拝啓 天馬 私、今とても落ち込んでいます
ああ、なんて事かしら。
クリスティーナお姉様から、姉妹の契りといわれる指輪を貰い、お茶会などにも呼ばれるせいか、他のご令嬢から嫌がらせを受けているのです。教科書は破かれ、机の中にゴミを入れられ、たまに肩をぶつけられたり。そして、毎日遠目に悪口。
本当に落ち込んでいるの。いえ、正直嫌悪していると言ってもいいわ。
なんてことなの、私、私は…………
ご令嬢の嫌がらせに対して、喜んでいる自分がいるのよ!!
自分の中に、こんな性癖があったなんてショックだわ!
待って、呆れないで天馬! これにはさすがの私も驚いたのよ! 本当よ、そしてとても落ち込んだの! 天馬、信じてくれるわよね!? ちゃんと理由があるのよ!!
だって、まだうら若き乙女のご令嬢たちが、可愛らしいお顔を歪ませ、憎々しげに見るあの瞳の数々。早々見られるものではないと思わない!?
腕力がないせいで、なかなか教科書が破れずにプンプンしているあの頬。これはハムスター級の可愛らしさがあると思わない!?
ゴミを入れる時も、一応生ごみなどは入れないように配慮してくれているみたいなの。あ、でもこの前は生きた蛇が入っていたのだけど、これはどうやって用意したのかしらと気になって仕方ないの。まさかご令嬢が自ら探してきたとは思えないのだけど、頑張って蛇を掴まえようとしたのなら、その努力に、私泣きそうになったわ。いじらしいと思わない!?
もし侍女に頼んで見つけてきてもらったのなら、侍女はとても大変だったと思うの。主人の命を必死に遂行するなんて、なんて素敵な侍女なの。ぜひ、最高級のお菓子を贈りたいわ!
…………目の前にいないから、きっと気のせいだと思うけど。天馬、もしかして私のことを馬鹿だと呆れてないわよね?
言っときますけど、私、前世では貴方を好きな女の子から、よく嫌がらせを受けていたのよ。
――――なんでアンタみたいなのが、天馬君の傍にいるわけ?
ええ、わりと日常茶飯事でした。美人に虫けらみたいな目で見られる。結構ツラかったのよ。
でも、祐だった時はツラかったのに、今は癖になりそうなの。
なぜかしら? なにが違うというの? やはり、男のプライドが無くなってしまったせいかしら?
そう思うと、男ってやっぱり大変ね。今世は女の子でよかったわ!
ソフィー・リニエールに生まれて本当によかった!
私、いまとっても幸せです!!
◆◇◆◇◆
「ソフィー・リニエール、貴女は自分の身分をわきまえなさい!」
声高く叱責するのは、同学年のご令嬢、リリナ・セルベルだった。彼女の鮮やかな黄色の瞳が、きつく吊り上がる。伯爵令嬢であるリリナもまた、クリスティーナをお姉様と崇拝している生徒だ。
そのせいか髪飾りは違うが、クリスティーナと同じ髪型をしている。クリスティーナと違い、その髪は黄金ではないが、赤みがかった黄色の髪は一つ年上の伯爵令嬢ラナ・バラークと同じ色だ。
ラナと同じ色の髪であることは、リリナの自慢らしい。ラナは伯爵家でも上位貴族なので、同じ伯爵でもリリナとは格が違う。そのため、ラナも、リリナにとっては崇拝対象のお姉様だった。
「リリナ様、ごきげんよう。本日もいいお天気ですわね」
叱責をサラリと無視し、ソフィーは淑女らしく挨拶をする。
だが本心では、ソフィーはリリナに会いたくなかった。彼女に会うと、いつも渦巻くように心を乱されてしまうからだ。
自分の正しいご令嬢生活のためにも、正直リリナには近づかない方が良いと思っている。
(相変わらず…)
次の言葉は、心の中でも呟けなかった。
これは、ご令嬢としては思ってはいけない考えだからだ。正しいご令嬢生活にはあってはならない思考なのだ。
しかし、どうしても思ってしまうのだ。
相変わらず、――――すごい胸だ、と。
ドレスの上からもよく分かるほどに、リリナの胸は巨乳だった。三人のお姉様方も胸は大きいが、リリナのそれは盛り上がり方が違う。しかも顔が幼いため、余計に目のやり場に困る。
超巨乳ロリ娘とか、マジすげー。
それがリリナを初めて見た感想だった。
もう完全にご令嬢ソフィーを忘れ、中村祐が心の中で『リアル超巨乳ロリ娘!』と、はやし立てていた。
いや、祐でなくとも、正直、女の身であっても拝みたくなる。豊穣の恵みに祈りをささげたくなるのだ。ああ、豊かな恵みをありがとうございます! と。
(……普通、“女王の薔薇”ってご令嬢としての気品を磨く場所なのに、私だんだん男性ホルモンが磨かれていないかしら?)
男性ホルモンは磨けるものではないが、増えているのは気のせいではないだろう。
(でも、仕方ないわよね!? だって、胸ボーンで、腰がキュッと締まっていて、なのにお尻はボーンなのだから!)
必死に、自分に言い訳してしまう。
思わず拳を握れば、ソフィーが怒ったのだと勘違いしたリリナが、『お、怒っても無駄よ! 貴女はお姉様たちに相応しくないのだから!』と言いながら逃げ出した。後ろの取り巻きのお嬢様たちも逃げていく。
「あ…、私の“豊穣の女神”が行ってしまわれた…」
ポロリと本心が零れた。
豊穣の女神って、そういう女神ではないとツッコミを入れてくれる人間は、当たり前だが誰もいなかった。




