第二話 被害者と証言者の告白
すこし遊ばせていただきました。w
ですがこれからの流れに必要なので、ここに公開させていただきます。
番外編はときどきこのようなお話もあるかと思います。
第二話 被害者と証言者の告白
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むすり、と見るからにご機嫌ナナメなのは、この国を治める頂点に君臨する国王陛下・アルティニオス・ル・ド・カスパルニアその人である。
即位してから数年、彼はとある筋からの話によれば馬車馬のごとく働き中枢を掌握し、己の権力を振りかざし、【冷酷な王さま】として有名である。
そんな国王陛下の機嫌が悪い、いや、むしろ落ち込んでいると噂が立ったのは三日前のこと。
まさかと本気にしなかった重臣たちは、しかし目の前にいる項垂れた男の姿に、噂を信じるしかなかった。
証言者L「アル、いったいどうしたんだ?みんな心配しているぞ」
国王陛下「ああ……最近、その……夜に……拒否され、るのだ、が……」
証言者C「ほほう、なるほど。ネチネチネチした責苦に嫌気がさしたのでは?」
国王陛下「おい貴様、口を慎め」
証言者L「そうだぞ。これでもアルは繊細なんだ!そんなに正直にものを言えば、きっとあとで部屋に籠って泣くんだ!」
国王陛下「……」
証言者J「そ、それで、他にはどんな対応を……?」
国王陛下「ああ。そうだな……こう、気持ち悪そうな、顔をするんだ」
証言者C「それはそれは。以前はそのような事はなかったんですよね?」
国王陛下「もちろんだ」
証言者L「けれどどうしてだ?アルの顔は以前とまったく変わらないのに、急に気色悪くなるだろうか?」
国王陛下「あとは……『会いたくない』と、言うのだ」
証言者C「この世の終わりみたいな顔しないでくださいよ。打ちひしがれるのは自室に戻ってからにしてください。ここでは皆の目に入ります」
国王陛下「くっ……!」
証言者J「しっかし、相当だなぁ。もしかして、いつもみたいに虐めてるんじゃないのか?ほどほどにしとけよ、まったく」
国王陛下「『いつも』……?」
証言者J「そうだろ?騎士の訓練に加わるときも、書類仕事してるときも、しかめっ面で加虐心を隠そうともせず……有名だぜ?王妃さまもきっと床のなかではネチネチ虐められ――って!ちょ、まっ……」
証言者C「あーあー言わんこっちゃない……陛下を怒らせるなんて」
証言者L「ご愁傷様、だな」
被害者J「ちょっ、ほんと、ま、待てっ!なんで『被害者J』になってんの?フラグなの?てか、なんで俺だけ怒られるんだ?つーかアル、その笑顔やめろ!マジ怖ぇええ!」
国王陛下は、大変ご機嫌がよろしくない。そりゃあもう、凄まじく。
+ + +
《証言者もとい被害者J》
被害者Jは深刻な表情でこう語る。
ああ、アルティニオス陛下?あいつ、すげーよな。ま、俺たちにしちゃあ、ある意味期待通りだし、ある意味はた迷惑でもあるけどな。
え?なにが期待通りかって?そりゃあ、あいつはもとから才能はあったのさ。それを変にふてくされていじけてるから、悪く言われるんだ。ほら、なまじっか顔が整ってやがるから、近寄りがたいんだろうしな。
ともかく、俺たち騎士はあいつが本気を出してくれてうれしいってワケさ。
で、なにがはた迷惑かって?そりゃあ……
たとえばよ、たとえばの話だがよぉ……他の奴らに話すなよ?チクるんじゃねぇぞ、ああ?
……で、なにが迷惑ってさ、あいつが本気を出したキッカケとその中心的な心情?みたいなもんさ。あんたわかるか?
いや、俺だって男だ。気持ちはわかる。けどさぁ。
あいつの中心はいつだってカミさんなんだ。そ、愛しの妻!
別に動機とかはどうでもいい。あいつを支えたのはその存在だからな。
けどさ、すんげー嫉妬深いんだ。
たとえば、すれ違うときにあいさつするだろ?フツーだろ?
俺もそうさ。邪な気持ちなんて微塵もねぇ!……ほ、ほんとだ!なに疑ってんだ!クソっ。
……ともかく。俺はあいつの妻、つまりスーにあいさつしたんだ、おはよう、ってな。
話によれば、最近体調が悪いらしくてさ。国王も執務室で苛々しながら仕事こなしててよ、すぐにでもスーのところに行きたかったみたいだな……って話がそれた。
けど、まぁ、だいたいわかるだろ?流れ的に。
あいつ、嫉妬したんだよ。あいさつぐらいで。
言い分はこうだ――
――最近『僕』にもなかなか笑顔をみせてくれないのに、どうしてスーは貴様に笑顔を見せたんだ?ええ?
――し、知らねぇえよ!おまえがなにか気に障ることしたんじゃないのか?
