学校一の美少女は対面する②
「それで、斎藤さんと僕を会わせたのは?」
一区切りがついたところで、一ノ瀬は机に肘をついて手を組む。
「ああ、実はバイトをしていることを斎藤に話したんだ。一応バイトって校則で禁止されているだろ? それで俺がバイトをしていることを一ノ瀬が言いふらさないか、斎藤が心配していてな」
「なるほど。そういうことね」
「一ノ瀬はうさんくさいからな」
「酷いなー。こんなに誠実なのに」
俺の悪口を意に介した様子もなく、一ノ瀬は肩を竦めて流す。苦笑いを浮かべていたが、ふと何かに気付いたように表情を戻した。
「あれ? ということはもう知ったってこと?」
「知った?」
「え?」
一ノ瀬の指すものに思い当たるものがない。一体何なのか。問いかける意味で見返せば、一ノ瀬は俺から斎藤に視線を移す。斎藤は一ノ瀬の視線を受けると、どこか気まずそうに目を伏せた。
「斎藤がどうかしたのか?」
「えっ……あー、いや、斎藤さんに柊さんのことを教えたのかと思って」
一瞬なにか迷うように目を彷徨わせ、斎藤に目配せながらぽりぽりと頬を掻く。
「ああ、それのことか。もちろん、それは大事なことだからちゃんと話しておいたぞ」
「柊さんには色々お世話になっているってことは伝えたよ。良ければ会わせるっても。な?」
「そ、そうですね」
隣の斎藤に同意を求めると、斎藤はなぜか少し困ったように微笑みながら頷いた。……もしかしたら、あまり会いたくないのかもしれない。
とりあえず会うか会わないかは棚に上げておいても問題ない。会わせられる意志を示すことが目的だったので、それさえ斎藤に伝われば十分。
満足して一ノ瀬に顔を戻すと、今度は一ノ瀬が呆れたように笑っていた。
「そうかい。斎藤さんと柊さんが会うことになったら、その時は教えてよ」
「ん? ああ、いいぞ」
どうして一ノ瀬が気にするのかは分からないが、別にわざわざ断るほどのことでもない。
ふと腕時計を見る。時計は四時半を示している。
「悪い。この後、バイトがあるんだ。そろそろ行くわ。斎藤はどうする?」
「いえ、もう少し一ノ瀬さんと話します。色々話したいこともありますので」
あまり、一ノ瀬と話していなかったが、大丈夫だろうか? 少しだけ心配だが、斎藤の真剣な様子に気にしすぎるのはやめておいた。
一応の念押しのために一ノ瀬を睨んで威圧する。
「斎藤のこと、ナンパするなよ?」
「しないしない。ただ仲良く話すだけだよ。田中の秘密とか色々教えておくから安心して」
「それ、まったく安心できないんだが?」
相変わらずよくわからないが、まあ、大丈夫だろう。時間迫っていることだし、多少不安ながらも、図書館を後にした。




