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王国の花名  作者: 詠城カンナ
第三部 『花畑編』 【Ⅱ albus war-白い罪と戦争-】
96/150

第九十六章 lullabyに眠れ

※注意:今回ちょっぴりオトナな行為を暗示するような描写があります。

気にすることのない程度だと思いますが、一応ご注意願います。

それから、過去と現在で転々とするのでわかりにくいやもしれません、すみませんっ。


*シャルロの過去については、【リタレンティア~悪魔の微笑】を参照にしてください。



また、今回も素敵な詩を見つけたのでご紹介がてら拝借しますv




 * * *



その時まで

あれほど突然に あれほど甘い恋に

おちたことはなかった


彼女の顔は 甘い花のように映えて

ワタシの心は 完全に奪われた


そして血液は ワタシの心臓の周りで熱くなった


ワタシの心は 住処から飛び出して

もはや帰ってはこれない



――First Love

John Clare



 * * *




ジョン・クレアさんの詩です。

《初恋》、でしょうか?初恋はかなわないものだと言われますが、あまく切なく、ヒトの心に残るものなのでしょうね……←

これも以前同様、わたしが勝手に微力ながら訳してみたものですので悪しからず!(笑

ところどころ抜粋してみました。


ちょっと『彼』の心情に似ているなぁ、と思ったので。

そしてちょっぴり彼の心情っぽく訳してみたり……!←

他の詩人さんではPercy.B.Shelleyさんの詩も、なんだか共感する部分があります。

すばらしい詩の数々ですので、よかったら探してみてください。


それでは、どうぞ。



第九十六章 lullabyに眠れ



†▼▽▼▽▼▽†



 唄が聴こえた。ワタシだけのために紡がれた唄。

 やさしく頭をなでて、夢のなかへイザナって。

 ゆっくりと、ゆっくりと。


 こどものときのあせた記憶に再度、イロづけするように。まるで愛し子を慈しむように。

 そのタナゴコロはぬくもりにあふれていて。


 これから自分がどんな失意に明け暮れるかなんて考えもしなかった。身を焦がすほどの想いに陥るなんて予想だにしなかった。


 夢のなかで、夢みてた。


 アナタを愛することのできる自分と。

 ワタシを愛してくれるアナタを。





 愛しいヒトの声がした。わずかにくぐもった、喘ぐ声。

 耳をすぐさまふさぎたいのにできなかった。足はすくんでしまったかのように動かない。


 ――ドウシテ?


 それは王室付き魔術師に選ばれてからすぐのことだったと思う。見かけたのは偶然だった。

 目に映るのは、ふたつの影。獣のように重なりあい、互いを貪りつくすソレに、嫌悪を抱くより先に震えた。

 驚愕か、悲しみか、焦りか――歓びか。

 もはや自分にはわからない。ただ、震えた。そのあとでやっと、嫌悪した……はずだ。

 血のつながった者どうしでする行為ではない。子孫を残すためにする行為。ではなぜ、彼女はソレをしている?

 彼は頭をひねる。なぜ、だ?

 辞書がごとく知識をため込んだ彼の脳は、ページをめくり引っ張り出してその行為の意味を探り当てた。

 愛する人とする行為――ああ、ソレなのだと。


 彼は、彼女を貪る男を無意識に自分と重ねた。すこしだけ心が満たされた気がした。

(不思議。まるで別人みたい……)

 ふと思って、自身の柔らかい髪に手を置く。無造作に動かして、なんとか『なでる』行為を再現してみた。

 思えば、自分が魔術師として王宮へ勤めようという『気まぐれ』を起こしたのは、彼女の子守唄に興味をもったからだ。高飛車だと言われていた彼女が、やさしげに頭をなでてうたってくれたその子守唄が予想外に心地よく、またそんなふうに感じた自分自身を怪訝に思ったからだ。

