第九十章 希望のために
お久しぶりです!
やっと第三部・新章startします。
第三部Ⅱ―albus war―
~白い罪と戦争~です。
やはり色はラテン語です。
一応、第三部ここまでのあらすじ★
(適当にかいつまんでの説明です。ので、すっとばしOKです!)
城では新たな大臣、騎士たちを構え、加えてカスパルニアの正妃としてベルバーニからシャルロ姫を迎えた。
一方、兄王子フィリップと別れ、新たにアルとともにいる道を選んだスー。
徐々に態度に柔らかさの見えるアルであったが、しかし、ランスロットにキスされそうになった現場を目撃され、それから距離ができはじめる。
そのまま城を追い出された彼女は、城下町で侍女として一緒に過ごしてきたシルヴィとローザと再会を果たし、また『やりたいこと』のために元宮廷賢者のイライジャの元へ身を寄せて薬草について学び出す。
そこで出会ったユリウスという青年とも親交を深めつつあった折り、何者かの襲撃を受け……。
過去にあった事件によりアルに対する態度が頑ななユリウス。スーは彼とともに、仮面舞踏会へ忍び込んだ。
アルとの再会、そしてシャルロの言葉。
『その瞳は滅びをしめすのよ』
魔法のように眼が燃えあがり、地に伏す姫。
驚愕するスーのもとへデジルが現れたと思った瞬間、「はめられた」と。
同時にセルジュまでもが、不穏な空気とともに姿を出した……。
と、いう感じでした。
では、つづきをどうぞ!
◆◇第三部『花畑編』◇◆
幸せだったと言うならば
あなたの名残を見届けよう
狂おしいほど求めてたから
―albus war―
第九十章 希望のために
†▼▽▼▽▼▽†
しゃらん、と音が鳴る。鈴だろうか。
宮殿のなかには心地よい風が舞い込み、かすかに華の香りが漂う。
しゃらん、しゃらん、とつづけて音がする。その音がすぐ近くで響いたとき、周りに集まる人々がみないっせいに頭をたれた。
ランスロットもあわててそれに習う。
ここは砂漠の国、砂漠の宮殿――。
様々な部族による争いが絶えず、他国に侵略されるかどうかの瀬戸際だった。何年も何年も同じ国での殺し合いがつづいた。終止符をうつものはいなかった。そのはずだった。
されど国は、そして人は変化を求めひとつになることを望んだ。揉め事に付け込もうとする周囲の国の思惑を一掃し、砂漠の大地はひとりの主君をたてることで部族をまとめあげたのだ。
頂点に君臨するのは、年若い者だ。そして生命力に満ちあふれている。不毛の大地は枯れることをやめ、潤いを求めたのだ。
砂漠の国・シラヴィンド。その宮殿はオアシス。
今、ランスロットの目の前には部族の長たちが頭を下げて君主を迎える光景が広がっている。椅子はなく、それぞれ柔らかい絨毯のような敷物に腰を下ろしている。
謁見の間に通されたランスロットも同じくし、ちょうど君主の真正面に座る形だ。この国の王の席は、白いベールで覆われている。かろうじて見えるのは、ひとつ高くなった位置に席がふたつあるということ。
王はいまだ結婚してはいないと聞くが、恋人の席だろうか?
