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拝啓 天馬 突然ですが、腐女子って知っていますか?Ⅳ


「でも、女性の進出に、男の方たちはいい顔をしないわ。女性は家で大人しくしているのが一番だと思っていらっしゃるもの。貴族の女性は皆、籠の中の鳥よ。でも、王妃様たちが少しずつその籠を広げてくださっている。わたくしも、そんなクリスティーナお姉様たちのお役に立ちたいと願っているの!」


 まるで祈るように両手を重ね、想いを口にするリリナに、ソフィーは見とれた。


 強く、気高い志が目に眩しかった。


「リリナ様なら、きっとその願いを現実にできますわ」


 ええ、きっと。そう思って口にすれば、リリナがふふっと笑った。


「あら、わたくしソフィーもそういう方だと思っているのよ。貴女はきっとこのオーランド王国の女性として、クリスティーナお姉様たちに負けないくらいの事を成し遂げてくれると」

「私が、ですか?」

「ええ!」


 自分がリリナからそんな大層な人間に思われていたなんて、と驚く。


 仲が良くなっていつも傍にいてくれる友人は、ソフィーがしょせん男爵令嬢でしかないことを忘れてしまったのだろうか。“女王の薔薇”に入学しなければ、クリスティーナはおろか、伯爵令嬢のリリナとも挨拶を交わすことすら難しい身分なのだ。それをそっと伝えると、リリナは大きく頭をふった。


「ソフィーは頭が良くて、そしてとても勇敢だわ。わたくし、ソフィーに助けてもらった時に、この方はニコル様と同じ方だと思ったの! ニコル様がレオルド様の貴族意識を変えたように、この世界の意識を変えられる力を持っている人なんだって! きっととても素敵な事を、大輪の薔薇が咲くように成せる方だと!」

「それは買いかぶりすぎですわ、リリナ様」

「もっと自分を誇ってソフィー! 貴女はクリスティーナお姉様の“妹”なのよ。たった二ヶ月で、クリスティーナお姉様の横に並んでも誰も文句を言わなくなったわ。それを成しえたのは、貴女自身の力じゃない!」


 リリナの、ソフィーを想う気持ちはとても嬉しかった。


 だが、貴女は特別な人間だと口にするリリナの言葉は、残念ながら真実ではない。ソフィーは自分が特別な人間だと思ったことなど無かった。確かに前世の記憶があるからこそ、事業がうまくいっていることは否めない。


 だが、それ以外は大切な何かが欠けた人間だ。


 欠けたものがいったいなんなのかも分からず、ふと不安に襲われる。そんなちっぽけな人間だ。


 前世で欠けたものを、ソフィー・リニエールには相応しくないと、今も必死に埋めようとしている無様な人間なのだ。


(だって、望んだのだもの…)


 ソフィー・リニエールとして、最初の記憶の中にある、生まれおちたあの日。


 自分がソフィー・リニエールだと気づかず、祐として泣く子供を心配したあの日。


 あの日、願ったのだ。

 親に愛されなかった自分とは違う。

 親にも、友人にも愛し、愛される子であればいいと。

 そう望み、願った。

 それを、叶えたい。


 リオだって、ソフィー・リニエールならどんなことだって叶えられる力があると言ってくれた。


 “ソフィー・リニエール”なら……。


 ソフィー・リニエールは紛れも無く自分だ。今の自分なのだ。けれど、まったく違う女の子にも感じられる時がある。


 自分の願いを込めて育ててきた、自分の道を定めて歩いてきた道を、ふと振り返るといつも何かを置いてきた気持ちになる。


 きっと、それは前世の記憶のせい。


 欠けたモノが、いつも“ソフィー・リニエール”に影を落とす。


 中村祐という欠けた人間の忘れられない記憶と、捨てられない想いがどうしても影を落とすのだ。


「ソフィー? ……あの、ごめんなさい。わたくし一人で勝手なことばかり」


 沈んだ気持ちを感じ取ったのか、リリナが慌てて謝罪を口にする。


「いいえ。リリナ様からいただいたお言葉は私の宝です。私もそういう人間でありたいといつも願っておりました。今はまだ、どうすればよいのか分かりませんが、いつの日か期待に応えられるほどの自分になりたいと思っております」

