第0章 絶望
はじめまして、文芸マンと申すものでございます。今回は私の作品を選んでくれてありがとうございます。週1以上投稿ペースでやっていきたいと思います。よろしくおねがいします。
幕が降りる。布越しに大きな拍手が漏れ聞こえる。人気子役で演劇員の僕は、誰からも愛されていた。天才演技派なんてメディアに取り上げられることもしばしば。そんな僕は今、美女と野獣の主役である野獣役だ。また来週の出番に向けて、稽古を始めた。
本番3日前。僕はけがをした。かなりの大怪我で舞台は降板、代役を立てられた。当時まだ名が知られていなかった同い年の野嶋 隆平を一瞥して、かわいそうだなと思った。こう言うのも変かもしれないけど、僕目当てでくるお客さんというのも一定数いる。だから代役を立てられたときにはネットは騒然としてたし、各所メディアで取り上げられた。
本番当日。裏方として小道具の準備や、出演者と軽く話していた。野嶋は変わったやつで、出演者の前で稽古している姿を見せたことがない。だからこそ僕たちも不安だったし、愚痴をこぼしたりもした。
「何をしている」
声は抑えられているが、確かにそう聞こえた。野獣の冒頭セリフ。僕が何千、何万と口ずさんだセリフ。だからこそ聞き間違えるはずがなく、聞き間違えであってほしいと思った。その声は、心臓をわっと掴んで、逃げれないようにして、頭とか心とか体全体にずっと反響して、その場を動けなくなるくらいの迫真の演技だった。 それを聞いた直後、出演者は軽口を閉じた。
幕が降りる。会場から漏れ出んばかりの拍手が起こる。裏では野嶋やその共演者達がハイタッチを交わしている。それを尻目に、先ほどの舞台を思い出す。あのステージに僕がたったとして、本当にあれだけの拍手が起きるのか?あんなに上手く演じることができるのか?
色んな感情がごちゃ混ぜになり、それがやがて黒く染まる。
ーーもう僕はいらないーー
お読みいただきありがとうございました!