ランスロットは訝しく思ったものの、主君がやってくる気配を感じ取り、そのまま視線を床に合わせ畏まっていた。
しゃらん、と音が響く。どうやら国の主はお付きの者を従え席についたらしい。新たな気配がみっつある。
「そなたがカスパルニアの騎士か?」
細く高い声がした。女のものだ。
そう――この国は、ひとりの少女を王にたてたのだ。
「たしかに、わたくしめの記憶が正しければアルティニオス王子の第一騎士でございます」
ランスロットが答えるまえに、別の声が応えた。それを聞いた途端、動けなくなる。
――まさか。
驚きに身を固めるランスロットに構わず、さらに別の声も聞こえた。よりいっそうランスロットを困惑させるには充分だった。
「たぶんこいつは本物だろう。入れ違いか」
なにやらぶつぶつと声の主はつぶやいていたが、ランスロットはそれどころではない。
なぜだ、という疑問で頭がいっぱいだ。
「あ、あなたは――」
「おっと」
口走ろうとしたランスロットに、声の主はにやりと笑って制止をかける。指をたてて口元へよせ、「喋るな」と示した。
「君はなにも見ちゃいない。俺も彼女も、ここにいないはずの人間だから」
賢い騎士さまならわかるだろう、と首をすくめられ、黙るしかなかった。
ランスロットの応じに満足したのか、喉からくくく、という笑い声をたてて男の声はつづける。
「長旅だっただろう。休ませてやりたいのだが」
「つもる話もあるでしょう。いいわ」
いったい『彼』はどうしてここにいるのか。そしてなぜ、当然とばかりにこの国の王と話をしているのか。そして、『彼女』がどうしてここに――。
ランスロットの頭のなかで、様々な仮説がたてられる。
もし、これが勝手な妄想でないのだとしたら。それはどういうことを意味するのか。
彼の思考はすぐに、『アル王子にとって害となるか利となるか』というところへ飛ぶ。そんな自分に気づき、すこしだけおかしくなった。
頭を振り、冷静さを取り戻したランスロットは、かしこまって再度頭を下げる。
「ゆとりはございません。我が国でも不穏な動きがありますゆえ」
後ほど詳しく『彼女』と話したいとは思う。けれど、今は一刻を争うかもしれない。
王座の横に座る彼は、そうだな、と頷いた。
「それはわかっている。俺の国も関与しているだろうし……どう思う?」
「力を貸すかどうかは見極めねばなりません。ここにいる男は、カスパルニアの国王となるアルティニオス殿下の右腕なのでしょう?」
それならば、しばらく捕虜として捕まえておきましょう、と王はさらりと言った。
呆けるのは、ランスロットばかり。
「ま、待って下さい!そんな――」
「そうね。すこし離れてみるほうがいいのよ。『彼女』と腕を磨き合いなさい――それがいずれ、王の役に立つのですから」
顔をあげる。トパーズ色の瞳とかちあった。
まっすぐなまなざしだった。
ランスロットは唾を飲み込み、目をつむる。王、とはアルのことだろうか……きっとそうだ。
――あいつが王となったとき、役にたてるならば。
次に目をひらいた彼には、迷いはなかった。この突拍子もない案にのってみよう。
「謹んでお受けします」
いかにも真面目腐った応えに、砂漠の女王は満足げに目を細めるのだった。
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様子がおかしいというのはすぐにわかった。
従来飄々としてつかみどころのない少年であったが、今はさらにわけがわからない。彼は震えながら剣を持つ腕をもう片方の腕で必死に押さえ付けているのだ。瞳はゆらゆらと揺れて定まっておらず、額には脂汗が滲んでいる。
どういうことか。
デジルは警戒を強め、さっとナイフを取り出し構えた。武器を持つ相手に対して当たり前な行動なのに、スーはいやな予感がした。
「邪魔しないでくれる?」
挑戦的な笑みを浮かべてスーをかばうように身構えるデジル。
「僕だって邪魔したくないんだけどねぇ」
「じゃあ、さっさと物騒なものしまってくれない?」
「それは難しいな。できれば動かないでくれればありがたいんだけど」
いつものように軽口を言うセルジュだが、声には常にある快楽が含まれていない。デジルが刃物を取り 出してから、彼の剣を持つ手がさらにカタカタ震え出していた。
物騒なもの、とデジルに揶揄されただけはある。たしかに今にも襲いかかってきそうな勢いだ。
