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王国の花名  作者: 詠城カンナ
《新婚編》&《育児編》
136/150

第一話 うめて、つなげて


ここから番外編《新婚編&育児編》スタートです。

これからのスーとアル、周囲のお話になります。


ひとつ前の、【語られしおとぎ話】より時系列的には数年前になったり、

いろいろ時間軸が変わります。

回想的に語る部分もあるので。

注意はしますが、わかりづらかったら教えてください。


番外編ではアンケートでリクエストあったもの、コメントあったものを主に書いていく予定です。

皆さま、リク等、ありがとうございました^^

この場で改めて。



とりあえず、序章的な。




第一話 うめて、つなげて



†▼▽▼▽▼▽†



 花は枯れ、地に恵みはなくなり、湖は他者の血で染まった。銀の鋼鉄に映る己の目は、夜叉のごとく狂乱と輝き、その牙は乙女の細首に食い込んで美しき肉を引き千切った。

 空は常に曇天で、雷鳴轟く果てには涙とは云い難き非情の雨が降る。萌え出づることをやめた神は風が凪ぐことを忘れ、太陽の強い日差しに瞠目し、嘆いた。

 月は闇夜を照らすが、すべてを見せてくれるわけでもなく、広き海の航海の末に見つけた光は影を落とし、はじめて魅せた。

 


 の国は、亡びた。その宝石を抱き眠る眼に嫉妬し、逆上し、一寸の狂いもなく消滅した。

 しかし、受け継ぐ小さき希望は我が名のもとに集った。なんの因果か、高慢な若人を魅了し、離しはしなかった。

 アオとミドリ、ただふたり、夢に眠る。それが夢か現か、知る者などいなかった。ただ、苦しみ、恐れた暗闇のなかで、彼女は云うのだ。だから、その青は緑を求めた。求めずにはいられなかったから。

 目醒めたあとにみる夢は、いつも、囚われをワラうのだ。呪縛から解き放つことすら、怖くて。

 目をとじても、そこにいるのは、君だけだと。そう信じたいと願うのは、浅はかな欲望であり、卑下すべき願望であったのに。

 いつからか卑怯を忘れ、嘆く欠片を他者に拾わせることしかできなくなった。


 いつからか、いつからか。

 安穏とした世界に降り注ぐ暴挙。

 いつからか、いつからか。

 曇天の上から差し込む、希望の光。

 いつからか、いったい、いつからか。


 それは隣になくてはならない、王乞う花となり。

 それは傍になくてはならない、王恋う花嫁となった。


 そこに戴くは、黄金の冠。

 その手を取るは、赤の乙女。

 香りに誘われ、広がる紫。


 剣を握るか、花を贈るか。

 王を語るか、名を祀るか。


「どちらを取るか、選べ」

 ――言葉はなく、ただ。


「どちらを棄てるか、選べ」

 ――涙すらなく、ただ。


「その花の名は?」

 ――君の傍にいたくて、ただ。



 ただ、それだけの、願い。






* * * * *


「す、素敵ですわぁ~」

「さすがは国中に謳われる吟遊詩人!」

「見目麗しの陛下と、亡国の健気な乙女の恋物語……なんてロマンチックなのかしら!」


 城でパーティーを開くと必ずといっていいほど話題に上るのは、国中で有名なとある恋の歌だ。

 名もなき吟遊詩人が創り、ところ構わず歌っており、それは口伝えに国民に広がっていった。

 今宵、一か月後に結婚式をひかえたふたりのお披露目パーティーがカスパルニア城で開かれるとあり、国中の貴族たちが駆けつける。

 はじめ、ステラティーナの名を聞いたことがない者はいったいどこの家の者だと勘ぐり、身分の低い卑しい娘ではないか、ダンスも踊れぬのではないかと中傷をこぼしていたが、舞踏会での花の舞うようなダンス、王族にも引けを取らない作法の数々、そして今は亡き偉大なフィリップ第一王子の血族を受け継ぐ者であると知るや否や、彼らはこぞって手のひらを返したように顔に笑みを張り付け、誉め言葉の猛襲を繰り出す。

 余談であるが、「どなたにダンスや作法の諸々を教わったと思っているのかしら?あのフィリップ殿下ご本人なのに」という言葉を残したのはスーの侍女たちである。

 さて、まっとうな貴族、特に新たに設けられた十貴族となる者たちは豹変した媚び諂う他貴族の様子を不快に思いつつ、一方で未来の王妃になられるお方はどのように対処なさるのかと興味深々で盗み見ていた。

 陛下の婚約者として王宮にあがったステラティーナ。彼女は見え透いた魂胆を隠すこともできない貴族らににっこり笑みを浮かべるのみに尽きる。

 面喰ったのは十貴族の皆々。ただの頭の弱い娘か、それとも貴族らの虚言をまことと受け取りよろこんでいるのか、計りかねる。

 にんまり満足げな笑みを浮かべ、スーを誉めたたえた貴族たち。未来の王妃も手ぬるいと考えていた後日、手ひどいしっぺ返しに合うのだが……それはまた後日のお話。



 さて、アルティニオス陛下は表情を変えず、眉間のしわを刻んでいる。王子時代は舞踏会となれば魅惑の笑みをたたえていた彼であるが、陛下となってからは人が変わってしまったように、しかし威厳に満ち満ちた顔をするようになった。

