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王国の花名  作者: 詠城カンナ
第一部 『王宮編』
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第九章 侍女に

第九章 侍女に




†▼▽▼▽▼▽†



 舞踏会を明日に控えたその日の夕刻。しばらくぶりにスーはアルに呼び出されていた。

 場所は客室。スーはすぐにそこに足を運んだ。



「わ、赤い髪だ」

 部屋に入るなり、そんな無遠慮な声が飛んできた。お辞儀していた頭をあげると、小柄な少年が目に入った。

 プラチナブロンドのさらさらした髪をした、十歳前後の少年だ。肌は蒼白いが、目は大きく、活発そうな顔つきをしている。いかにも到着したばかりらしく、ビロードの服にマントをはおっている。

「なんだこれは。おもしろい髪色だな」

 少年は駆け寄ると、ペタペタとスーの赤毛を触り出した。

 ぎょっとしたものの、子供はアルの客人にまちがいない。スーはされるがまま、黙って部屋を見渡した。


 四角のテーブルに紅茶と菓子がおいてあり、椅子にはアル、むかえにはクリスが立っていた。

「こんばんは、スー」

 にっこりほほ笑みながら言う彼に、スーはあいまいに応える。わけがわからず、どうすればいいのか思いつかず、アルに指示をあおごうと見やった。

 アルは表情もなく、ただ少年がスーの髪をいじるのをながめていた。時折紅茶をすすり、傍観しているだけで、特になにか言うわけでもない。

(わたしをなんのために、呼んだのよ)

 心のなかでため息をつき、スーはとりあえず目の前の少年にあいさつをすることにした。


「はじめまして。スーでございます。えっと……」

「リオルネ。公爵の息子」

 少年はさらっと言い、まだ飽きないのかスーの髪を触りつづける。こそばゆい感覚に、スーは落ち着かなかった。

「ほら、以前お話ししたでしょう。僕が城にくるまえに仕えていた方の息子さまですよ」

 にっこりしたままクリスは言う。たしか公爵は亡き国王の血族であったことを思い出し、スーは軽く頷いた。

(ということは、この少年はクリスさんの前の主……でも、どうしてここに)

「明日の舞踏会に参加されるのですよ」

 スーの心を読んだかのように、そっとクリスが教えてくれる。


「そうだ。明日は僕とともにいろ」

 パッと少年――リオルネは顔を輝かせてそう言った。

「いい考えだろう?!ここでの滞在期間、おまえが僕の侍女になればいい!」

 スーは困ったようにほほえんだ。アルの客人だし、むやみに断れまい。かといって、勝手に承諾していいものでもないだろう。

 しかしリオルネはスーの微笑をなにを勘違いしたのか承諾と受け取り、うれしそうに抱きついてきた。

「わ、あ、リオルネさまっ!」

「今日からおまえが、僕の侍女だ!」

 にっこりと顔を崩して笑う少年は無邪気で、かわいいものだ。いつものアルのような不敵な笑みとは大ちがいだ。

 多少自分勝手にことを進めてしまう傾向にあるが、子供独自のわがままだと思い目をつぶればたいしたことはない。

 それでも、主人の承諾なしに客人の侍女になれるわけはない。スーはアルにチラと目を走らせた。


(――怒っている)