されど、スーは不思議に思えて仕方がない。セルジュは自分の腕を抑えているように見える――自分のものなのに、まるで言うことを聞かない腕を。
「あ、あの……」
「来るな!」
そろりと足を進めたスーに、同時にふたつの制止が入る。ひとつはデジルが無言で手を引っ張り、ひとつはセルジュが大きな声で怒鳴った。思わず肩を縮める。
デジルが警戒の色を強めたのが気配でわかった。殺気だろう。彼女とセルジュの間に見えぬ火花が散った。
「やめとけ。アンタじゃ僕に勝てない」
低い声でセルジュが言う。それはどうかなと挑戦的に笑ってみせるものの、デジル自身もやりあえるとは思っていないらしい。ふたりは今にも刃を交えそうなほど空気を鋭いものへと変えている。
けれど、おかしい。やはりスーは違和感に苛まれる。
デジルが敵意を向ければ向けるほど、セルジュの剣を持つ腕が抑え切れない殺気をもらしガタガタと震えるのだ。そして当の本人は必死でそれを封じている。
セルジュの殺気はむしろ、自分自身の腕に向けられている気がした。
声をかけようにも動こうにも、できない。今なにかすればそれこそ引き金になって危険が襲いかかるのは明白だった。
(どうすれば……)
あきらかにお荷物な自分が恨めしい。
「……病気なんだ」
そのとき、かすれ震える声でセルジュが言った。
「自分自身じゃ、どうにもできない」
スーは目を見張る。そっと顔をあげたセルジュの顔は、今にも泣きそうなくらいぐしゃぐしゃだった。
なにか理由がある。これは彼の意志ではない。
そう悟ったスーは、なにがなんでも助けなければと――そんな使命感にも似た気持ちに燃えた。
「雲行きが怪しいね」
どうやらデジルもセルジュの様子がおかしいことに気づいたらしい。警戒の色を失わず、そっと視線を周囲へ走らせる。騒ぎを起こせば、城の衛兵が駆け付けるだろう。その前に見回りにくるかもしれないが。
しかし芳しくない。今は一触触発といってもいいほど雰囲気が緊張で張り詰めているのだ。
「お嬢ちゃん、お願いだから余計なことはしないでね」
ふいにデジルがそろりと言う。なにかしなければ、行動しなければ、と強く思い頭をひねっていたスーは、面喰って一瞬呆けた。そのあとで、赤面したのだが。
やはり自分はお荷物だ。なにかしたい、助けたい、けれどそれに見合う力がない。
もんもんとしながら、成り行きを見守るしかないのだ。
ふと、セルジュが舌打ちしたかと思うと、一歩足を前へ動かした。
「時間がない――いい?」
まなざしを鋭くし、デジルに、そしてスーに向かって少年は告げる。
「きっともうすぐ王子がくる。それまで、どうか持ちこたえて」
――うまく逃げてね。
その言葉とともに、銀のきらめきが躍り出た。
†+†+†+†+
「計画はうまくいきそうか?」
「ははあ。しかし、約束はかないますね?」
きらびやかな舞踏会の裏側。仮面をつけた男たちがふたり、こそりと言葉を交わしている。
「もちろんだとも。我らが力を手にした暁には、あなたにもきちんと報償を与えよう。彼の国王も、そう言ってくださっている」
「それはそれは……」
にやり、とたまらず男は笑んだ。
ずっとくすぶっていた。腐った政治。なにが帝王学か。あんな小僧に国を任せられるのか、と。
だからこの計画は成功せねばならない。どんな形にしても、絶対に。
「だがしかし……ルドルフが死んだことは惜しかったが、あなたという新たなパイプができてよかったよ」
「わたくしめも、この出会いに感謝せねば」
「道化師の言うとおり、シナリオは悲劇を進むのだろうねぇ」
ワインをあおりながら、男は恍惚とした表情を仮面の下にさらす。
傍らの男も、にんまりと笑みをもらした。
「お気に入りを失った王子さまは、狂気にまみれて戦をしかけ、敗北。カスパルニアという国は滅ぶ」
「そして、新たな覇者が……」
王子のお気に入りというのが『妃』なのか『赤毛』なのか知れないが、男は思う。この国は今、最弱の一途をたどっている。直すためには、一度壊さなければ。狂った王家を粛清せねば。
「それでは、今宵の悲劇――いや、喜劇に、乾杯」
「乾杯」
そう、必ずうまくいく。前回のようにはいかない。
「それでは、そろそろ御暇しよう」
「次は戦場で、ですか――ラーモンド様?」
「ああ、わたしたちは傍観に徹しようと思うのだがね」
小気味いい、と笑いながら、男は背を向ける。
「では、これからも頼みますぞ」
もちろんです、とお辞儀し、顔をあげる。彼――オーウェンは、誇らしげに、そして未来の希望に目を輝かせた。