拝啓 天馬 そう、すべては必然だったのです
ギリギリのギリで七月中です( ;∀;)
暑い日が続きますが、皆様八月も頑張って生きましょうね('◇')ゞ
ねえ、天馬。貴方、男に興味がありますか?
ちなみに私はありません。とくに、前世でいうところの高学歴・高収入・高身長の三高には欠片の興味もありません。
いえ、これはやっかみではないのよ!
ただ類似性、相補性が異なる相手とはある程度距離をとった方が、よい関係性を築ける場合もあるでしょう。それです!
そんな考えもあり、私は黒星に対して興味も期待も希望もとくに持ち合わせておりませんでした。
そもそも、学生というのは分かっていないことが分かっていないという状態の中で教えを受け、一つずつ己で消化して道を形成していく作業を行っている段階。
フェリオとしては、黒星たちの力が事業の手助けになればという期待もあったのでしょうが、まだ子供の領域である彼らに、大人同様の働きを期待する方が土台無理な話というもの。
護衛に関しても、学院内ではさほど必要性を感じないし、なにかあれば自力でどうとでもすると思っておりました。
幼少の頃も、他国に足を運ぶと決めた時は、なにがあっても対処できるよう準備をしていたし、前世で涼香姉さんに引きずられるように習いに行った護身用の体術も記憶として残っています。後いざという時のために、ちょっとオーパーツ的なものも作ってみたり……。
ほら、私ってこの見た目でしょう?
お母さまに似た容姿は、繊細でか弱く儚げで春の妖精のように可憐だと思うの!
現に、私が少しぼんやりと考え事をしているときは、バートも『そう大人しくされていると、磁器人形のような可愛らしさがございますね。もうこのままお人形のように座っていてくれないかと心の底から願ってしまいます』と言ってくれたし。
あら? でもあれってよく考えたら嫌みだったのかしら? 可愛いということしか耳に残っていなかったわ。
…………まぁ、それは横に置いておくとして。
そんなか弱い身である己を鑑み、一人でも危険回避できる準備は万全を期していた故に、私にとって黒星の存在はとくに必要ないものだったのです。
でも、それは間違いだったわ!!
私がいまここにいること。
黒星たちと交流できる機会を持てたこと。
それは必然であり、必須だったのよ!
いまの学生たちは、ゆくゆくはフェリオの下に就く者たち。
それはつまり、クリスティーナお姉様に就くも同義!
この事実に、私はなぜ早く気づかなかったかしら?
学生というのは分かっていないことが分かっていないという状態の中でうんぬんかんぬんなんて考えは、クリスティーナお姉様の身を一番に想えばすぐにかき消えました。
学生から社会に出たからといって、すぐに大人になるわけでもなし。黒星たちが、なんの疑念も抱かずにあの授業を受け、日々を過ごしているというだけで成長速度は見込めないと試算した結果です。
そう、すべては彼らを紳士として、騎士として教育するためなのです!!
――――天馬。これは彼らのためであり、決して小姑根性からくるものではないことをここに追記しておきます。
朝、黒星の教室内は本鈴の前になってもどこか落ち着かなかった。昨日の一件が、いったいどう尾を引き、どう対処されるのか。予想がつかぬからこそ、重苦しい空気が教室全体を包み込む。
そんな中、音もなく扉が開いた。
ほのかな花の香りと共に濃青のドレス姿の少女が現れ、黒星たちの息が一瞬詰まる。
普段ヒールの低い靴で足音のしない彼女にしては珍しく、高いヒールを履いていることが分かるほどに、コツコツとした足音が静まり返った教室内に不気味に響く。
なんの心づもりもない時に、突如死人が現れたような驚愕。そんな視線を向けられても、少女は意にも返さず当然とばかりに登壇し、
「皆様、ごきげんよう」
春の木漏れ日を連想するような笑顔で、ほがらかに挨拶を口にした
――――ゾッとした。
得も言われぬ恐怖感とでもいうのか、昨日あれほど激怒し声を荒げていた少女とは思えぬ変わりよう。とても同一人物とは思えぬ所作と雰囲気が、逆に恐怖を煽る。
黒星たちが怯んでいると、少し遅れてジェラルドが現れた。
その表情は相変わらず能面のように無表情で、何の感情も読み取れない。
「さて、では講義を始めましょう」
まるで昔から教壇に立っていたかのような口調で、少女が言う。
「あの……講義とは?」
恐る恐るエーヴェルトが質問すれば、笑顔で答えが返ってきた。
「これより、貴方たち黒星の学ぶべき一切を、私が管理させていただくことになりました。勿論、講師陣の皆様にはお許しをいただいておりますのでご安心を」
「――――は?」
「プログラムを編成し直したものを配ります。各自目を通してください」
