拝啓 天馬 男とは多少、鈍感にできている生き物ですよね?
前世、『鈍い!』『鈍感!』そんな言葉を涼香姉さんからよく言われたものです。
日常会話をしていただけなのに、なぜそんな風に言われるのか分からない。そんな場面が多々ありました。
天馬、貴方に助けを求め視線を送っても、「うわ、コイツ馬鹿じゃね……」という目で私を見るだけでしたね。ふふ、懐かしいわ。
――――あの時、助け船を出してくれなかったこと、今でも根に持ってるからな!!
ゴホン、失礼しました。
まぁ、けれど男という生き物は、女性に比べたら鈍感にできているものだと、前世の自分はそう考えておりました。
そもそも女性が男性よりも察する能力に優れているのは、男は狩り、女は家を守ることを主とされた時代まで遡るとか。家族の体調にいち早く気づくため、培われた能力。
ならば、男であった私が、察する能力に劣っていたことは、仕方のないことだと思うのです。
……これは、いまだに涼香姉さんの怒りの原因を解明できていないことへの言い訳ではありませんよ?
うーん、しかし不思議ですよね。会社ではわりと気遣いと気配りができるやつだと一定の評価をもらえていたのに、こと相手が気の置けない相手になると、とたん愚鈍扱いです。
きっと気遣いと気配りに長けているという評価は繕った自分で、本質は涼香姉さんがいうように、とんだなまくら野郎だったのでしょう。
それ故に、私は前世の自分を鑑み、男性の鈍感さに寛容な方だと自負しておりました。
ええ、これでも配慮していたのよ。男が、多少鈍感なのは仕方ないことだと。
…………でもね、あえてこちらの意思を無視して、事をすすめようとするのはどうかと思うのです。
それは鈍感ではないわよね?
どちらかというと、鬼畜の所業よ。
そう、例えばコイツのコレとか――――。
(なんだ、これ?)
思わず、思考が祐になってしまう。
目の前に広がるのは、黒い一団。言わずもがな、黒星の生徒たちだ。
その一団が皆頭を下げ、礼を取っている。ただの礼ではない、謝罪の礼だ。
「黒星の無礼、どうかお許し下さい」
「……はぁ?」
先頭に立つジェラルドが、より深く頭を下げる様が、眼下に映る。ソフィーは思わず頭を押さえた。
(頭痛がしてきたわ。なんでそうなるのよ……ッ)
先日、優雅に淑女らしくかわしたと思ったら、これだ。
黒星全員による謝罪など、誰がしてくれと頼んだ。
ロレンツオからの呼び出しのため、外出しているルカの代わりに、本日の護衛として就いてくれたマルクスも、珍しく呆気に取られた顔でポカーンと黒星たちを見ていた。
いや、マルクスだけでなく、行き交う生徒たちもまた、何事かと目を丸くしている。
せめて、生徒たちの目が少ないところであったなら、ソフィーもこれほどの頭痛を感じなかったかもしれない。だが、ここは生徒たちが寮へと帰宅する、時間帯的にも、もっとも人が集まる広間。場所の選定からして、嫌がらせかと胸倉を掴みたくなる。
(昨日の食堂での一件が、ジェラジェラの耳にも入ったのかしら? でも、あれくらいで?)
あの程度、ちょっと意見の相違にムッとして、ちょっと可愛らしい癇癪を起こしたくらいだ。
十代の少女が、たまに癇癪を起こしてなにが悪い。
ルカやラルスだって、あとで「あれは淑女らしくなかったかしら?」と聞いたが、二人共「そんなことないですよ」と首を振ってくれたし、その後の昼食も和やかに過ぎた。
朝、ルカの代わりに迎えに来てくれたマルクスにも、あの後どうしたのか聞いてみたが、「どうしたもこうしたも、とくに何もなかったけど?」と、サラッといつもの様子で答えていた。
何より、ソフィー同様驚いているマルクスの表情からも、こんな事態になるとは思ってもいなかったことが窺える。
(この前、あれだけ我関知せずな態度を見せたのに、なぜ蒸し返すのよ、この男は!)
あの時、ジェラルドは明確にソフィーの意図を読み取ったはずだ。
そして、読み取った上で“コレ”なのだ。
謝罪の押し売り。求めてもいないのに商品を送ってくる送り付け商法に等しい。
――――だが、黒星としては確かに正しい選択だ。
このまま紫星に悪意を放っていては、処罰は免れない。
上手く隠しているならともかく、十代の年頃らしい自分の正しいと信じるものを妄信し、悪ととらえたものを排除せずにいられない。
それがどう転じるか計算されたものならばともかく、感情だけでしか動いていない彼らの考えは稚拙だ。
その稚拙さを指摘し、改善しようとするジェラルドの行為は、黒星三つを賜っている人間としては間違ってはいない。
生徒の目が多い場所を選んだのも、黒星たちに、事の重大さを理解させるための、見せしめの意味もあるのだろう。
(確かに、完全に間違っているとは言えないけど……)
ただ、やり方があまりにもその場しのぎで性急だ。どう見ても、黒星の生徒たちは納得して頭を下げているとは思えない。
内心憤りを滾らせながら、それでもジェラルドに言われれば否とは言えず頭を垂れる。
それがどんな感情を生むのか、この男は分からないのだろうか?
皆、頭を下げているため、その表情はうかがえないが、それでもハッキリと分かる。
自分たちだけでなく、黒星三つを持つジェラルド・フォルシウスにまで頭を下げさせた元凶である女に、これ以上ない怒りを覚えているのが。
(私だって、まさかこの男まで頭を下げるなんて、思ってもいなかったわよ!)
「……ジェラルド様、なんの謝罪を受けているのか分かりかねますが、もう結構ですので、どうか頭をお上げください」
できるだけ空疎な口調にならないよう告げるが、ジェラルドの姿勢はピクリとも動かない。
謝罪をなかったことにはさせない――――そういうつもりなのだろう。
(コイツ……!)
心の中だけとは言え、ソフィー・リニエールとしてではなく、祐として苛立つ。謝罪を受けた時からそうだ。
この男が、誰よりも早く頭を下げ、礼を取った時から――――。
亀更新の拙作に、いつもご感想、評価、ブックマークいただきありがとうございます( ;∀;)
この度、皆様のおかげで二巻を出していただけることになりました(`・ω・´)ゞ
令和2年12月16日(水)発売予定です。
書き下ろしは、一巻と同量で2万5千文字くらいはあると思います。
書き下ろしは女性陣なので、女の子成分が不足している方はぜひ!
以前、『リリナの心情をもっと知りたかった』とのご感想をいただいていたので、そちらを書いてみました。
書いている時はなんとも思いませんでしたが、チェック三回目くらいに、『これは百合っぽくない?百合みを感じない?森下にしては百合を書けているのでは???』となりましたので、もし百合を感じられた方がいらっしゃったらご一報ください。仲間ですねヽ(^o^)丿
『いや、ちげーよ!お前は百合のなんたるかを分かってない!』と感じられた方はご一報ください。精進します('◇')ゞ
もう一つはソフィーが去った後の女学院のお話です。こちらは爆弾を一つ置いておきましたので、『どれのことだ?』と探してみて下さい(`・ω・´)ゞ
あと改稿もしているので、ロレンツオとのやり取りがなろう版と少し変わっています。
変わった分、削った部分をリメイクしたりと、一巻以上に頑張りましたので、ぜひお読み頂けると嬉しいです( ;∀;)
もちろん、なろうを読んでいただけるだけでありがたいですが!
今後もよろしくお願い致します(*´▽`*)




