拝啓 天馬 ムカぷんですよ!
天馬、私はいまムカぷんです。
ムカムカぷんぷんですよ。
…………駄目だわ。可愛く言ってみれば気分も上がるかと思えば、無駄なあがきだったわ。
天馬、護衛が美形で腹が立つので嫌がらせしてやりてぇと思う私は、人として失格でしょうか? でも、仕方ないと思いませんか?
顔はいいわ、体格はいいわ、家柄はいいわ、モテない男に喧嘩を売っているとしか思えません。
え、お前今は女だろうって?
女だって、モテる男に反感持つんですよ!
すみませんね、心が貧しくて!
失礼、ちょっと取り乱したわ。私としたことが、なんて淑女らしくないのかしら…くっ、これもジェラジェラのせいよ。
アイツ、あれだけ嫌味を言ったのに、全然意に介してないのよ。
昨日も、ずっと後ろに張り付いてこられて、正直ノイローゼになりそうだったわ。
護衛なのに、まったく守ってもらっている気がしないし、逆に一緒にいるとすごく疲れるうえに、したくもない愛想笑いで、顔が引きつりそうよ。
たった二日で、私の神経をここまで摩耗させるなんて、ジェラジェラなんて恐ろしい男なの!
ああああ、もう本当にあの男、ニコルみたいな美少年とくっつかないかしら!
そしたら、私の敬愛するラナお姉様もお喜びになられるし、女学院のお姉様方も恋慕などという、ゴミ箱にでも捨てて欲しい感情に左右される方も少なくなると思うの。
そう、美形は皆、行間の刑を科せられればいいと思うのよ!
レオレオにはニコルがいるのに、ジェラジェラにはいないのかしら?
今度探して、行間の刑にしてやるわ。楽しみに待っていて、天馬!
朝、昨日は疲れてすぐに寝てしまったため、書けなかった天馬への手紙を書き終えると、すぐさま一階に降りる。
“王の剣”に来てからのソフィーの朝は基本早い。“女王の薔薇”と違って、自由に使える台所があるため、朝食と昼の準備ができるからだ。
「今のところ、これだけは感謝しているわね」
手早い処理で、朝食と昼食となるお弁当を作りながら、呟く。
そうこうしていると、サニーがやってきた。
「おはようございます、ソフィー様」
可愛らしい笑顔で朝の挨拶をくれるサニーに、同じく笑顔で挨拶を返すと、サニーはすぐさま料理の手伝いをしてくれた。
この建物にいる使用人は彼女一人で、あとは聖騎士が扉を守っているだけだ。どう考えてもサニーに負担が大きいのだが、できるだけソフィーに新参者をつけさせたくないフェリオの意向に、サニーも同意し、軽易な仕事は外注することで様子を見ている。それを踏まえて、ご飯作りはできるだけソフィーが担当することにした。
料理はソフィーにとって趣味であることを、サニーは熟知しているので、ご令嬢らしくないなどと、とやかく言ったりはしない。その代わり、こうやって手伝ってくれるのだ。
朝食と昼のお弁当まで作り、サニーと一緒に食べたあと、自室に戻る。今度は身支度だ。ソフィーにとって、凝ったドレスでもない限り、一人で着替えることなど簡単なことなのだが、サニーは食事の準備はさせてくれても、身支度だけは一人でさせてくれなかった。
ソフィーを着飾ることは彼女にとって至福のひと時らしい。それを奪うと、とても悲しそうな顔をされる。確かに、あまり一人ですると、侍女としてのサニーの仕事を奪うことになるので、大人しく手を借りることにしていた。
全ての身支度が終わると、一度部屋を出ていたサニーが、しばらくしてまた部屋に戻ってきた。
「ソフィー様、本日の護衛の方がおいでになりました」
本日の護衛という言い方に、ソフィーは首を傾げた。
その言い方だと、今日はジェラルドでなく、別の人間が来ているのだろうか。
しかし、サニーお気に入りのレオルド似のジェラルドが来ていないせいなのか、サニーにしては珍しく気もそぞろな雰囲気を感じる。
「サニー、どうかしたの?」
問えば、サニーは「いえ、なにも!」と声を張り上げた。絶対いつもよりおかしい。
今日の護衛は、ジェラルドよりもいい男なのだろうか?
ジェラルド並に美形というと、医科学研究所所長のロレンツオ・フォーセルくらいしか浮かばないが、さすがに彼が護衛などするわけがないし、会う約束になっているのは数日先だ。
「今朝は、ルカ様という方がいらっしゃっています」
「ルカ様? そういえば、最初の自己紹介の時に、そんな名前の方がいたような」
ジェラルド辺りの自己紹介から、ほぼ聞いていなかったが、確かそんな名前を聞いた気がする。すぐさまホールへと急ぐと、そこには可愛らしい顔立ちをした少年が姿勢よく立って待っていた。
「ソフィー様、おはようございます。本日は、私が護衛を仰せつかっております。若輩者ですが、どうぞよろしくお願い致します」
ソフィーより背は高いが、年はあまり変わらないように見えるルカは、大きくクリクリとした緑の瞳と、美しい黒髪をもった美少年だった。
(うわ…、外見がニコルそっくり…)
ルカを一目見て、サニーがやけにそわそわしていた理由がよく理解できた。サニーは、あの物語で一番ニコルがお気に入りなのだ。
『金色の騎士と黒曜石の少年』のニコルそっくりな少年に、ソフィーは驚愕をなんとか喉の奥で食い止めた。そしてよくよく観察すると、確かに初日の挨拶の時にいた気がする。あの時は世を儚んでいたため、ニコルに似ているこの美少年を認識できていなかった。
(もしかして、この子がニコルのモデル…とか?)
そう思うほどの逸材だった。
髪が短いので、余計にニコルを彷彿とさせる。




