3巻コミカライズ発売記念SS
「転生前は男だったので逆ハーレムはお断りしております 完璧淑女への道」
森みさき先生のコミカライズ第3巻が発売中です!
背景の緑とご機嫌のソフィーがとっても可愛い表紙が目印!
ちなみに、こちらのSSは森先生の書き下ろし四コマを拝見し、勢いで書いたものです。
四コマのバートたちのわちゃわちゃと対比し、現在進行形で地獄に住んでいるソフィーの殺伐とした(でもちょっと楽しそうではある)SSとなっております(*´▽`*)
「ソフィー、見て!」
それは昼食の後、リリナとそれぞれの教室に帰る途中のことだった。
二階の校舎の窓から何かを見つけたリリナが、空を指さす。
おや? と思いつつも、ソフィーもすぐさま彼女の示す東の空に目をやると。
「――まぁ、とてもキレイな虹ですね」
そこには美しい弧を描きながら、遠くの林に接する鮮やかな虹があった。
さきほど降ったにわか雨の置き土産といったところだろう。
しばしうっとりと七色の光を眺めていたリリナだったが、急に残念そうに口の端を曲げた。
「残念だわ。これほど素敵な虹を見られる機会なんてそうそうないことなのに、もうすぐ授業だなんて。休日なら、ソフィーと一緒に、あの虹のふもとに宝物を捜しに行けたのに……」
残念そうに肩を落とすリリナに、ソフィーは首を傾げた。
「宝物……、ですか?」
「聴いたことないかしら。虹のふもとには宝物が埋まっているのよ!」
瞳をキラキラと輝かせ、嬉々として教えてくれる。
ああ、今日も豊穣の女神は愛らしい……と惚けながらも、ソフィーは考え込む。
(うーん。そういえば、そんな話を涼香姉さんから聞いたことがあるような無いような)
記憶を辿れば、確かに涼香から聞いた気がする。
(ああ……忘れていたわ。いえ、忘れていたかったのかしら。あのとき祐が言った言葉で、涼香姉さんすごく怒ってたから……)
その時の会話を思い出すと、つい遠い目をしてしまう。できれば思い出したくなかった。
(いいえ! あのとき怒られたことは、決して無駄ではなかったはず! いまがあの失敗を生かす時だわ!)
ソフィーはグッと拳に力を入れると、一緒に虹のふもとに宝物を捜しに行きたかったとうな垂れるリリナに優しく声をかけた。
「リリナ様、私はリリナ様とあの美しい虹を一緒に見ることができて、とても幸せです。この幸運は、私にとって何よりの宝物になります」
ニッコリとほほ笑んで告げれば、リリナは花開いたように顔を綻ばせ、嬉しそうな笑顔で頷いた。
「わたくしもよ! ソフィーと虹を見られたこの時間を、一生の宝物にするわ!」
目を細め、柔らかく笑むリリナに、ソフィーは思う。
――――うん。今回は失敗しなくてよかった、と。
「――というやり取りが、あるご令嬢とあったのよ」
その時の出来事を、リリナの名は伏せて語るソフィーに、たまたま通りかかったエーヴェルトがうんざりとした顔でジェラルドを見た。
「なに? なんの話だったの、いまの?」
話は一部始終聞いていたが、なぜそれほど恍惚とした顔で自慢するかのように話しているのか、目の前の少女の真意がよく分からない。
困惑顔のエーヴェルトから問われたジェラルドは、返事を返すことはなく無言を貫く。
同じく護衛として傍にいたルカも、ただ目を左右に動かすだけ。
「つまり、なんの話だ?」
エーヴェルトが本人に直接は聴けなかった問いを、単刀直入に口にしたのはレミエルだ。
テーブルを挟み、向かい側の長椅子に足を組んで座っていた男の疑問を、ソフィーはあきれ顔で返した。
「なにって、貴方のその奥行きのない情緒を育てるために、わざわざ私の心温まる素敵で情緒が倍増間違いなしの思い出を語ってあげたんじゃない」
ちなみに、なぜこの話を選んだかというと、ちょうど窓から見える位置に大きな虹がかかっていたからだ。
「あの女だけではなく、他の女もいたのか……」
レミエルは不愉快そうに眉を寄せるが、ソフィーの頭の中にはあの時の女神のごとく愛らしいリリナの笑顔しか存在していない。
