まで来たので、手を離す。
温かい温もりが手のひらから消え、ひゅうと冷たい空気に少しだけ寂しくなった。
「何を願ったんだ?」
無事参拝を終えて少し離れたところで、ふと気になり尋ねる。
横目に見た彼女の目を閉じて祈る姿は、また綺麗で思わず見惚れそうになるほどだった。
そんな美しい姿勢で祈っていたことを思い出して気になったのだ。
「もちろん、本についてですよ。いい本に出会えますように、と」
「なるほどな」
なんとなくそんな気はしていたが、案の定本に関する願いで笑みが零れる。
彼女らしいといえば彼女らしい願いで面白かった。
「もう少し普通の願い事をしろよ」
「別にいいでしょう。そういうあなたは何を願ったんですか?」
「もちろん、本についてに決まってるだろ。好きな作者のサイン会が当たりますようにってな」
「私と同じようなものではないですか……」
やや呆れた表情で、はぁ、と小さくため息をつかれる。よくその願いで私のこと言えましたね、そんなジト目で睨まれたので、肩をすぼめて誤魔化しておいた。
「ん、じゃあおみくじを引きにいくか」
次は定番のおみくじへ行こうと思い、彼女に手を差し出す。
さっき通り抜けてきたところよりは人が少ないがそれでもまだ混んでいるし、またはぐれそうになるかもしれない。
そういった意味で手を差し出したのだが、彼女は小さく瞬きをして固まった。
そのまま少しだけ頰を色づかせながら目を伏せると、おずおずと手を重ねた。
今度は歩くペースに気をつけて進む。時々彼女の様子を伺うと、少し俯いて俺と繋いだ手を見ているようだった。
彼女の歩く速さに合わせることを意識して目的の場所へ向かう。
「あの、ちょっと待ってください」
「どうした?」
向かう途中で呼び止められ振り返る。
「あれ、飲みたいです」
彼女が指さした方向には甘酒とおしるこを配っている人達がいた。
少し寒いし温かいものを飲めば多少は身体も温かくなるだろうと思い、「了解」と言ってそちらへ向かった。
到着すると、彼女は、んー、とどちらを買うかで迷って悩み始めた。
やはり甘いものが好きなようで少し目を輝かせて両方を見比べている。
飲み物で真剣に悩んでいる姿がなんだか可愛くずっと見ていたかったが、他の人をあまり待たせるわけにもいかないので両方頼むことにした。
「甘酒とおしるこ一つずつでお願いします」
おじさんが紙コップによそい、彼女におしるこ、俺に甘酒を渡してくれる。
潰さないように握ると少し熱い感覚が手のひらに伝わってきた。
「……ありがとうございます」
交換すれば両方楽しめるという俺の考えを察したらしく、ぺこりと頭を下げて礼を言ってくる。
こうしてさりげないことでも感謝を言えるところは俺が尊敬しているところだ。
道の傍にずれて、もらった甘酒を一口飲む。
米の甘みやコクがじんわりと染み渡り、お腹のあたりがほんわり温かくなったことに、ついほっと吐息が零れた。
ちらりと横目に彼女の様子を伺うと、猫舌ならしくちびちびと飲んでいる。
やっと口を離したかと思えば、幸せそうに目をへにゃりと細め、口元を緩めながら俺と同じようにほっと息を吐いた。
「美味しいか?」
「はい、そっちはどうですか?」
「ああ、美味しいぞ、飲むか?」
もともと交換するつもりで2種類買ったのだ。彼女もその気だろうと差し出したのだが、目をぱちくりとさせて固まると、こちらを見上げてきた。
もしかしていらないのかと差し出した甘酒を引っ込めようとすれば、慌ててパッと紙コップを受け取った。
「あ、ありがとうございます」
「あいよ」
すぐに飲むのかと思ったが、なぜか持ったまま何かをためらうようにまた固まる。
ほんのりと頰を色づかせて、ちらっとこちらの様子を伺うように上目遣いで見てきた。
「どうした?」
訳がわからずじっと見つめ返すと、徐々に視線が下がり少し俯く。
「な、なんでもないです」
覚悟を決めたかのようにきゅっと口を結び、紙コップに口をつける。さっきよりも頬を朱に染めて一口飲んだ。
「どうだ?」
「お、美味しいです……」
声を上擦らせてそれだけ言うと、俯いてしまった。
「そっちのも飲ませてくれよ」
「え!?」
驚いた声と共にパッと顔を上げる。目が大きく開かれくりくりとした瞳と目が合った。
「嫌なら別にいいけど……」
驚かれるとは思わず、少しショックを受ける。せっかくだしおしるこも飲んでみたかったのだが……。
「い、いえ、はい、どうぞ」
少しだけ落ち込んだところ、おずおずと手に持っていたおしるこを渡してくれた。
渡してもらえたのでありがたく一口つけようとすると、彼女がほんのりと頰を茜色に染めながらじっと見つめていることに気付いた。
「どうした?」
「……なんでもないです」
見られるのが気になり問いかけるとぷいっとそっぽを向いてしまう。一体どうしたんだ、と不思議に思いながら一口飲んだ。