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王国の花名  作者: 詠城カンナ
《新婚編》&《育児編》
142/150

第七話 誘惑のふたり

後半戦になります。例のお色気話です。

ぬるいR15?13?基準がよくわからないのですが、たぶんそれくらいのお話のギャグwになります。


わたしの書くお話にしては珍しい話だと…思うのですが……

しばし前に書いていたので、今読み返したらなんだか『恥ずかしくて死ねる!』感じだったのですが、せっかく書いてしまったし、投下……


第七話 誘惑のふたり


†▼▽▼▽▼▽†



 『女子会』にて、頑なにスーが話そうとしない、その日のこと――



 その日、シルヴィとローザに手伝ってもらい、いつもより念入りに『おしゃれ』をした。湯浴みのあと、ローズオイルを塗り込んだり、うすく化粧をしたり、新品の寝間着ネグリジェに身を包み……つまりは、いつもより色っぽかったはずだ。

 シルヴィもローザも、どこかいつもとちがうスーを感じ取っていたのだろうが、彼女の顔が強張っていたため、なにも言わなかった。



 さて、夜。

 ベッドの縁に腰かけつつ、スーはサイラからもらった教本を片手に復習する。心臓はどくどくと唸り、今にも皮膚を突き破り飛び出してきそうである。

 何度読んでも、教本に対する耐性はつかなかった。スーは真っ赤になったまま、うるんだ瞳をこらえる。

(は、恥ずかしすぎて……死ねる!)

 幾ばくか過ぎたころ――アルティニオスはやってきた。



「スー?」

 ベッドに腰掛けたまま微動だにしないスー。心配になったアルは近寄るが、やはり彼女は動かない。

 いや、動けなかった。

 教本に集中し過ぎていたため、アルの来訪に対する反応が遅れ、教本を隠す暇などなかったのだ。よって――スーのお尻の下に、今もそれはある。

「どうした?どこか具合でも悪いのか?」

 スーの頭のなかは、もはや色仕掛けどころではない。いかに見つからず、素早く教本を隠すかだ!

 こうなればベッドの下に突っ込むのが手っ取り早いだろう。

「スー、本当にどうしたんだ?大丈夫か――ステラティーナ?」

 名を呼ばれ我に返り、見上げる。

 こちらを見下ろす青は、薄暗がりのなかでも異様にきれいで、目を奪われた。

 そ、とアルの手が頬に触れる。

 スーは脊髄反射のように、その手を握り返し――頭のなかでサイラ直伝のバイブルのページがめくられた。

「っ、お会いしとうございました……」

 声はかすれ、目は自然とうるむ。

 ごくり、とアルの喉が鳴ったが、スーは無我夢中だった。

「アルさま……」

 視線をそっとおろし、手のひらに口づける。びくりとアルが反応したが、無視して、そのまま見上げた。

「ス、スーっ?」

 やや上ずったアルの声。しかしスーの頭は――やはりどうやって教本を隠すか……そればかりだ。

「アルさま……!」

 必死だった。とにかく必死だった。

 見つかったらそれこそ、恥ずかしくて死ねる……!

 ここでスー自身は気づいていなかった。彼女の目はうるみ、羞恥心で上気した肌は紅く染まり、喘ぐように名を呼び、乞うようにこちらを見上げる少女――しかも今宵はなんだか色っぽい寝間着――の姿にそそられないわけがない、と。


性質たちが悪い……」


 つぶやいたアルは、すでに行動を起こしていた。

 スーの肩をぐいと押し倒す。ぎしり、とベッドがふたりの重みで音を出す。

 アルの真摯な瞳に見つめられながら――スーは焦った。ヤバイ、位置がずれて教本が露わになってしまう!

 とっさに、食いつくようにキスをする。

 驚いたのは一瞬で、すぐにアルは応えてくれた。

 スーは彼が目をつむっているのをいいことに、教本に手を伸ばす。

 あまい吐息を大きめに出し、紙がこすれる音を誤魔化した。教本を、そっと、そっと動かす。そして、ついに――


「なにをしている?」


 やけに、楽しげな声。視線を戻すと、悪魔のようなほほえみを浮かべたアルの姿。

 教本はすでに、ベッドから床下に落ちていた。

「え、えっと、これは、そのぅ……」

「集中しろ」

 首元に顔が埋められる。いつもならどきりとする行為なのに、今度ばかりはほっとした。

(――よかった、バレてない!)

