ソフィー・リニエールというご令嬢~ジェラルド・フォルシウスの精察~
伯爵家の三男として生まれたジェラルド・フォルシウスは、生まれた時から聖騎士になることが義務付けられていた。
フォルシウス家は、代々王族を守る騎士の家系であり、一族は皆、聖騎士の称号を持っていた。それは長子でも同じであり、一度は聖騎士となり、その後跡目を継ぐのが習わしだった。
三男であるジェラルドは、一族の掟通り聖騎士となった。しかも、史上最年少で聖騎士となり、ゆくゆくは第一王子の護衛になることがすでに決定していた。
その第一王子より、ある少女の護衛を任された時は、正直なぜ自分なのかという疑問は持った。
男爵令嬢ソフィー・リニエール。女性初の星を賜った少女がもつ色は紫。
誰だって驚くだろう。
そして噂する。
やはり、あの女が生んだ王子だからだと。
やはり、あの王の血が王子にも流れているのだと。
だから、第一王子も身分相応しい公爵家のご令嬢よりも、身分の低い女にうつつを抜かすのだと。色欲で紫星を授けるなど、馬鹿馬鹿しいと。
ジェラルドは、第一王子がそのような人間でないことを理解している。だからこそ、不思議だった。なぜ、彼がまだ少女と言われる年の女性に紫星を与えたのかが。
彼女に会えば、少しはそれが分かるかと思ったが、正直、第一印象ではまったく理解できなかった。
ソフィー・リニエールは、見た目は確かに美少女といえる、容姿の整った少女だった。だが、紫星を賜るような知性はそこからは感じられない。ただ顔に笑みを浮かべ、形式的な挨拶を述べるだけの普通の少女だ。
彼女は、第一王子の婚約者である、公爵令嬢クリスティーナ・ヴェリーンとはまったくタイプが違う。クリスティーナは、圧倒的な存在感で周りをひれ伏させるほどの、まさに王妃となるべく生まれた女性だ。ソフィー・リニエールとは、もって生まれた資質が違う。
(殿下は、こういう大人しそうな女性が好みだったのか?)
ソフィーが、ロレンツオと会話をしている間も隣で聞いていたが、幾つかの質問にも、あまり答えられていなかった。
ロレンツオの美貌に見惚れているのか、それとも緊張故か、心ここにあらずといった感じでどこか遠くを見るような瞳だった。
しかし、寮へ送る際、それは起こった。
「王族から警護を任されれば、誰であろうがお守りするのが黒星です。その役目を理解できないような頭の悪い女が、黒星の婚約者にいるとは思えませんが」
ジェラルドがそう言った瞬間、虚ろだったソフィーの瞳に殺意の色が走った。
ほんの一瞬だったが、殺意に敏感な騎士だからこそ感じ取れた。
ジェラルドにとっては、なぜ今の発言でそこまで怒りを買ったのか、なぜまだ年若い少女がこれほどまでの殺気を出せるのか理解できなかったが、ソフィーの逆鱗に触れたことだけはすぐに察した。
失言を謝罪しようかと思ったが、ソフィーはまるで何事も無かったかのように、先ほどと変わらぬ笑みを浮かべ、言う。
だが、その言葉は先ほどまでの大人しい少女とは思えぬほどに、毒のある遠回しの嫌味だった。
不意に、第一王子に言われた言葉を思い出す。
『令嬢に紫星を与え、“王の剣”で大成を果たせというのは、正直酷な話だと思う。だからこそ、アイツの我儘は多少聞いてやってくれ』
彼は、王族の中でも優しい人だ。思いやる気持ちをいつも忘れずに臣下にも接する。ジェラルドも、第一王子に対しては職責以上の気持ちで仕えていた。
しかし、コロコロと気持ちを変化させる女性の扱いは、ジェラルドが一番不得意とするところだった。
『ご命令に背くつもりは一切ありません。ですが、私は兄とは違います。我儘な女性のお相手は、私には無理です』
『ただの我儘な女なら、まだ扱いが楽だが、あれは本当に変な女だぞ。――――喰われるなよ』
不敵な笑みで言われた時は、どういう意味か分からなかった。
今なら少し分かる気がする。
(なるほど。殿下がおっしゃった通り、変わった少女のようだな…)
それでも、今はまだ変わった少女というだけだ。
彼女が、本当に紫星を賜るほどの逸材なのかは不明だ。
もしも、彼女がそれに値しない人間であれば、たとえ第一王子の想い人だったとしても、自分は彼女を排除しなければならないだろう。
自分は王族を守るための聖騎士だ。
王族の利益にならない人間は、等しく滅する。
それが、代々王に仕えるフォルシウス家最大の職務だった。




