第十話 奴隷商人、ドラフ。【004,005】
004.
俺はそのスピカ号が掘り進める穴を進んでいた。
「おい秋月さんよ。まだ地上に出れないのか?」
『そ……だ……まだ少し……時……かかるみた……だ』
俺は耳に入っている金属でできた魔道具を付けなおす。
「おいおい。なんか下っているような気がするんだ。そもそも俺が脱出するんだったら上りの坂道になるはずだろ?でも、この坂道、下っているような感じがするんだ。」
しかし、その魔道具からの応答はない。
「ちっ。使えねぇ。」
俺は少し苛立ちながら、その魔道具を地面に捨てる。
「とりあえずこのまま進むしかないか。」
そしてそのジメジメした坂道を下っていくのであった。
微かに悲鳴が聞こえた。
どこかは定かではないが、どこからか微かに聞き覚えのある声の悲鳴が聞こえるのだ。
壁に耳を付ける。
右だ。
右、やや下の方から誰かの声が聞こえるのだ。
「エレナ!」
俺は息を殺し、その声に耳を傾けた。
「おい、スピカ号。進路変更だ。もしかしたらエレナを助けることが出来るかもしれない。」
しかし当然の如く、スピカ号の返事は無い。
「ちっ。だから機械は嫌いなんだよ。」
俺は苛立ち、壁を蹴った。
蹴った壁から土が落ちる。
この現象は勿論の如く当たり前の話なのであるが、俺はその異常さに気が付いた。
気のせいか、少しだけ周囲の地面の色と違うのである。
俺は壁に光を当ててみる。
ある部分から色が異なっている。
周囲の土の色は茶色であるのにも関わらず、その部分だけ黒い。
「まだ埋め立てられたばかりなのか?」
そう言って、俺はその土を掬う。
「そうか。つまり俺がいる道は、もしかしたら埋め立てられた、そして俺が見失った道に繋がっているのか。」
俺は覚悟を決める。
「どうやら、まだ俺の任務は終わっていなかったようだ。」
005.
私の考えが甘かった。
遂に隣で悲鳴が聞こえなくなると、ドラフがこちらに向かってくるのがわかる。
「さあ。一番の新人のようだ。どこまで耐えられるかな?」
そう言って、私を舐め回すように見る。
「気持ち悪いから。やるならさっさとやりなさいよ。どうせ、私にも拷問をかけるんでしょう?」
「ふん。そうだな。」
ドラフは片手に私たちの懐に入っていたと思しき魔道具を取り出し、魔法を使おうとした。
今だ。
私は呪文を、ドラフに見えないように口の中で唱える。
瞬間、大きく火が迸り、ドラフに襲い掛かる。
私は心の中でガッツポーズをする。
作戦成功だ。
ドラフさえ抑え込んでしまえば、後はあの魔道具を取り返し、魔法を使うことが出来る。
そうすればここから逃げ出すことが出来るのだ。
しかし実際は、私の予想を遥かに超えるものだった。
「ウソ……でしょ。」
燃え盛る火の中からドラフが現れる。
「無駄ですな。」
私はその様子を見て驚く。
彼はその業火から平然と出てきたのだ。
「私は、死ぬことができない《・・・・・・・・・》のですよ。」
私は驚愕する。
「この状況で、この私に火傷を負わせたその頭脳は認めましょう。」
そう言って、ドラフはパチパチと拍手をする。
「しかしながら、あなたは惜しかった。私は、魔王に魂を縛られている、不死身の体を持っているということに気づく洞察力は、流石に無かったですね。残念。」
「ぎゃあああああああ」
私に雷が放たれた。
「私を侮りましたね。私は、自分自身でしか、もしくは魔王様でしか私を殺すことが出来ないのですよ。」
ドラフは左手をかざして呪文を唱える。
「そして、私には指示するだけでその人の精神を支配ことができる力を授かった。まあ、その力は一回だけしか使えませんがね。」
そう言って私の首筋に杖を押し付ける。
「さあ。何を命令しましょうか?」
私は自分の愚かさに嘆いた。
もしもあの時、炎の攻撃ではなく別の攻撃呪文を言っていたら、このような事態にはならなかったかもしれない。
ハイネン教官や同室の仲間から私はよく、「お前は時々、調子に乗ると現状を冷静に判断できなくなることがある」と言われていた。
あの時、その話を聞いておけば、素直に周りの子の言うことを効いておけば。
私は後悔と体に走る痛みに涙をこぼしていた。
真の絶望というのは、このような事なのか。
人間としての尊厳も奪われ、未来への望みも絶たれる。
このような状況下において、人間は、もとい私は自分の人生に諦めかけていた。
その時だった。
「おい、ドラフ。僕の仲間に何をしているんだ!人が精魂込めて作った魔道具を勝手に使って、しかもいい加減な使い方で扱いやがって。」
そこには、あのヘタレの同期、スピカが立っていた。