数枚にわたる紙面を渡され、理解が追い付いていないながらに書かれた文字を追う。一枚目を読み終わる前に、エーヴェルトの唇から「ちょっと待ってください!」と、声が漏れた。
「剣術、武術、馬術が通常の二倍……いや、三倍くらいに増えているのですが……」
小刻みに管理されたスケジュールは、いままでの授業とは比べ物にならないほどの密な内容に変更されていた。体力が一般的な者なら、冷や汗ものだろう。
「いえ、それはまだいいとしても、なぜダンス科目までこんなにギッチリ入っているのですか?」
「将来的にも必要になるし、必須でしょう」
鈴を転がすような無垢な口調だった。あくまで善意だとばかりの。
「ダンスくらい普通にできますよ。なにもこれほど授業に入れ込まなくても……」
頭の中では、『いや、まずなぜソフィー嬢が授業編成を?』という疑問が流れるが、昨日ジェラルドから可能な限り従えと言われているため、問うに問えきれない。
「普通に、ね。ならば、私と一曲踊っていただける? 音はないけれど」
「え……?」
「なにが得意かしら」
「……では、ワルツを」
女性の扱いに慣れているエーヴェルトは、貴婦人がとくに好むものを選ぶ。
だがそれが正しいかは、この少女相手だといままでの経験予測があまり当てにならない。エーヴェルトは不安なまま少女の手をとり、身を寄せた瞬間、
「――――いッ!」
足に鋭い痛みが走った。
痛みの正体は、ソフィーの靴だった。ヒールの高い先端が、エーヴェルトの中足骨あたりを踏みつけていたのだ。
突然の痛みに悶絶していると、足を踏んづけた当の本人は不満そうに言う。
「なぜ苦痛の表情を出すのよ」
「はぁ?!」
人の足を踏みつけておいて、その言い様はなんなのか。
エーヴェルトは非難の声を上げたが、ソフィーは呆れた表情を崩さない。
「ダンス中、誤って女性が男性の足を踏んでしまうなんてよくあることでしょう。その時に、そんな顔を露骨に出すなど紳士として恥ずかしい行いよ」
「何でですか!?」
「リードできていないから足を踏まれるのよ。つまり男性に非があることでしょう。ならば痛いなどという顔をするのはおかしいわ」
いや、おかしいのは貴女でしょう!
そうストレートに指摘したいがなんとかこらえる。だが、非難自体は呑み込めなかった。
「まだ踊ってませんでしたよね?」
「ならば踊りながらもう一度」
「踏まれると分かっていて、完璧なリードなんてできるか!」
思わず地が出たが、少女の表情にはなんの怯みもなく。それどころか、ふふと可愛らしい声で笑った。
「あら、聖騎士試験には痛み耐性の項目もあると聞くわ。一石二鳥でしょう?」
その言葉に触発され、相手が紫星ということも忘れ叫ぶ。
「大体っ、ダンスなんてもんは金星の必須科目だろう! なんで黒星が!」
もちろん貴族に生まれたからには、当然幼い頃に習う。だが、それは本当に嗜みに程度で、女性のように徹底してリズムを体に刻むほどではない。
それは男性の場合、ダンスよりも他の勉強時間が多いことが理由としてあるが、“王の剣”に入学してからはそれが顕著に表れる。
社交界で顔を売らなければならない金星がダンス完全必須であるのに対し、黒星ではさほど重要視されていないのだ。
舞踏に貴重な時間を費やすなど意味はないと叫ぶエーヴェルトに、ソフィーは妖しく唇の端を持ち上げる。
「男性に生まれた以上、星など関係ないわ。女性をダンスに誘うことができるのは男性だけなのよ。女性からダンスに誘うなど言語道断。いわば、男の特権よ。ならば優雅にリードすることは、紳士として当然でしょう?」
「ダンスが踊れれば紳士というわけでもないでしょう!」
「あら? では、他に貴方たちはどういった行動で、自分が紳士であると証明できるのかしら? 中身が伴っておらずとも、栄養の偏った粗末な料理だけを食していれば紳士になれるとでも思っているの?」
食堂での一件を揶揄した皮肉に、エーヴェルトがチラリと後ろをふり返れば、騒動の当事者であるダニエル・ベックの顔が色を失っていた。
「紳士は一夜にしてならず。基礎という地盤を固めてこそ、品格は現れるものよ」
そういって少女が笑う。イタズラな妖精のようなほほ笑みだが、どうみても悪女のそれだ。
――――紳士として必要? いや、これはどうみても。
「…………いびりでは?」
「そうよ」
エーヴェルトが半分やけくそで放った言葉を、少女はなんの悪気も感じさせない顔でサラッと肯定した。
冒頭、「貴方、男に興味がありますか?」から始まる小説を書くのは生まれて初めてです。
冷静に読むと、なんだこれ? と思いますね(・ω・)ノ
次回(今回も):「淑女? 知らない子ですね」