すると、あいつ、つまりアルの背後からメラメラとオーラが飛び出してきた。俺の発言が気に障ったようだったな。
それでな、あいつの横にランスロットがいたんだ。相変わらずのアル至上主義ぶりというか、ま、第一騎士だしな。
で、アルが答える代わりにランスロットがこう言うんだ。
――はぁ、ユリウス、考えてからモノを言え。アルがそんなこと、するわけないだろ。本当は片時も離れたくないのに王さまだから仕方なく仕事に身を費やしているんだ。アルはいつも夕方ごろになると我慢の限界が近くて顔が般若になる。で、やっと会えたスーに毎夜毎夜愛を囁き、それはもう凄まじい溺愛ぶりで、思わずこちらが赤面するくらいの――
と、ここで相方の証言は国王自らの手によって沈められたわけだが。
うん、たしかにアルの溺愛ぶりはすごい。ほんと、結婚してからはそれがいやがおうにも増していたな。
たとえば、名前呼びについてだ。王妃になったのだから、本当なら俺たち騎士は気安く『スー』なんて呼べないだろう?けれど、スー自身が敬称を拒否したんだ。壁を感じてしまうから、とな。だから俺たちは公式の場では『スー様』で普段は今まで通り『スー』と呼ぶことにした。
ここで例の嫉妬がはじまるわけだ。
はじめ、「僕のスーを気安く呼ばないでくれる?なんたって、王・妃なんだし!」とそりゃもう恐ろしいほどきれいな笑みでそうのたまった。だから『ステラティーナ様』と呼んだところ……
あいつは笑みを消し去り眉間に峡谷を刻んで「いつからその名を口にできる身分になった?彼女の本当の名を呼べるのは俺だけだ」ときたもんだ。で、結局敬称を付けて呼ぶときは『スー様』。
王の嫉妬もひどいもんだろ?
で、話はすこし戻る。
そもそも、アルの機嫌がすこぶる悪い理由は、スーが体調不良、ひいてはアルに対して笑顔がないこと、らしい。
そりゃあすんげぇ溺愛ぶり、愛する妻からの冷たい視線なぞ耐えられまい。
つい先日のことさ。ひとり庭園から帰ってきたアルの手には赤い花があって、「スキ、キライ、スキ、キライ……」なんて花占いなるものをやっていたものだから気色悪……ゴホン!いや、心配になってしまってな。
またある時は「もしかしてこれが世に言う倦怠期?!まさか!ど、どうやって乗り越えるんだ?ドレスか?宝石か?ああ、領土をプレゼントすればいいだろうか。それなら小賢しい小国を八つ裂きにし彼女に献上するのに……」とぶつぶつ呟いていたり。
またある時は、裏門の外へつづく階段に腰かけ、リオルネ少年をつかまえ、「なぁ、どうすればスーはよろこぶ?」、「そうですねぇ。お花なんてどうでしょう?王妃さまは植物がお好きでいらっしゃいますし――」などと相談しているところもあった。おまえは何歳だ!そしてリオルネ少年の有能ぶりを実感する。
閑話休憩。
で、件のスーがなぜ体調が悪いのか……それは証言者Cへ変わりたいと思う。
+ + +
《証言者C》
はい、変わりました証言者Cを務めさせていただきます、クリ――っとと、名前は伏せるべきでしょうか?え?別にいいって?じゃあなんでこんなめんどくさい仕様にしたのでしょうか。
それはさておき。
なぜ王妃の体調が悪いかといえば、ま、医療に携わる者としてそっち方面も知識豊富ですからね、ええ、いろんな意味で。
まあ、ぶっちゃけますと、愛するふたりが夜することといえばおわかりでしょう?
ん?あ、ユリウスという名の証言者Jから苦情が入りましたので直接的な表現は避けさせていただきますね。
それで、彼女の変化にいち早く気づいた僕はさっそく助言をして差し上げました――「これは秘密にするべきです」と。
なぜかと言えば、内緒にしておいて驚かせるというサプライズがいいだろうということもありますが、本音は結婚して浮かれている陛下にお仕置きをさせていただきたいと思いまして。
すごかったんですよ。
久々の再会にいちゃいちゃしたい気持ちは理解できたので、しばらくは目をつむることにしました。でも、一か月たっても治らなくて。大臣たちは見ないふりをして陛下のニヤけ顔を封印していましたね。
意外なことに、ルファーネ大臣は好々爺と話を聞いてあげていましたが。イライジャさまもアーサーさまも、陛下のヘタれ具合とデレ具合に砂糖を丸飲みしたみたいな顔をしていましたよ。すごく傑作でした。
騎士たちの反応もいろいろでしたね。近しい者たちは陛下のしまりのない顔に苦笑するにとどめていましたが、ちょっと怖がっていた者たちは彼の激変ぶりといいますか、ツンツンツンデレがデレデレデレデレに変化したことに恐々として、まるでこの世の終わりみたいな顔をしていましたね。これも大変傑作で、僕の腹筋が複雑に割れるほど笑わせていただきました。
まあ、そこまではよかったんですが。
いやー、実はですね。
昔のことなんですが、僕が彼女に「好いている」発言をしたことがバレまして。まったくの誤解といいますか、あれはただ陽動がしたくて口にした発言でして。それでも陛下は信じてくださいませんでした。
なんかもう腹が立ったので――いえ、決して私的で邪な理由ではございませんよ?とにかく、ちょっと悪戯心がわきましてねぇ。予想通り、憔悴しきっているのですが。ハハ。
まぁでもさすがは陛下というか、仕事に手は抜かない辺りは感服いたします。
僕もそろそろネタバラししたほうが無難だろうと思いますし、フォローはしたいと思います。
僕からの証言はここまで。次はもっとも親しい方にバトンタッチしたいと思います。
+ + +
《証言者L》
証言者Lだ。名は伏せておこう。
ヒント?そうだな……黒髪で鳶色の瞳でアルティニオス陛下の第一騎士といっておこう。それ以上のヒントはなしだ!