 貴族の令嬢は『もうアルティニオスの蠱惑的なほほえみを見ることはかなわぬ』とはじめこそ嘆いていたが、ややして、『クールな陛下もしびれますわ』と口々に頬を染めていたのも記憶に新しい。

 今宵は無礼講だと、国王の宣言により宴がはじまった。


「アルさま、眉間がすごいことになっていますわ」

 くすくすと声をこぼし、スーは夫の刻まれた皺に触れる。

 ぴくり、と身じろぎし、アルは困ったように妻を見た。

「勘弁してくれ……他国への牽制のために愛想を振りまきすぎた。女に対してはもう偽りの笑顔が難しいのだ」

 冗談のようなことだが、わりと本気である。


 【冷酷王】と他国から恐れられるアルティニオスは、いつもの不機嫌さはどこへやら、外交では素敵な笑顔で対応する。それが【冷酷王】の印象と相まって、まるでなにか企んでいるのでは、こちらの弱みを握っているのではと向こうが勝手に憶測してくれるのだ。おかげでその笑みは【魔王の不気味な冷笑】と専らの評判である。

 アルはいい顔をしなかったが、クリスは「これは使えます」の乗り気で、以降、アルの無血外交のための計略として日々使われることとなった。


 偽りの笑顔ができないとアルは言ったが、スーにしてみれば万々歳だ。たとえ偽りでもきれいな笑顔なのだ。他の女に見せてほしくないと思うのは、我がままだろうか?

 とにもかくにもスーはそんな嫉妬心を押し隠し、クリスには握手を求めたいくらいであった。




 アルと再会を果たしてからほぼ毎日、ふたりは互いの離れていた時間を埋め合わせるかのように語り合った。

 

 アルは淡々と語る。十貴族を設けたこと、騎士の統制、他国との共同学園都市の設計、ベルバーニ王の崩御とともに使者を送りまだ幼い王子の後ろ盾としたこと……などなど。

 アーサーとイライジャは城での仕事を引退し、城下で穏やかに暮らしているという。イライジャは城下で薬問屋を、アーサーは度から帰還した妻のジェニファーとともにどこか旅行にいく心づもりであるらしい。

 余談であるが、ランスロットの母でもあるジェニファーは作家であり、作品のネタにと海外を飛び回ることも多く家にいる期間の方が短いという女であった。それでも夫はべた惚れなため、夫婦仲はアツアツである。ちなみに、昔ユリウスが巷の噂で聞いた乙女の恋愛小説バイブルの作者はこのジェニファーであったりする。



 スーもまた、己の体験を切々と語った。

 『最果ての国』または『最果ての世界』と呼ばれる集落のような場所は自然にあふれ、自給自足な生活のためか日々いろいろな怪我をする。たしかに薬草に関しても治療に関しても事細かな知識は増える。増えるが、生活自体が大変だった。

 まず、コミュニケーションの問題だ。ヌイストはスーを放置した。だから新参者のスーははじめ省かれた。食料もなく死ぬかと思った矢先、一族の長と思わしき少女がやってきて、スーを認めると言った。なぜかは知れないが、ひとまず九死に一生を得たスーは、水を得た魚のごとく彼女たちとの交流を図った。もはや人見知りだとか内気だとか言っていられない。それこそ命に関わる状況だったのだから。

 一年後にはすっかり集落の一員になった。知識も日々蓄えられ、かつては扱えなかった猛毒に関しても隅から隅まで理解できるようになった。

 こちらも余談であるが、スーは集落の一族から『赤の耳利き兎』と呼ばれていた。なにしろ耳が良いものだから、獲物の位置を的確に指示してくれる。とても便利――いや、ありがたい存在だったのだ。



「最果ての世界――国、か。聞いたことがないな」

「ええ。本当に……他にも『竜の国』や『穂の国』と呼ばれるところにも行きましたが、『最果ての国』だけは格別……原始的といいますか……はい」


 そんなふたりのつぶやきに、応える者はない。


 ただ、数年来であろうとも、ふたりの心の距離にはなんの問題もなかった。むしろ離れていたせいで、それぞれ一回り成長できたのであろう。

 ふたりは、それぞれ離れていた時をつなぎ合わせ、何度も何度も語り合った。



 穏やかに、時は過ぎていった――。





アーサーの妻、本編後に今更登場……(笑)

ちなみに名前には『美しき精霊、アーサー王の后』という意味があります。…たぶん。。

これは彼の妻しかいないと思いましてw


ユリウスの聞いた乙女のバイブルのお話は、たしか『馬上で嫉妬はおやめ下さい。』のユリウス視点である『僕の馬に乗らないで!』に出てたと思います。(つどいし夜の宴の譚・参照)

アレです(笑)


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