「わたくしも、貴女に誓うわ! この王国の女性として、素晴らしい人間になると!」


 また一つ、約束が増えた。


 リオに宣言し、クリスティーナに誓い、リリナと言い交わす。


 言った言葉はもう戻らない。口にすれば、それはもう約束となる。


 だが、約束を強迫的なものだとは思わない。


 叶えられるか、恐れは抱く。

 いつだって、恐れはある。

 けれど、恐れを抱かない人間はきっといない。


(強くあれば。私が強くあればいいだけよ)


 前を歩くと、後ろを振り返ってばかりでは駄目だと、決めたのだ。


 自分を愛してくれる人のために、強くあろうと決めたのだ。


 今までだって一人ではできなかったことを、バートたちと成しえてきた。


 それは、“ソフィー・リニエール”の強さだ。


 祐であった時はできなかった。差し出してくれる数々の手をとる勇気が足りなかった。“ソフィー・リニエール”なら、優雅にその手を取り、微笑んでお礼を言える。中村祐より、ソフィー・リニエールは強い。


 その強さを、誇るのだ。誰よりも自分自身が。


 いつだって、心の揺らぎはある。けれど、その度に強くあろうとした。また一つ強くなったと思うのだ。


(大事な人が増えるほどに、きっと欠けたモノを埋められるわ)


 リリナに気づかれないよう、息を吐き出す。恐れを吐き出し、未来を吸い込む。怯まず、前に進むための儀式のように。


「いけない。わたくしったら、いつも一人で勝手に喋って。今日はソフィーの好きそうな物語を探しに来たというのに」


 頬を赤くして反省する巨乳の美少女に、先ほどまでの気持ちが飛散し、頬を赤くする様が可愛い! と、祐思考が顔を出す。


 欠けたモノだけではなく、余計な邪な感情もなんとかした方がいい。だが、巨乳美少女リリナに目を奪われて、ソフィーは一番厄介な感情のことを完全に考えていなかった。


「あ、この『咲くも花、つぼみも花』も素敵なお話よ! たぶん、この物語は『金色の騎士と黒曜石の少年』の少し後に出たものだから、きっと『金色の騎士と黒曜石の少年』と同じで、在籍されている方が書かれている作品のはずよ」


 一冊の赤い装丁の本を手渡され、ソフィーはページを捲る。


 数ページ読んで、ソフィーは無言になった。


「これは今二巻まで出ているの。舞台はこの“女王の薔薇”のような学院で、お姉様のローズ様と、妹のマーガレット様が姉妹の契りを交わすお話なのよ」

「…………」

「ローズ様は公爵令嬢で、マーガレット様は伯爵令嬢なのだけど、姉妹の契りを交わしたお二人は、誰の目から見ても素敵な“姉妹”なの。……ソフィー?」


 真剣に読みふけっているソフィーに、リリナが声をかける。


「あ! …すみません。とても面白そうな内容だったので、つい集中してしまいました」

「借りていく?」

「はい!」


 強い返事に、リリナが少しだけ驚いた顔をする。


 ここまでソフィーがハッキリと強く自分を出すのは珍しかったからだ。


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転生前は男だったので逆ハーレムはお断りしております 完璧淑女への
― 新着の感想 ―
人を勇気づける作品。結構好きな話。 作者さん、ありがとうございます。
[良い点] 厄介な感情、それは『愛』 ソフィーは百合畑に沼ってしまいました やっぱりTSものは百合だと思うんですよ!ええ!!百合バンザイ!!!
2023/05/19 00:11 退会済み
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