拝啓 天馬 またもや私に僥倖が訪れましたⅡ
「ソフィー、結果が貼り出されているらしいの! 一緒に見に行きましょう!」
お昼の時間、慌てたように訪れたリリナに、ソフィーは首を傾げた。
「最近、貼り出されるような試験がありましたでしょうか?」
「花の祭典の結果よ! 忘れちゃったの?」
「ああ、そういえばそうでしたね」
確かに、以前提出した花の祭典の結果がそろそろ出るころだ。
だから皆、今日はどこかそわそわしていたのか。
ソフィーもふわふわとした日々を過ごしていたが、それは花の祭典とは一切関係が無く、もっと浮ついた感情だったので気づかなかった。
ソフィーの学院における重要事項はクリスティーナお姉様第一、リリナが尊い、ご令嬢たちが可愛いだったので、提出した花の祭典のことなど恥ずかしながら忘れていた。
(しかも、提出したのが『オーランド王国における下水道計画』じゃ、絶対に優秀賞は無理だものね)
そもそもご令嬢が考えることではないうえに、夢も希望も美しさも無い。
自分にとっては夢と希望と現実絶対必要の気持ちに溢れていても、ご令嬢としては絶対に必要ない。花の祭典なのに、提出した“花”がこれでは、審査する人間もかなり困っただろう。
天馬には結果を楽しみにと書いたが、まったく楽しめる要素が無かった。
「申し訳ありません。私はまったく自信の無い“花”を提出いたしましたので」
「もうっ、ソフィーはすぐに謙遜を言うのだから!」
「いえ…、謙遜ではなく、本当に」
「さぁ見に行きましょう!」
腕を絡ませ、引っ張られる。
胸が当たるので、嬉しいけど、嬉しいけど、やっぱり嬉しいけど止めてほしい。
浮ついた感情は今日も抑えきれず、ソフィーをふわふわとさせる。
そう、だから貼り出された結果に、自分の名が書かれていなかったとしても、なんら問題なかった。
問題なのは、絶対にソフィーが優秀賞だと信じて疑っていなかった欄に、自分の名が書かれていたリリナが驚きとショックで、ソフィーに抱きつき、思いっきり“豊穣の恵みにふれた祝福という名の僥倖”第二弾を味わうことになったことだ。
その相変わらず柔らかいたっぷりに気を取られたソフィーは、集団で見に来た生徒たちの波に押され足を滑らせたリリナを助けようとし、誤って地面に頭を打ち付けた。
これは、神から与えられたお仕置きだと、ソフィーは心底思った。
(でも、でも! 私からは触っていないわ! 触っていないですからね、神様!!)
頭を打ち付けたソフィーを心配し、リリナが泣きながら謝罪の声を上げ、場はしばし騒然となったが、それはソフィーにとっては春の陽が差し込むような、うららかな幸せの時だった。
この日、この時までは――――。
◆◇◆◇◆
突然、その日はやってきた。
いつも通りの日だったのだ。
朝、授業を受け、お昼をリリナと取り、午後の授業が始まる前までは。
午後の授業のため、教室に帰ろうとしたところを、クリスティーナの侍女に止められた。クリスティーナが呼んでいるという事だったので、ソフィーは慌てて向かった。
案内されたのは、いつもお茶会をしている庭園でも温室でもなく、クリスティーナの自室だった。侍女が、扉をたたき、入室の許可を取る。なぜか、クリスティーナの侍女から緊張が伝わってきた。
ソフィーはクリスティーナの自室に入室するのは初めてだ。だから少し緊張した。だが、なぜ侍女が緊張しているのか分からない。
ふと、廊下を見る。なぜか違和感があった。なにか、たくさんの気配を感じた。まるで、何かを守ろうと静かに息を殺しているような。
(侍女? いえ、侍女にしては気配が手練れのような…。クリスティーナお姉様の護衛かしら?)
だが“女王の薔薇”では、護衛でも男が敷地の中に入ることは難しい。
講師や、門番などは別だが、個人の護衛は許可されていない。親や兄弟すら、事前申請が必要で、面会も部屋が決まっている。
訝りながらも、侍女が開いた扉の中へと進む。
さすが公爵令嬢の部屋となると、自分の自室より倍以上広く、部屋は二部屋あった。奥の扉が寝室だろうか。入室した部屋には、テーブルと椅子が置かれていた。また違和感があった。
(この部屋は、本当にクリスティーナお姉様の自室なのかしら?)
なぜだかそう思った。置かれている調度品は重厚で高級な物だが、クリスティーナの好みそうなものではなかった。違和感は続く。
けれど、ソフィーの敬愛する“姉”は、確かにそこにいた。
椅子に座り、いつもと変わらぬ微笑を浮かべている。
金と銀の刺繍が美しい青色のドレスに身を包み、光沢のある黄金の髪が今日も眩しく光り輝いている。
「ソフィー、突然呼び出すような真似をしてごめんなさい」
クリスティーナの口調は普段と同じだ。優しい笑みも、高貴な振る舞いも、所作一つの美しさも。その小指には、ソフィーが贈った指輪が輝いている。
「いえ、クリスティーナお姉様のご用とあれば、このソフィー、たとえ地獄でも喜んで参ります」
勇敢な騎士のような発言をする“妹”に、クリスティーナが笑う。
座るように勧められたが、なぜか座る気になれず躊躇する。
違和感がぬぐえない状況で、もしなにかあればすぐにクリスティーナを守らなければならない。座っているより、立っている方がいざという時に動きが速いからだ。
拙作にブックマーク、評価、ご感想をいただきありがとうございます( ;∀;)
感謝を込めまして本日はあと一回くらいは投稿したいと思っております( ..)φ