「可憐な豊穣の女神の話は、心の奥底から慈しみが溢れるような心地を得られるでしょう? 一緒に虹のふもとに宝物を捜しに行きたかったなんて頬を膨らませて仰ったのよ。もう、お可愛らしいが天元突破よ!」
「なるほど、分かった。なら、僕は君の親友として、今から君とあの虹のふもとに行けばいいんだな」
「なぜそういう話になるの?」
「すぐに馬を用意させる」
人の話を聞いちゃいない王族特有の強引さで立ち上がり、ソフィーの腕を取る。ソフィーは心底迷惑そうな顔でその手を振り払った。
「なに言っているのよ。虹は物体があるわけじゃないわ。見る側の位置関係で現れるただの現象よ。実体のない虹のふもとに行こうとしても、辿りつけるものではないことくらい、考えれば分かることでしょう」
無理やり連れて行こうとするレミエルに呆れ、思わず前世で涼香に口走ったものと同様の言葉を吐き出した。
涼香に対しては、もっと柔らかな言い方を選びはしたが、内容は太陽光がどうたら屈折と反射がどうたら。これに涼香は激怒したのだ。
『私はいまそういう話をしているんじゃないわよ! こういう時は、一緒に虹を見られた瞬間を喜ぶものでしょう! 私と虹が見られて嬉しくないの!?』
半ギレで怒られ、ちょっと泣きそうになったことは天馬にも言っていない。
(あ、思い出したらまた悲しくなったわ……)
しかし、あの時の失敗はリリナのときで挽回した。もう自分を許してもいいはずだ。
うんうん、と一人納得するソフィーに、けれどレミエルは納得しなかった。
「ちょっと待て。君がさきほど僕にさんざん不足していると言った情緒の話はどこにいった? 僕とその女で態度に差があるぞ」
「そうですよ! 男と女で態度を変える女は嫌われますよ!」
エーヴェルトも参戦し、皮肉たっぷりに言う。
横で聞いていたジェラルドは、『それは普通、男だけを優遇する女に使うものでは?』と頭を捻ったが、ソフィーとレミエルたちの会話には一切関わらない方が得策だと考えているため、口には出さない。
二人の男から非難されたソフィーはと言うと、心底どうでもいいとばかりに眉一つ動かさず吐き捨てた。
「麗しいご令嬢を、貴方たちと同等になんて扱えるわけがないじゃない。好感度の重みが違うわ。可愛いをなめないで」
「可愛い? 君はなにをもってその女を可愛いと感じたんだ? その心理状態はどの観点から見た見解だ?」
淡々と断言するソフィーと、別次元から問うレミエル。
なんとも冷え冷えとした空気に、エーヴェルトが『うぇっ』と顔を顰める。
とはいえ、自分がここでいくら言葉を重ねても、ソフィーとのやり取りでは常に完敗を喫している身だ。
勝ち目はないことを理解しているエーヴェルトは、矛先を実はずっと同じ部屋にいたラルスに向けた。
ラルスはソフィーと同じ長椅子に座っていたのだが、始終真顔でピクリとも表情筋を動かさず、完全に置物状態だ。
「おい、ラルス・リドホルム! お前もソフィー嬢の意味不明な発言に固まってないで、なんか言えよ!」
ラルスはエーヴェルトの呼びかけに「え?」と、一瞬我に返ったように顔を上げるも、
「すみません。いま僕はソフィー様とご令嬢との麗しい追想を完全記憶するのに忙しいので、話しかけないでいただけますか」
ひどく真剣な顔で拒絶され、エーヴェルトは唖然とした。
「……なに言ってるんだ、コイツ」
「ラルス、貴方だけよ! 私の気持ちをこの学院で誰よりも理解してくれるのは!」
歓喜の声をあげながら、ソフィーがラルスの両手を握り締める。
そんな光景に、エーヴェルトは胡乱な視線を投げたが完全に無視されて終わった。
その後は、ソフィーとラルスの理解不能な会話が繰り広げられるのを、黙って聞くしかできなかった。
今日、11月11日は去年出して頂いたコミカライズ1巻発売日でした~(*^-^*)
わぁ、1年が早い!
そしてその時は3巻まで出していただけるとは思っていなかったので、めっちゃ嬉しいですv
3巻もぜひご購入いただけると森下が喜びます(*´▽`*)




