拝啓 天馬 只今私は休暇を絶賛満喫中ですⅣ
元気になったリリナと、夕食後、デザートとお茶を楽しみながら談笑する。明日はリリナが王都に帰る日なので、少し長めの夜を満喫するつもりだ。
ミカルも今日一日休んでいたせいか、夜になっても眠くならず、リリナの話をとても嬉しそうに聞いていた。
リリナも、幼いながらに笑顔で話を聞いてくれるミカルは話し甲斐があるのか、主にソフィーの学院でのことをとても楽しそうに語っている。
「特に乗馬姿のソフィーは素敵で、とってもファンが多いのよ! ソフィーが乗馬に参加すると聞けば、たくさんの方が見に来られるの」
「え?」
思わぬ賛辞に、ソフィーが慌てる。
「リリナ様、そんな気を使わないでください。皆さんの目的は私ではなく、クリスティーナお姉様ですよ」
「いいえ。あれはソフィーを見に来られていたのよ。わたくしを助けてくれた雄姿が、ニコル様そっくりだったという話は有名ですもの。一度その姿を見たいと、誰もが思って当然だわ!」
「……雄姿?」
「……ニコル様?」
後ろに控えていたバートとクレトが、同時に小さく呟いた。
二人は従者らしく、ご令嬢の会話に入ってきたりはしない。
だが、リリナの口から話される女学院でのソフィーの行動を聞き、段々後ろから発せられる雰囲気が怪しいものに変わってきた。
リリナはまったく気づいていないが、ソフィーには分かる。
(マズイわ…これは、バートのお説教コースのフラグが立っている気がするわ!)
案の定、その日の夜は仕事ではなく、お説教で時間を潰すこととなった。
クレトはお説教に加わることは無かったが、しきりに「ニコル様って誰?」と聞いてきた。
バートのお説教で疲れ切ったソフィーは、つい「レオレオの恋人よ」と、事実とは違うことを口走ってしまった。
今度は「レオレオ?」とクレトが頭を捻っていた。
思わず口にした言葉に、リリナ様の行間を読む教育の成果だわ…と、感じるソフィーだった。
次の朝、リリナはひと時の別れを惜しみながら王都へ帰っていった。
また学院で会えるのを楽しみに、ソフィーはその後フル回転で働いた。各所への挨拶に、組合での試食会。挨拶ができていなかった社員との交流を交えた食事会。
休暇はあっという間に過ぎ、すぐに学院に戻る日が来た。久しぶりに皆に会えた休暇はとても楽しく、次の休暇も楽しみに学院に戻った。戻れば戻ったで、クラスメイトたちと休暇をどう過ごしたかで会話が盛り上がり楽しかった。
お姉様方にも挨拶をし、タリスの新作お菓子も披露できた。リリナからラナに贈られたチョコレートも大変お気に召してもらえたようで、ラナはお菓子祭りに大喜びだった。
だが、ラナが一番喜んだのは、リリナから贈られた姉妹の契りの指輪だ。
休暇中に見せてもらったが、リリナの瞳の色の宝石が使われたそれは、金色の指輪を花型に透かし彫りされたもので、花の中心や花びらに小さな宝石が散らされたとても可愛らしいものだった。
ラナはその小指によく似あう素晴らしい指輪を、何度も見てはうっとりと目を細めた。ラナがとても喜んでくれたことに、リリナも安心したようで、二人は互いに微笑み合っていた。
その美しい光景を眼福に思いながらも、ソフィーもクリスティーナに指輪を贈った。
休暇前にデザインし、有名な職人に急遽作ってもらったものではあるが、さすが匠と言われる職人だけあって、デザイン通りの素晴らしい出来だった。
小指を彩る指輪はあまり大きくてはいけない。だが、誰もが一目見て称賛するような。クリスティーナのその美しい指が映えるようなものにしたかった。
「クリスティーナお姉様に幸福と祝福を。そしていつまでもお慕いする誓いと、私の心を捧げます。どうぞ、お受け取りください」
“妹”の口上を述べ、指輪をクリスティーナの白い指にはめる。
ソフィーが贈った指輪は、金に配合を加えたことによってできるレッドゴールド。指輪の中心には、一輪の薔薇が咲いていた。花びらには深紅が美しいルビーと、輝くダイヤモンドが配置されており色鮮やかだ。細かい細工が遠目からも分かる指輪に、隣のセリーヌが感嘆の声を上げた。
だが、クリスティーナは指輪を見て、少しだけ残念そうな声で言う。
「とても美しいわ。でも、ソフィーの瞳の色ではないのね」
「はい、やはりクリスティーナお姉様には、艶やかな深紅がお似合いかと思いまして。ただ、裏の方に…」
「?」
ソフィーの恥ずかしそうな表情を不思議に思い、クリスティーナが指輪を外し、裏返す。
「あら…」
裏には、葉の彫りがされており、その小さな一つ一つに緑の石が埋め込まれていた。ソフィーの瞳の色だ。
「あえて人の目にはつかないところに自分の色を入れるなんて、素敵な考えだわ!」
ラナが目を輝かせ、指輪を褒めた。
しかし、すぐに「レオルドもニコルに、人目にはつかない所に、自分の色を入れたものを贈っているかもしれないわね!」という、行間の話に移行していた。それを聞いたリリナが想像したのか、真っ赤になって「素敵ですわ!」と、同意する。相変わらず似合いの姉妹だ。
クリスティーナは愛おしそうに指輪をしばらく見つめた後、また自ら小指にはめ、その白い指に映える指輪にそっと唇を落とした。
まるで一枚の絵画のような美しい姿に見惚れていると、クリスティーナがソフィーにほほ笑む。
「素敵だわ。ありがとう、ソフィー。大切にするわね」
ゆっくりと、心を込めるように紡がれる言葉に、ソフィーも笑顔で返した。
しかし、心の中では、
(あああ、年越しもロクに祝えずに必死で作ってくれた職人さん、ありがとうございますぅううううう!!)
職人に最大の感謝を捧げていた。