え?丸わかりだって?……アンタ、なかなか勘が鋭いんじゃないか?
で、何が聞きたい?アルとスーのそれから?様子?ああ、なるほど。
スーが妊娠していることは聞いたんだろう。そう、彼女は赤子を身籠っている。
なぜ俺が知っているかといえば、彼女の侍女に聞いたのだ。いろいろサポートしてくれと言われてな。
シルヴィと名乗った彼女はいろいろな情報をくれ、また相談もしてくる。たとえばアルの渡りを止めてほしいだとか。そりゃあそうだろう。
けれど、俺が言っても効果なかった。逆にかんかんに怒られた。セルジュ曰く、「言い方が悪い」らしい。なんだそりゃ。
次にシルヴィは、ユリウスに話を持ちかけたようだ。あいつもアルになにやら言ったみたいだが、こてんぱんにやり返されてきた。気の毒に。
ローザと名乗った侍女になんと言ったのか尋ねられ、ユリウスは「あのさ、アル……スーは、その、おまえとヤれないんだ」と言ったそうな。即座にシルヴィから「下品。変態。ヘタレ」という称号をもらっていた。どうやらユリウスはローザに憧れを抱いているようだったが、こちらから見るに、シルヴィとなかなかいい雰囲気だ。そう言ったらローザが「あのこはあなたに憧れていたのだけど……そうね、それもいいわね」とぼやいていたがよくわからない。
で、次に俺にも尋ねられたから正直に「アル、スーに近づくな。アンタとは付き合えないそうだ」と言った旨を答えた。ローザは無言でうなだれていた。なにかおかしかっただろうか?
女はよくわからない。
侍女たちは次の作戦に出たようだ。最終兵器・セルジュである。
結果からいえば、それは成功を収めた。なんでも、「王妃さまは繊細な心の持ち主。季節の変わり目で気分がすぐれず、そんな顔を陛下に見せたくないとおっしゃっています。女性とは実にか弱い生き物。ここは王妃さまのお心を尊重しましょう。ご心配でしたら、あなたさまのように王妃さまにも専属の騎士をつければいい」と進言したそうな。
ふむ、それも一理あるなと考えていると、アルからその勅命が下り、人材を選考することになった。
新人はだめだ。ここは熟練の騎士か腕の立つ信頼できる騎士がいい。
グレイクは護りというより攻めのタイプで、専属護衛にはむかないだろう。どちらかといえば部下をまとめ上げる役に欲しいし。ロイはいいかもしれないが、暴走するグレイクを抑える役割があるから却下だな。
ユリウスはどうだろう。あいつの腕はたしかだし、スーと仲もいい。
うん、そうしよう。
俺はすぐにアルに報告したが、待ったをかけたのはセルジュだ。
「兄貴の考えもわかるけど、ユリウスはやめたほうがいいよ。先の仕事もひと段落ついたし、専属騎士の役目は僕にしたらいいんじゃないかな?」
たしかにセルジュもいい。けれどあいつは『影』をまとめあげる役にも抜擢されているし、忙しいと思い選考には入れなかった。ユリウスかセルジュなら、攻撃や守備の形態はちがっても腕も同等だし、スーとも親しい。どちらにしても間違いはないはず。
なのに、どうしてユリウスはだめなんだ?
どういうことだ、と問うアルと俺。セルジュはにんまりと笑った。
「だってあいつ、スーのこと好きだったんだろう?陛下には心の安寧のため、僕のほうが適役かと――」
そこまで聞いて、アルと俺の考えは一致した。
アルはユリウスに嫉妬して仕事どころではなくなるし、俺もユリウスを思えば酷なことだと悟ったのだ。
ああ、そうか。あいつは辛い恋をしているのか――
すっかり忘れていた。あいつは平気なふりをしていたから、すっかり……
俺はアルの第一騎士。けれどユリウスの友人でもある。
恋の応援はできないが、代わりに新しい恋を、見届けよう!
そんなわけで、報告終わり。次の任務に移ろうと思う。
アルとスーの結婚式?ああ、話し忘れていたな。
それは次のお話で。




