拝啓 天馬 私 、女学院に通うことになりました
女学院ですよ。女学院!
女の園。秘密の花園です!
ええ、貴方も驚くでしょう。前世では、涼香姉さん以外の女性とはロクに話もできなかったこの私が、女学院に行くのですから。しかも、名立たるご令嬢が集まる“女王の薔薇”に入学するなんて……。
本当に入学していいのでしょうか? 正直、捕まらないか心配です。いえ、私はこの十四年間をご令嬢として、淑女として清く正しく生活してきました。
ですが、前世は二十五歳のおっさんですよ! 十四歳から見たら、二十五歳っておっさんですよね!?
前世おっさんが、秘密の花園に入学して、逮捕されないでしょうか!? 今更ながら不安になってきたわ!
ああ、でもこんな事誰にも話せない。天馬、なぜ貴方はここにいないのでしょう!!
――――あ、やっぱいいや。どうせいたらいたでせせら笑われるだけな気がするから。
◆◇◆◇◆
馬車が大きな開門を通り、中の全貌を窺い見ることができる。そう、女学院“女王の薔薇”の中を。
「さすがですね。とても大きく立派な建物です」
サニーが感動するように窓から外を窺っている。
山の上にそびえ立つ城塞にも似たそれは、中に入るとまた一変する。外は重々しい厳重な雰囲気であったが、中は白亜の城だ。壁は白一色で、幾つかの異なる高さの尖塔が見られる。前世で海難事故に遭う前に天馬と見た、有名な白亜の城に似た建物だと、ソフィーは思った。
違う点は、遠くからでも見える時計台だろうか。大きな時計台は、学校という感じがして、一気に学生感が高まった。
(これからここで生活するなんて、なんだか嘘みたい)
目の前に座る、サニーのウキウキとした空気に救われる。結局侍女はサニー、一人だけを連れてきた。兄や幼馴染と離れ、寂しくないのだろうかと心配していたが、当の本人はとてもあっけらかんとしていた。
(やっぱり、女の子って強いわ…。前世は男だったせいかしら、私、女の子が持つ独特の環境適応能力が弱いのでは…? いえ、誰でも最初は戸惑うものよね! これからよ、これから!)
気持ちを切り替え、ソフィーは見据えるように白亜の城に視線を移す。
これから三年間、今までとは違う挑戦が始まるのだ。
学院に入るなり、ソフィーは教師に呼び出された。なんと、ソフィーは首席代表の挨拶をしなければならないらしい。名立たるご令嬢がいるのに、男爵令嬢の私が挨拶をするのかと慌てても、慣例で首席が挨拶をすることが決まっているらしい。
いや、早く知っていたら試験だって手を抜いたのに。
試験は形式的なもので、“薔薇の選定”で選ばれた者は試験でどんな点数を取ろうが入学できると聞いていたから、ハールス子爵に恥をかかせないよう試験も真面目に受けただけだ。
内容も至極簡単で、あんなもの誰だって満点だろう。前世、奨学金全額免除を手に入れるために必死に勉強してきた祐の記憶からすれば、小学生低学年の学力テストレベルだ。
(そうだった……。前世も要領が悪いと、自分でも反省していたじゃない)
前世の祐も、毎回こういう役目が回ってきて、不本意な敵を作った。
高校の時も首席代表になったのだが、後から親無しのくせに生意気だと言われたものだ。同じ高校だった天馬は、祐より頭が良かったくせにこういう時とても要領がよく、手を抜くのだ。
高校受験で手を抜く芸当など持ち合わせていない祐は常に全力なのに対して、天馬は合格ラインを狙って答案を埋める。首席代表を務めるなど、面倒なので絶対になりたくないらしい。
(あああ、前世の失敗がまったく活かされていないわ!)
ここでもまた同じ失敗をしてしまった。
前世で同級生に睨まれたように、今世でも、またご令嬢を敵に回すのだろうか?
「はぁ…」
大きなため息が思わず零れた。
正直、億劫だった。
“アマネ”の品種改良にも成功した今、今度は大規模な砂糖作りへと移行するため、耕地の規模をこれ以上ないほどに拡大したかったのに。大誤算だ。
もっと他の商会の力も借りて、砂糖の生産を増やし、オーランド王国にとって砂糖は貴族だけではなく平民にとっても生活の必需品となるまでに、あと一歩だと思っていたのに。




