第十四話 異世界勇者タナカさん【001,002】
001.
異世界勇者、と聞いてあなたたちは何を思い浮かべるであろうか。
私はもちろん、「救世主」だと答える。
それは明確で単純明快な、「答え」であり、正解である。
異世界から召喚された勇者は、この世界を救うことのできる唯一無二の救世主であり、その存在はこの世界に無くてはならないものだ。従ってこれは神にも近い存在と言え、そして人民からすれば畏怖の対象とも言える。
しかしながらもし、それが勇者という人間だったとしたらどうだろうか?
もしもこの神に近い救世主が、実は人間で、心を持っていて、好きなことがあって、やりたいことがあったらどうなってしまうのか。
この短い物語は、そんな「勇者という名の人間」の物語である。
002.
事の始まりは、僕のある一言からであった。
以前から僕は、何故「茜音」さんや「秋月」さんという名前が、その奇妙な名前なのかということについて、疑問の念を抱いていた。
僕らの世界では、普通名前は「Spica」や、「Elena」といったように示される。
しかしながら桜ノ宮茜音であったり、秋月弥太郎であったりという名前は、その文字の形を僕たちの名前とは異ならせている。
僕はこの奇怪な文字について、何故名前がそのような文字であり、そしてどうして二人だけこのような名前となっているのかということについて以前から非常に疑問だったのだ。そこで僕は二人に、質問をしてみることにしたのである。
僕はフェンテ・メンテに向けて走っている馬車に揺られながら、秋月さんに話しかける。
「秋月さん、ちょっと疑問に思ったことがあるんですけど、質問してもいいですか?」
秋月さんは僕の方を振り向いて、優しそうな目をして「いいよ。スピカ君。」と言った。
「僕の名前は、スピカじゃないですか?でも、なんで秋月さんは「秋月さん」なんですか?」
「随分と哲学的な問いをしてくるねぇ。」
「いや、そう言う意味じゃなくて、なんで「秋月」なんてちょっと変わった名前をしているのか、という意味ですよ。」
すると秋月さんは笑いながら、「そうだよね。だと思った。」と言う。
「まだ話してなかったっけ?僕や茜音ちゃんの生まれた故郷の話。」
「ええ。まだ聞いたことがないんですよ、実は。」
「そうだったか。じゃあ僕の生まれ故郷、オエド《・・・》の話とかそもそもなんで僕たちの名前がこんな名前になったのだとか、そう言う話は話しておいた方がいいかもしれないね。」
僕は頷いて、秋月さんを見る。
「まあ正直なところ、あの話はこの仕事、モブにとても関わり合いの深い話だしね。」
「モブと関わり合いが深いんですか?」
秋月さんは少し遠い目をしながら、寂し気に話す。
「うん。まあ、それは最後にわかるさ。でもね、大抵この話を知るとね、みんな「国が悪い」だとか「勇者が悪い」だとか言い始めるんだけど、本質はそこにはないんだ。だから、そこだけは勘違いせずに読んでほしい。」
秋月さんは懐から一冊の本を持ち出す。
「この本はね、僕たちの町を作ったと言われている人が最期に書いた本だ。もちろんこの本は極秘書物だし、この職に就いている人間以外に対して一切の口外を禁じられている。そもそもこの人は国からすれば犯罪者だしね。」
僕はその本を慎重に受け取って、本の表紙を見る。
「まあ、百聞は一見に如かずだ。読んでみるといい。ところどころわからない言葉も出てくると思うけど、そう言うところは飛ばして読むといいと思うよ。」
そう言って秋月さんは僕を見て笑う。
そこには「幸せのレシピ」という表題が書いてあった。
僕はその、なんだか不思議な名前の本を訝しみながらも、それを読んでみることにしたのであった。