 床に落ちた教本は、ベッドからは見えないだろう。しかし、ベッドから這い出ればすぐにでも見つかってしまう。

 ええい、ままよとスーは肩や腿を這うアルの手にそっと自身の手を重ねる。顔をあげたアルにほほえんだ。


「アルさま、イイコトしてあげます」

 なるべく、精いっぱいの色気を醸し出し。

「な、なななっ、なにを――」

 再び余裕はどこへやら、完全に焦るアルににっこり笑みを深め、スーは素早く寝台の棚からタオルを取り出すと、彼の眼を覆った。

「ス、スー?!」

 引きつったアルの声にも耳を貸さず、逆に彼の耳元であまく囁く。

「今夜はわたしに任せてください」

 ついでに手足も縛ってしまった。

 抵抗できたのにスーの意志を尊重してくれたのか、それともただ驚きすぎてできなかったのか。

 真実はどうでもよかった。ただ、今のうちに教本を始末しなければ――!

「待っていてくださいね」


 ベッドから降り、教本を手に取る。背後でアルが「俺はそういう趣味はないんだ、ああ、だけどスーがどうしてもと言うなら……」とかなんとか言っていたがスーの優秀な耳は音を拾わなかった。

 例の物をベッド下より安全な机の引き出しにしまうため、いったん自室へ戻る。鍵をかけて封印すれば一安心だ。


(あーよかった!)


 羞恥で死ぬところだった。

 スーはそのままルンルン気分で寝室へ戻る。

 ベッドの上では、律儀に縛られたままのアルがいた。

 思わず、スーは……爆笑した。

 いや、爆笑とは言わない。ぷっ、とふき出しそのあとは声もなく腹を抱えて笑っただけだ。あの厳格そうなアルティニオスが滑稽に見えて、場違いにおかしかったのだ。

 しかし――声なき声をアルは敏感に察知したようだった。


「ほぅ?」

 声に、いや~な雰囲気をにじませてアルは言う。

「今宵は、おまえが、俺を、愉しませてくれるんだよなぁ?」

 一言一言区切って、強い口調で、しかし楽しげに彼は言う。

 一種の脅しだった。

 スーは勢いよく「はははは、はいっ!」と噛み噛みに返答すると、脱兎のごとく逃げ出したくなるのを堪え、寝台へ戻る。

 すでに自ら縛りから解放されたアルは、まるで肉食獣のようだった、とのちにスーは語る。

 舌なめずりした野獣の前にびくびくになった小ウサギが放り出されるそれとまったく同じで、それはそれはひたすら恐ろしい体験だったそうな。

 気がつけば服を剥かれ押し倒されていた。アルはのしかかり、スーは怯えた目で見上げる。



「おまえの笑顔も、もちろん好きだが――」

 くい、と顎を持ち上げられたスーは為されるがままだ。ただ、青い瞳が怪しく光ったのに、ドキリとした。

「――だが、怯えた表情も、充分そそる」

 ああ、先ほどのドキリは胸の高鳴りか、はたまた錯覚したギクリという恐怖の怯えか。

 アルの腕のなかで、もはや思考は甘美な靄に支配された――



「なぁ、ステラティーナ?どんなおまえだって、俺は悦ばしいんだ」


 靄のかかった記憶のなか、アルティニオスの妖艶な笑みだけはしっかりと覚えている。


「名を。名を呼べ、ステラティーナ」


 ただ、応えるように。


「アル、さま……!アルティニオスさま……!」


 普段は照れてめったに口にできない、その愛しい名を口にした。






* * * * *


「で、おまえが必死で隠そうとしていたモノは、なんだ?」

 翌朝。ニヤリと笑うアルの腕のなかで、スーは降参する。

 性質タチが悪いのは、どちらのほうか。

「か、隠してなんか……ただ、あれは……」

「あれは?」

「ア、アルさまに……もっと、好きになってほしくって……それで……」

 ぐ、と唇を噛みしめ、見上げる。

 アルは虚を突かれたように青を見開いていた。

「わ、わたしだけを、見てほしくって……それで――んンっ」


 唇を塞がれた。貪るようなキス。


「もう、おまえだけしか見えないよ」


 合間にささやかれた声は、妙に艶やかで。

 ああ、やっぱり敵わないな、とどちらともなくそう思う。


「スー、おまえが悪い。俺はおまえのことが好きすぎて、自分でもおかしくなる――」


 ――それを言うなら、わたしのほうだ。


 言葉は、彼の口のなかに呑まれた。





 余談であるが、後日、クリスになにやらクギを刺されたアルティニオスは、しばらく立ち直れないほど落ち込んでいた――というよりむしろ恐怖していたとかいなかったとか。



スーに放置されるとか、アルが不憫でならない…笑

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