 なぜ安らぐのだろう。この子守唄はなんだろう、と。

 その唄を口ずさんでいたときの彼女は、穏やかで無垢だった。


 それなのに、どうだろう。目の前で行為に耽る彼女の、なんて嬌艶なことか。


 愛しいひとが、あげる声。快感に酔いしれて震えている。

 彼自身も震えた。心が震えた。

 熱く、冷たく、アツく、凍えた。


 いつまでも、ひんやりと、脳みそに、焼きついた。







†+†+†+†+


 ベルバーニの姫・エナーシャ。彼女は秘密裏に、カスパルニア第二王子へ嫁ぐことが決まっていた。しかし、カスパルニアでの王子暗殺計画に巻き込まれ殺害――。

 シャルロ姫はエナーシャの妹。ベルバーニ王の隠し子……そう国王に思い込ませるなど、ヌイストにとっては造作ないことだった。

 キレイな瞳を変えて、虫の息だったエナーシャを生きながらえさせ、『シャルロ』としてベルバーニへ連れ帰ることで国を手中へ収めた。ただ、ヌイストにとっては『人形劇の舞台』のひとつを手に入れたにすぎないのだが。

 本来の寿命を失っても自ら生きることを選んだエナーシャは、しかしやがて愛する婚約者のいない世界に絶望し、苦痛を覚えはじめていた。だからヌイストは彼女に最後の役目を与え、舞台から下ろしてやったのだ。そうしてめでたく、シャルロの幕は下ろされたわけである。


 赤毛の少女をベルバーニの国外へ『転送』し終え、ヌイストはふぅ、とため息をこぼした。


 彼にとって『シャルロ』という人形パペットは気まぐれに用意した駒だったにすぎない。エナーシャは滅びに魅了されていた過去がある。たとえば命は終わるからうつくしいだとか、儚いから心惹かれるだとか。それに似ていて、滅びや破滅といった絶望感もうつくしく魅了されるべきものだと。けれど彼女は、いざ自らの命に滅びが訪れたとき、それを拒否し、愛する者を失っても生に執着した。その結末が見たくて彼女を生きながらえさせたと言っても過言ではない。

 結局、彼女エナーシャはシャルロとしてよく働いてくれた。国を動かす駒としても、充分な地位にいたのだから。なにより、『もし、同じ緑の眼をもつ少女が現れても、あの王子は惹かれるのだろうか?』という単純な好奇心という名の疑問を解消するのにも大いに役立ってくれた。

 結果、未熟な王子は緑の瞳をもつ少女を自ら手放し孤立無援へ限りなく近づいていく。それなのに、例の少女は悲しみに暮れることはあっても行動している。ひとりでは立ち直れないであろう状況でも、『幸運なことに』前を目指しがむしゃらに進んでいる。内気で愚鈍な少女のはずなのに、なんと意外性に満ちていることか。ベルバーニまでやってきたのがいい例だ。

 このまま、ベルバーニ国王へ会わせてあげてもよかったかもしれない。だが、ヌイストの勘がそれを拒んだ。

 彼女は要注意人物――もうすこし破滅への舞台が整うまで、動いてほしくない。


 ヌイストはいつも気まぐれだ。大まかなシナリオはあったとて、その時々で書き変えてゆく。

 たとえばフィリップ王子やレオンハルト王子を救ったり。シャルロの最期を許したことさえ、彼にとっては気まぐれだった。

 もちろん、カスパルニアの王子たち暗殺に関わったことも気まぐれ――その根底には明確な意志があったが、手段として選んだのは気まぐれだった。

 彼は常に、無意識にニンゲンの心を求める。そうして動く喜劇や悲劇の結末を知るのが仕方なく楽しいのだ。

 いちばんのタノシミは、自分自身の物語。

 ヒトの人生をおちょくると言っても過言ではない行為をしてきて、自然の摂理に逆らう生き方をしてきて、それでもなお愉快に代わりはない人生ストーリー

 この行く末を、ヌイストは心待ちにしているのだ。


(けれど、今いちばんのお楽しみは――)


 緑の瞳をもつ少女と、青い瞳の青年。

 彼らのおとぎ話が、その結末が、果たしてハッピーエンドなのかどうか。悲劇か喜劇か。

 楽しみで、楽しみで、仕様がないのだった。




 ヌイストはそれから、ひっそりと闇に溶け込むように姿を消し、ベルバーニの王城へと舞い戻る。

 国王は一か月ほど前から、病に身体を蝕まれていた。

 ノックもなく、滑り込むように王の寝室へ入り込んだヌイストは、そのまま眠る男の耳元でささやく。

「王サマ、起きてください。タヌキ寝入りはだめですよ~」

 緩い喋り方、しかし有無を言わせぬ声音。

 国王である男はゆっくりと瞼をあけ、のっそりと身体を起こした。

「準備はできたか」

 もはや正気を失ったようなまどろんだ眼がヌイストをとらえた。

「ハイハイ。ちゃーんと軍隊は用意できてますよ」

 愛しい娘を失った国王の心は、病とともに弱り果てているようだった。妃にもひとり息子にも目をくれない。なぜなら、そうなるように仕向けたのは他のだれでもないヌイストなのだから。

