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拝啓 天馬 またもや私に僥倖が訪れましたⅢ


 ソフィーの戸惑いに気づいたのか、クリスティーナは無理には勧めず、会話を続けた。


「ソフィー、花の祭典の件なのですが、ごめんなさいね」


 また謝られた。しかし花の祭典のことで謝られることなど一つも無い。


 なぜクリスティーナが謝罪するのか分からず、目をキョトンとさせていると、花の祭典の審査員は自身だったことを告げられた。


「謝っていただくことなんて何もありませんわ! また次、審査員の方のお眼鏡にかなうよう精進いたします」


 逆に不正だと思われなくてよかった。次の祭典の時には、クリスティーナはもうこの学院にはいない。クリスティーナの卒業を考えれば寂しくて辛いが、別れは一生ではない。そう思えば、彼女が卒業してからも頑張れる。


 来年の審査員がクリスティーナではないのなら、不正を疑われることも無いだろう。ご令嬢らしい素晴らしい“花”を提出し、栄冠を勝ち取って、クリスティーナに報告したい。


 元気よく答えるソフィーに、クリスティーナはその美しい髪と同じ色の眉根を困ったように寄せた。


「いいえ、ソフィー。貴女の“花”はとても素晴らしいものだったわ。だから、わたくしはそれをある方にあげてしまったの」

「ある方に、ですか?」


 一応自分の渾身の計画書だという自負はあるが、正直あんなものを貰って嬉しい人間がいるのだろうか。


「えっと、アレをですか? いただいても困るものではないでしょうか?」

「……ソフィー、貴女は本当に不思議な子だわ。わたくし、花の祭典であんなものを目にするなんて思いもしなかったわ。“花”を審査する時は、誰が提出したものか名を伏せられるけれど、読んですぐに貴女のものだと分かったわ。あんな革新的なアイディアでこの国を想い、それを成そうとするご令嬢なんて、わたくしは一人しか知らないわ」

「クリスティーナお姉様…」


 前世の世界の下水道システムを取り入れるべく書いたあれを読んで、理解を示してくれたクリスティーナに、ソフィーは感動した。


 この世界の住人からすれば、本当にこれでうまく下水処理ができるのかと疑われても仕方ない部分もあるだろうに、クリスティーナは絵空事だと切って捨てなかった。それがとても嬉しかった。


「そう言っていただけただけで、光栄の極みです」

「……だからこそ、わたくしはそれを、わたくしの婚約者にお渡ししたの」

「クリスティーナお姉様の婚約者様…ですか?」


 彼女の婚約者はこの国の王子だ。ゴクリと息を呑む。


「殿下はとても感心していたわ。殿下だけではなく、稀代の天才と言われる方もまた、貴女の“花”を称賛していたわ」

「稀代の…天才?」

「ええ。オーランド王国の医科学研究所所長を務めるロレンツオ・フォーセル様よ」

「え…」


 その名は聞いたことがある。


 侯爵家の次男。その類まれなる頭脳と美貌は随一。


“女王の薔薇”のご令嬢たちの憧れの君だと、皆が口にしていたからだ。


「そんな方が…」


 聞けば、ソフィーの“花”を読んだ第一王子は、すぐさまオーランド王国の医科学研究所所長を務めるロレンツオ・フォーセルへそれを送った。この原理が可能なものなのかどうかを確認するために。返事はとても早かったそうだ。


「ロレンツオ・フォーセル様は殿下に進言されたわ、この計画はすぐにでも行うべきだと」

「!!」


 認められた。それは歓喜の衝動だった。


 自分が、ではなく、下水道システムの原理が理解され、認められたことが嬉しかった。


 下水道計画は、どんなにソフィーが実現しようと願っても簡単にいくものではない。これは国レベルの事業だ。個人でどうにかできるものではなかった。それをどうやって動かすか、ずっとソフィーは考えていた。


 しかし、女で、地位も男爵の娘程度では決して殿上人には届かない。それが届いたのだ。クリスティーナの力によって。


「動いて…くださるのでしょうか?」

「殿下はそのお積もりよ」


 ソフィーは目をつぶった。言葉にできない想いと喜びが、胸を満たす。


 だが、クリスティーナの前で子供のように喜ぶわけにはいかない。


 その代わりに、ゆっくりと目を開き、目の前の美しい人に淑女の礼を執った。


「ありがとうございます、クリスティーナお姉様。オーランド王国における、私の憂いが一つ解ける思いでございます。私一人では夢物語でしかなかったものを、クリスティーナお姉様のお力で形にできる光栄を、至上の喜びを、なんと言葉にすればよいのか分かりません」


 第一王子と、この国の最高峰ともいえる医科学研究所所長が計画を遂行してくれるというのなら、ソフィーにとってなんの否も無い。


 できることなら、自分もその一人となり計画を見守りたかったが、女の身分では無理だということは痛いほどに分かっている。


 だからこそ、ソフィーはほほ笑んだ。


 自分にとっての絶対は、この国の下水道システムを確立することであり、己がそれに固執することではない。


「全てを皆さまにお預けいたします。計画の成功を、切に願っております」

「あら、ソフィー何を言っているの?」

「……え? あの、計画を実現していただけるのでは?」

「ええ、計画は実現するわ。貴女の力でね」

「へ…?」

「貴女が作った計画なのよ、貴女が最高責任者にならずして、いったい誰がなるというの?」

「え…え?」


 クリスティーナの前で、惚けた発言はしたくなかったが、意味が分からず適切な言葉が出ない。


(私が…最高責任者? 私が、なぜ?)


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転生前は男だったので逆ハーレムはお断りしております 完璧淑女への
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[一言] ホワイ?何故!わけわかめ
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