第1章 出会い
学園ものかきてーの根性で書いていきます!
曇り空から僅かに日差しが覗く。梅雨の季節。6月にふさわしいじめじめとした空気が、ワイシャツと肌とを密着させる。
「転校生だって、こんな時期に。それも美少女。超かわいいらしい」
産川歳三は俺の隣の席に座り、ニヤリ顔で俺の顔を覗き込む。視線から逃れるように黒板横の掲示板を見ると、6月末日から演劇の舞台があると書いてある。すぐに視線を戻したら、やはりとしが俺の顔を見ていて、思わずげんなりした。
俺が何か返そうとしたら、担任の木原音寝が教室へ入ってとしを指差す。
「ほら、産川、さっさと席戻れ」
としにの行く末には目もくれず、木原先生は白色のチョークを片手に黒板に文字を書く。
「じゃぁまた後でな、哲也」
軽く俺の机を叩き隣の席を立つと、廊下までカニのような横歩きを披露して、
「うひょーーー」
廊下で叫んだ。
としはその勢いのままドアを開けて興奮気味に聞いた。
「せ、先生。もしかして廊下にいるのって噂の美少女ですかっ?」
「お前はほんとに、私の順序を崩すやつだな」
木原先生は黒板に転校生とだけ書いてチョークを置いた。
「そうだ。もういいか、連絡事項は後にして、明日原、入ってこい」
はい、と元気な声が廊下に響いた。その声は梅雨の季節に真っ向から立ち向かうような、澄んだ声だった。
「し、失礼しますっ」
ぴょこんと伸びた赤色のアホ毛が、歩くたびに揺れる。緊張しているのか、なんば歩きになっており、肩は少しだけ震えている。その肩にかかった髪はさらさらで、腰のあたりまで伸びている。
チョークを持つ。そのチョークと遜色ないぐらいに白い腕で、黒板に文字を書く。
明日原未来。一文字が彼女の顔ぐらいある大きな字でそう書かれた。
「えっと、明日原未来です。こんな時期に転校なんてちょっと変かもしれないんですけど、よろしくお願いしますっっ」
明日原は言い終わる前に頭を下げる。それを見た一部の人が歓喜の声を上げる。
「ひゃっほー、正統派美少女きたーーー」
「やばいわー、まじやばいわー」
「レベル高すぎだろ」
「きゃー、あんなに白い肌初めて見たっ。ゴスロリ着せたいわっ」
教室内の空気ががらりと変わり、明日原は少しだけ顔を上げて目を丸くする。
「えっと、その、よろしくお願いしますっっ」
精一杯明日原が答えると、それが火種となり、空気がさらにお祭りモードに変わる。中にはワイシャツを脱ぎ出し振り回すやつまで。おい、としやめろよ。
気だるそうにしていた木原先生は、明日原だけ聞こえるように耳打ちする。
「はい、わかりましたっ」
そう返事をすると、真っ直ぐ俺の方へ向かってくる。クラスの視線が、俺と明日原を交互に行き来する。
「えっと、ここに座れって言われたんですけど……」
そう言って明日原はさっきまでとしが座っていた席に腰掛ける。
コホン、と一つ咳払いをして、明日原が俺と顔を合わせる。髪にも負けないくらいの真っ赤な瞳には緊張と不安が入り混じっているように見える。
「明日原未来です。よろしくお願いしますっ」
明日原は小さくお辞儀をする。俺もそれに習って首を下げる。
「俺は黒木哲也。こちらこそよろしくな」
一瞬の静寂の後、思い出したように外の雨音が大きくなる。それよりも大きな音でチャイムが鳴った。
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