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拝啓 天馬 突然ですが、腐女子って知っていますか?

 

 この前、もう天馬には手紙を書きませんと宣言しましたが、重要案件が発生したため、宣言は撤回いたします。


 ええ、これはとても重要な案件なのよ。


 それで話の続きなのですが、どうやら、私の女学院で最初にできたご友人は腐女子だったようです。


 腐女子って知っていますか?


 前、テレビの報道を見ながら涼香姉さんが説明してくれたじゃないですか。男と男がなんかラブっているように見えるという、アレです。


 まさに、三千世界への挑戦。

 世界は広く、世界は一つではない。

 愛は一つではなく、愛は全てに宿る。

 愛を知るための、あくなき探究心がおりなす、少女たちの思考の喜悦。


 …………うん、自分でも何を言っているのかよく分かりません。


 とりあえず、涼香姉さんが言っていたのを総合すると、オスとオスがいればとりあえず上下関係を決めて、ラブっているようにみえるんですよね?


 その上下関係の違いで、友人同士で意見が割れ、友情に亀裂が走ることもあるとか?


 でも、なぜ上下関係が友情に亀裂が走るほどの最大重要事項なのかがよく分かりません。


 まぁ、それをいったら、正直なぜ男と男なのかも分かりません。


 男には胸がないのに。そう男には胸がないのよ。胸がない!


 つまり、ぺったんこを触ってもあんまり嬉しくないと私は思うのです。


 私だってぺったんこの代表です。ぺったんこだからこそ、豪語できるのです!


 盛り上がりの無い平地を、その胸にもつ私だからこそ、言いたいのです!


 これ、ほぼ背中を触っているのと同じだ…って!


 オスに生まれたからには、背中ではなくて、大きな膨らみに触れてみたいと思うのが普通ですよね? 別に大きくなくてもいいのです、ささやかでもその膨らみは愛。愛なのです!


 愛に触れてみたい、そう思うのが普通ですよね? だから、私がそれに触れてみたいと思うのも普通ですよね!?


 …………ん? 話が脱線している?


 胸の話は止めましょう。どうやら話が脱線してしまうようなので。


 ああ、でも天馬、勘違いしないでください。


 リリナ様が腐女子という思考を持ち合わせていても、そこに不快感などを感じているわけではないのです。ただ、どうも私はその手のことに対して疎いようで、せっかくできた友人の言葉に共感してあげられないことがとても残念なのです。


 あのリリナ様があんなに嬉しそうに語ってくれていますのに、私はまったく理解ができないのです。理解どころか、意味すら分からず、ただ愛想笑いを浮かべるだけ。リリナ様の考察に素敵なお返事ができないことが残念なのです。


 こんなことなら、前世でもっと勉強しておくんだったと今さら悔やんでいます。


 はぁ……、教養のない自分が悔しいわ。




 



「はい、ソフィー。続きの三巻よ!」

「わ…、わぁ…ありがとうございます」


 二巻に引き続き三巻の写しを受け取り、ソフィーは嬉しい反面、複雑な思いだった。


『金色の騎士と黒曜石の少年』は、物語としてはとても面白い。けれど、価値観の違いからリリナと共有できない部分があり、その疎外感が半端ない。


 この物語をサニーもとても喜んで読んでいるのだが、それは腐女子的な楽しみ方ではなく、普通にニコルとレオルドの友愛の絆を楽しんでいる。


(祐歴二十五年が邪魔で、私には理解できないのだと思っていたけど、サニーも私と同じ考えみたいだし……。どうすればリリナ様のお考えにもっと共感できるようになるのかしら?)


 リリナだけでなく、その取り巻きたちも同じ楽しみ方をしているようで、彼女たちの会話を聞いていると、事実か、妄想なのかが段々訳が分からなくなってきた。


(えっと、レオルドがニコルに一目ぼれしたのは本に書いてある内容だったかしら? でも、ニコルがレオルドに一目ぼれしたのだという方もいたわね。どっち? それともどっちともだっけ? あれ? 両想いだったけ?)


 つい、また一巻から読んでみたが、そんな描写は無かった。二巻も読んだが、書かれていなかった。


(ニコルがレオルドの髪と瞳の色を綺麗だと言っていたのは書かれている内容だったかしら? あら? レオルドがニコルの髪と瞳を褒めたんだっけ?)


 また一巻から読んでみた。内容は、少し違うが髪と瞳に対する描写はあった。レオルドが、ニコルの黒髪と緑の瞳を、平民にしては珍しい色だとわりと差別意識の意味合いで口にするシーンがあった。


 とりあえず、褒めているわけではない気がする。うん、これは褒めていない。これを褒め言葉だとレオルドが思っているならぶん殴りたい。


 と、リリナたちの会話を聞いた後は何度も確認したため、段々内容を暗記してきたソフィーだった。だが、どんなに暗記しても、ソフィーには読めない箇所があった。


 リリナたちが口にする何かは、きっと行間に存在するのだ。


 それが読めないのがツライ。


 最愛のお姉様、クリスティーナに呼ばれたお茶会でも暗い顔をしていたのか、クリスティーナから心配されてしまった。


「あの件から、リリナたちとは仲良くしているのだと思っていたけれど、どうかしたの?」


 最近、クリスティーナはソフィーのことをよく尋ねるようになった。


 リリナたちと何を話しているのか、放課後は何をしているのか、好きなお菓子、好きな花、好きな宝石、色々聞かれる。


 自分の話などクリスティーナにとっては楽しいものではないだろうと、いつも聞き役に徹していたソフィーだったが、クリスティーナはわざわざ二人だけのお茶会を開いてまで気にかけてくれるようになった。


 乗馬の時は露悪的な言い方をしていたクリスティーナだが、やはり優しい方だとソフィーは思う。クリスティーナの外見的なものだけではない芯の強さと、優しさから溢れる美しさは横にいればいつも感じることができる。


 ソフィーは美しい人を心配させてしまったことを謝罪した。


「リリナ様たちはとても良くしてくださるので、楽しく嬉しいのですが、その……」


 なんと説明しようかしばし悩み、恐る恐るクリスティーナに問う。


「クリスティーナお姉様は、『金色の騎士と黒曜石の少年』という物語を読まれたことがありますでしょうか?」

「ええ」


 なぜ物語の話になったのか分からないクリスティーナが、扇を口元に当て、小首を傾げる。


「リリナ様に写しをいただいて、私も読んだのですが」

「面白くなかったの?」

「いえ、内容はとても素晴らしくて、面白かったです! でも、私が未熟であるばかりに、行間が読めないのです……」

「行間?」

「はい、行間にあるはずの書かれていない文字が、私には読めないのです」


 あるはずなのだ、この行と行の間に。文字としては書かれていないが、心の目で見れば読める何かが。自分が読めないなにかが。


 それが読めるようにならなければ、リリナの友人としては半人前だ。ソフィーはなんとか一人前の友人になりたかった。


 ソフィーのよく分からない説明でも、クリスティーナはその意味を理解できたようで、クスクス笑っている。


「あぁ、一部そういう読み方をする子もいらっしゃるみたいね」


 わりと有名な読み方らしく、なんとラナもその一人らしい。新刊が出るたびにキャッキャッしているそうだ。



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転生前は男だったので逆ハーレムはお断りしております 完璧淑女への
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