「メディルサは傍観に徹するでしょう。こちらに味方はしても、向こうにつくことはありません」

 はっきりと断言するヌイストに、国王はわずかばかりニヒルな笑みを浮かべた。

「またそなたは、なにを吹き込んだことやら」

「いえいえ。あそこには昔の知り合いがいるだけですよー」

 食えない男だ、とつぶやき、王は疲れから再びベッドへ身を沈める。若いとは言えないが、まだまだ健康体であったはずだ。それなのにこの様だ。娘を失ってから、さらに病状は悪化したと確信がある。

「娘を奪った憎きカスパルニアを滅ぼし、それでやっとワシは死ねる」

 ほとんどつぶやきに近かったそれを、ヌイストはきちんと拾った。返事の代わりに、ひとつ深い笑みを見せる。

「では、ワタシはそろそろ次の仕事にいきマスね」

 再び、闇に身体をうずめる。

 ヌイストの姿は、すでにない。服装も髪色も黒になり、暗闇と同一化した青年は、ひっそりと夜のベルバーニを駆け巡った。









†+†+†+†+



「ねぇ、――」

 彼女が名を呼ぶ。その声が自分の名を呼ぶだけで、なぜか満たされる不思議。

 凄艶セイエンな彼女の姿を見てから、どうしてだか頭から離れない。

 そんな彼の心情を知ってか知らずか、彼女は無垢な表情で問いかける。

「どうしてわたくしの名を呼んでくれないの?」


 答えは明確だったけれど、あえて口にはしなかった。誤魔化すように肩をすくめて、ただ、笑う。

 それでも答えをせがむ彼女に、それならばと交換条件のように要望を突き付けた。


「もう一度、うたって」


 彼女の声が奏でる子守唄ララバイ

 あの夜目にした艶めかしさとは無縁な、けれどうつくしい唄。

 拙い言葉で文字を綴るように。しっとりと心に染み込んでいく。

 いつしか夢をみる。夢にはしたくない、夢を。

 その次にふる、甘美な出来事を。



 脳みそは、海馬ははっきりと憶えている。

 彼女の唇は驚くほど柔らかくて、あまくて、そして冷たかった。死ぬほど幸せで、同時に心の底から絶望した。

 彼女は決して手に入らないのだと知ったからだ。そうして、自分がどれほど彼女を欲しいと望んでいるのかわかったからだ。

 恋なんてかわいいものではない。この感情にそんなきれいで純粋な、そして単純な名前は似合わないと思った。

 もっともっと深くて複雑で危険で、けれど突き詰めればとても簡単なものなのかもしれない。矛盾だらけの、感情だ。

 ココロというものに疎い。だから今まで知らなかったのだ。知る必要がなかったのだ。だから手に入らないと決定的になるまで手を出せずにいたのだ。


 たった一度きり。


 地獄に堕ちるほど幸福で天国に昇るほど悲劇的な、口づけ。

 忘れやしない。あれほど甘美に酔ったことはない、たった一度きりのキスだった。









†+†+†+†+


 揺れている、乱れている心を落ち着けようと、夜空を見上げる。

 記憶は、いつまでも色あせることなくのしかかってきた。

 永い永い生きてきた道のなかで、これほどまで自分を揺さぶった慕情キオクはなかった。だから戸惑ったし、遠ざけた。あの赤毛の少女の言うとおり、図星である。

 けれど、でも、だからこそ。避けるわけにはいかないし、見届けなければならないのだ。

 王城を後にしてからしばらくし、闇に身をひそめたままじっと夜空の月をながめる。

「またヒトリになってしまいましタ」

 だれに言うでもなく、目をつむる。


 きらきら、きらきら、月のような、それでいて太陽の光のようなブロンドの髪。海の底のような、それでいて明るく輝くサファイア色の瞳。

 彼女が笑うと、胸がはずんで、だけど張り裂けそうだった。熱かった。

 ホシイと思ったときにはすでに、ソレは別の人間のモノだった。



「とーっても、サミシイですねー」


 唇は孤を描き、目を愉快そうに細めながら、青年はつぶやく。このときほど自分に素直な言葉を発したことはなかった。







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