ソフィー・リニエールというご令嬢~フェリオ・レクスの邂逅と絶望Ⅲ~
ソフィーが書類を作るべく部屋を出ていくと、入れ替わるようにクリスティーナが入室する。
「殿下、ソフィーはなんと?」
婚約者にしては、珍しく声に緊張があった。
承諾したと言えば、ゆっくりと目を閉じる。長い睫を伏せるその表情には、安堵と、だが少しばかりの失意があった。
「あの子は、きっとこの大舞台の主役となり、華麗に舞って皆を驚かせるでしょう。それがとても楽しみであり、同時に心寂しくも感じます。……もう少しだけ、わたくしの傍でその愛くるしい笑みを見ていたかったですわ」
この学院で、二人が同じ時を過ごすことはもうできない。
クリスティーナにとっては、残り少ない学院生活だ。本来なら、そのわずかな時間を、“妹”と過ごしたかったのだろう。
「ですが、これは未来への布石です。ソフィーが、見事大成を果たせば…」
クリスティーナが、まるで自分に言い聞かせるように言葉を紡ぎ、何かを想うようにまた目を閉じた。
今ある幸福よりも、先の大きな幸福を得るために決意する。婚約者のそんな表情に、フェリオは考える。
ソフィーは、クリスティーナとも約束を交わしたのだろうか、と。
あれだけクリスティーナに心酔していれば、それも十分あるだろう。しかし、解せなかった。
「クリスティーナ、あれはなんだ?」
「あれ、とは?」
「ソフィーのお前に対する献身だ。あれは病気の領域だぞ。本題に入る前に、延々お前の話を聞かされた。本題の方が、短く終わったくらいだ」
人の話は聞かないわ、自分がクリスティーナの婚約者だという事実にブツクサ言い、認めない、認めたくないとうるさかった。
そうクリスティーナに愚痴れば、麗しい婚約者は輝くばかりの笑顔で言う。
「申し訳ございません、殿下。ソフィーは、わたくしの言うことはよく聞くのですが」
「だから、悪意しか感じないぞ!」
ソフィーもだいぶ変だが、目の前の婚約者もかなり変わっていることを、フェリオは知っている。
だが王妃として素晴らしい素質を持っていることは認めていた。だからこそ、疑わしい行動の意味を聞かねばならなかった。
「クリスティーナ、なぜソフィーと姉妹の契りとかいうやつを交わした? しかも入学初日に行ったそうじゃないか。お前……まさか…」
なぜか、それを口にするのも恐ろしく、フェリオはクリスティーナを睨む。睨んだところで怯むような女ではなかったので、言葉を続けた。
「変なことを、考えてないだろうな?」
「まぁ、殿下。わたくしが、殿下に仇をなすとでもお思いですか?」
「お前は賢く、王妃の器を持っている。これ以上に無いほどの相手だ」
「光栄ですわ」
賢い婚約者は、美しい微笑みを返しても、フェリオの真意をあえて汲み取ろうとはしなかった。
それが、答えとなり、フェリオは言いたくない言葉を言わなければならなくなった。
「だが、立場を考えろよ。側室の有無は、お前が口を出せる範疇ではない」
「殿下、それは違いますわ。王妃が側室の“無”に口を出すことは許されておりませんが、“有”については口を出す権利がございます。殿下の側室となる者は、それにふさわしい者でなくてはいけませんもの」
「お前…やっぱり…」
入学初日に姉妹の契りを交わしたのは、ソフィーの側室としての資質を見るためだったのだろう。たとえ資質が無かったとしても、クリスティーナは優秀な女だ。どんな愚鈍な女でも、一流に仕立て上げるくらいの力量がある。
「その点、ソフィーは合格です。聡明で、場を読み、機転も利きます。容姿も申し分ないですし。側室としては地位が低いのが難点でしたが、紫星として大成すれば、文句を言う者などおりませんわ。いいえ、言わせません」
自分の婚約者の恐ろしい言葉に、フェリオは恐れおののいた。
クリスティーナがソフィーの名を口にした時から、嫌な予感はしていた。
この女は、未来の王妃として完璧だ。完璧すぎて、恐ろしいほどに。
「お前は俺を殺す気か! あんな、お前に心酔している女に側室になれと言ってみろ、その瞬間殺される!」
「イヤですわ、殿下。殿下に危害を加えるような者などおりません」
「アイツは誰もいなければ、俺の胸倉を掴んで凄むくらいする女だ!」
「そんな、初恋の君に対してあんまりな言いようですわ。ソフィーは、そのような行いは致しません」
「お前の前では猫を被っているだけだろう! それに、アイツには想う相手がいる。側室になどなるわけがない!」
思わず叫べば、クリスティーナの顔色が変わった。スッと冷淡な顔になる。
「……ああ、あの会えない方ですか。親友と言っておりましたが、男性なのですか?」
「聞きなれない名前だったが、響きからして女ではないな」
知らないのだと思って言えば、しっかり知っていた。まさか知っていながら、フェリオの側室に推すとは。婚約者の神経が分からない。
「ですが、ソフィーは会いたくても会えない方だと言っておりました。世界の端と端以上に遠いと。会えもしない人間に、怯える必要などどこにありますでしょう。女は記憶を上書きする生き物です。恐れるに足りませんわ」
美しい笑みを浮かべながら、自信たっぷりに言う婚約者に、フェリオは頭を抱えた。
皆様、評価、ブックマーク頂きましてありがとうございます( ;∀;)
ご感想もありがとうございます( ;∀;)
ポンコツな返信ですが、ポンコツだから仕方ないと諦めて下さると幸いです。
そして誤字脱字報告を下さる方々、いつもありがとうございます!神だと思ってます。
フェリオのターンはあと一回で終わりますので、もうしばらくお付き合い下さいませ(/・ω・)/
※追加情報※
森下は基本どの感想も削除することなくご返信いたします。ですが、卑猥な単語を使われる方は全て削除致します。基本、男性AVに出てくるような単語はNGです!読んで下さる方には、まだ18歳になっていない方がいらっしゃることを考慮して下さい(*^-^*)