 目をやった瞬間、後悔の波がスーを襲った。目をそらしたくてもそらせない。

 アルは無表情だった。いつもの不敵な笑みさえない。椅子に足を組んで座り、ただスーを一直線に見ていた。

 あまりに直視してくるので、恥ずかしいわけでもないのに、頬が熱くなる。

「あ、ア、ル……さま……」

 ぼそぼそと声をやっとのことで発する。すると、アルも正気に戻ったかのように、すぐににこりと応じた。

「ああ、いいよ。そのために呼び寄せたんだから」

「やったな!」

 アルの言葉を聞くなり、リオルネはさらにはしゃいで笑う。

 承諾は受けた……けれどそれは表面上であることを、スーは痛いほど感じとっていた。









†+†+†+†+


「どうしたのだ、浮かぬ顔をして」

 庭を案内している最中、リオルネが眉をひそめながらそう言った。

「いえ、なんでもございません」

 口ではそう言ったものの、実際気分は重かった。



 昨夜――リオルネをクリスとともに部屋まで送り届けたあと、スーだけアルに呼ばれたのだ。

 呼ばれたのはアルの自室。真っ暗闇に近いなかで、彼はスーがくるなり壁におしつけ、髪をぐいっとひっぱった。

「きゃっ」

 痛さに思わず悲鳴をあげるスーにかまわず、アルは耳元に口を近づけ、低い声で言った。

「おまえは、おれの召使だ――」

 それから強く腕を引き、そのまま扉から押し出される。そして扉が閉まる瞬間、呆然と立ち尽くすスーに向かって彼はにこりともせずに言った。

「――忘れるなよ」


(忘れられるわけ、ないじゃない)

 リオルネに城案内をしているというのに、スーの顔は無意識に苦虫を噛み潰したような表情になってしまう。

(わたしだって、死ぬ思いをしたんだから)


 はぁとため息をこぼし、あわてて口をおさえる。リオルネがじとっとこちらを見ていた。

「す、すみません。私事で考え事にほうけるなど……」

「いや、いいよ。百面相で、おもしろかった」

 リオルネは怒ることなく、白い歯を見せる。スーも自然と頬が緩むのを感じた。


「クリスさんは、以前リオルネさまのお家に仕えていたのですよね」

 庭園にある椅子に腰かけて花々をながめながら、スーは尋ねた。

「うん。僕はクリスが大好きだったから、王宮に行くって知ったとき、すごく悲しかった」

 ふふ、と笑いながらリオルネは答える。

「クリスはいつも僕と遊んでくれていたんだ。とってもやさしいんだよ」

「ええ。とてもおやさしく、賢い方だと存じています」

 話を聞いていると、本当にクリスはやさしく、リオルネはそんな彼のことが大好きなのだとよくわかった。

 スーには、彼らの関係がまるで自分とフィリップのような関係に思えてならなかった。クリスを兄のように慕うリオルネも、リオルネに思いやりをもって接するクリスも。


「そういえば、どうしておひとりで来られたのですか」

 ふと気になっていたことを、問うてみた。いくら舞踏会に参加するからといっても、十歳そこらの少年がひとりで城にやってくるのもおかしな話だった。

「僕はもう立派な跡継ぎだと、父上が認めてくださったんだ」

 リオルネは自慢気に笑った。

「実は、父上の病気が思わしくなくて……けれど、舞踏会はとても大切な行事だから、欠席するわけにはいかないんだ。そしたらクリスが、面倒をみるから僕が来ればいいと父に進言してくれたんだ」

 ふふんと笑い、彼はスーの赤毛にやさしく触れた。

「めずらしいものも見れたし、やっぱり王宮はすごいなぁ」

 妙な言い方ではあったが、彼に悪意はない。むしろ誉め言葉であるのを知っているスーは、にこやかに笑った。








†+†+†+†+


 時計が二時を告げるころ、ふたりは舞踏会の準備にとりかかった。

 リオルネには入浴させ、淡い水色の服を着せ、髪を整える。さすがにひとりでは無理だったので、シルヴィとローザ、クリスの手配した侍女数名とでとりかかった。

「わぁ、きれいな髪色ですね」

「まるで王子さまみたいですよ」

 侍女たちは誉め称えながら、どんどんリオルネを飾ってゆく。そして飾り終わる前に、今度はスーが侍女たちに連れていかれた。

「こっちもアル王子の命令が下っているんだからね!」

「スー、今日は気合い入れて、お姫さまにしてあげるわ」

 あれよあれよというまに、スーはローザとシルヴィの手によって飾られていく。

 シャンプーは念入りにされ、櫛も何十回も入れられ、いやがる暇も与えられなかった。



「ほうら、見てくださいませ!」

「さすがはわたくしたちの姫ですわっ」

 うっとりと言うふたりの額には、うっすらと汗さえ滲んでいた。

 鏡のまえに現れた自分を見て、スーは思わず目を見張った。









う〜ん。。

最近はなかなかうまい章タイトルが思いつきません。。

思いつく前に、話がかけてしまったからでしょうかね?(苦笑


次回は彼視点。

どうぞ、お楽しみに(笑)



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