ソフィー・リニエールというご令嬢~ある午後のお茶会~
――――王都、ある貴族のサロンにて。
「ねぇ、皆さんお聞きになりました? 長く王都を離れていたリニエール男爵家のご令嬢が、本邸に帰ってきていらっしゃるそうよ」
「あら、リニエール男爵にご令嬢なんていらっしゃったかしら?」
「ずっと保養地にいらっしゃって、お茶会にも出ていらっしゃらない方だから、皆さんが知らないのも当然ですわ。確か、十三歳になられるご令嬢とか」
「まぁ! そのお年まで保養地に?」
「ええ、タリスの保養地に長く滞在していたそうよ。ほら、あそこのリニエール男爵夫人は、体がか弱かったから」
「でも、リニエール男爵夫人は数年前から本邸にいらっしゃったわよね? なぜご令嬢だけ保養地に? それに、私が聞いた話では、リニエール男爵夫人は最近女の子をご出産されたそうよ」
「ではリニエール家には、お二人のご令嬢がいらっしゃるの?」
「いえ、三人よ。真ん中に男のお子様がいるわ」
「ま! あの方が、三人もお生みになったの? 確か、ご病気のせいで、まったくと言っていいほど社交界に出ていなかったわよね?」
「私もそう聞いておりますわ。リニエール男爵が心配して、保養地に別荘を建てられたと」
「タリスに別荘をなんて、本当に資産が有り余っておりますこと」
「タリスと言えば、今や“食のタリス”と言われるほど美味しいお店が多いとか」
「噂では、タリスを“食のタリス”として有名にしたのが、かのご令嬢だという話よ」
「イヤだわ、まさか!」
「田舎でずっとお過ごしになった可哀想な娘のために、リニエール男爵がおかしな噂でも流しているのではありませんの? リニエール家と言えば、今やこの王都で平民も知らぬ者がいないほどの商家。他国との貿易も目を見張るほどの手腕とか。あれほどの豪商ですもの。可愛い娘のために、そのような噂を流されたのでしょう」
「ですが、流すにしては変わった噂ですわよね?」
「ほかにも、農作物や調味料の開発に尽力されているというのがありますの」
「それこそおかしいお話ですこと! ご令嬢がそのようなことをなさるわけがありませんわ。リニエール家も大丈夫なのかしら。そのようなおかしな噂を放置されるなんて」
クスクスと笑うご婦人たちの囀りは、午後のティータイムが過ぎても終わることは無かった。




