~語られしおとぎ話~
+語られしおとぎ話+
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「――こうして娘と王子さまは幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」
吟遊詩人が優美にしめくくると、パチパチと勢いのいい拍手がふたつ。
こどもふたりは目をきらきらさせ、身を乗り出す勢いだ。
「すてき!とっても、すてき!」
こどものひとり、まだ十にも満たない少女が、薔薇色の頬を染めて震えている。その隣にはもうひとり、気の弱そうな少年が少女をうかがいつつ、しかし物語の余韻に興奮を隠しきれずにいるのは明白だ。
「はやくわたしも仮面舞踏会に行きたいわ」
「だめだよあねうえ。父うえに怒られる」
「おまえは本当に臆病ね!」
吟遊詩人はこどもたちの様子にワインレッドの目を細めてくすりと笑う。
カスパルニア王城。今宵は夜会が開かれ、夜だというのに明かりがもれている。
しかし、まだこどものふたりはパーティに参加することなど許されず、渋々夢に旅立った――はずであった。
とうに寝静まったと侍女たちも安心し、末の子の部屋に向かったあと、こっそりと目をあける姉弟。
月明かりに照らされたバルコニーに目をやれば、そこにはにっこり笑ってこちらに手を振る馴染みの青年の姿。白い衣服は月夜に映え、摩訶不思議で幻想的な雰囲気を醸し出している。
駆け出したいのを我慢し、ふたりはそろりと足音を忍ばせ、バルコニーに出た。
そしていつものように、物語をせがんだのである。
吟遊詩人の男は懐からモノクルを取り出し装着すると、いつもの道化師のような笑みのまま、「今宵はこれにて」とひどく丁寧なお辞儀をした。
ひょいと軽々、バルコニーから降り立つ。いつものことなので、すでに慣れてしまった姉弟は特に心配するふうもなく、手すりにしがみついて手を振り返した。
「じゃーね、ぎんゆうしじんのお兄さん!」
「またお話聞かせてねー」
憚ることなく大きな声で別れを告げるこどもたちに苦笑をもらし、彼は背を向けた。
「今度はあなたがたの物語を紡いでみたいですねー」
ぽつりとつぶやく。
遠目に見える、赤い花畑に目を細めた。
月夜にそびえたつカスパルニア城。その目前に、きらめく光を受けて映え、咲き誇る花々。
「なんてあまくて、残酷で、愛しいのでショウ、ねぇー?」
つぶやいた彼の顔は、やはり笑顔。
「気まぐれとは、実に都合いい。しばらくは退屈しなくてすみソウですね~」
ふと見上げた月は、どこまでもうつくしく。
赤い花はどこまでも優美に香り咲き。
「いつか、ワタシにも――」
孤独な獣が女神の雫を見つけたように。
茨の武者が神の使いに出会ったように。
偽りの太陽が惑いの声を聴いたように。
冷酷な月が赤い花に名をつけたように。
いつか己にも、手にできるのだろうか?
この永久につづく世界で、焦がれるのだろうか。
そんなの、ダレにも、ワからナイけれど。
きっと、紡いでみたくなるおとぎ話に想いを馳せて。
それまでは口のなかで、名を転がす。
その、花の名を。
男は笑みを深め、ひどくやさしい声でささやいた。
「うつくしいお花さん、あなたのお名前は――?」
あとがき
これにて本編終了。
約4年の長い間、ありがとうございました。
終わり方はずっと頭のなかにあって、
いろいろ遠回りもしましたが、ようやくお話にまとめられたなーとしみじみ思います。
わたし自身、とても思い入れのある作品になりました。
皆様の励ましや読んでくださったことによりここまでこれました。
ありがとうございます^^
次回より、番外編というか、アンケートに投票のあったお話やリクエストのあったお話を更新していきたいです。
新婚編と育児編は『王国の花名』にて更新し、他のお話は『つどいし夜の宴の譚』にて公開していこうと考えております。
番外編は次回作の軽い伏線も余裕があればはれればイイな、と考えておりますが、
本編よりあまいorコメディちっくになる予定です。
気軽にお付き合いくだされば幸いです。
※
詳しいあとがきはこちら→http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/22331/blogkey/626663/
アンケートについてはこちら→http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/22331/blogkey/617860/
それでは改めまして、ありがとうございました。
※追記:
子世代編【ネイの魔法】も公開してます。
お暇なときにでも目を通していただければ幸いです^^




