第九話 任務開始【006】
006.
「おかしい」
俺は呟いた。
先ほど、潜入班を見失ってしまったのだ。そして何より、俺自身がどこにいるのかも、そしてどの方向に向かっているのかすらわからなくなってしまったのである。
俺が困惑していると、耳の魔道具から声が聞こえる。
俺は耳元の魔道具を耳にしっかりとはめ直し、その声に耳を傾けた。
『ルドルフ君。冷静に聞いてくれ。まず今ルドルフ君がいる位置は、僕たちの持っている地図と照合すると完全に土の中なんだよ。』
「おい、そりゃどういうことだ?」
俺は立ち止まり、そう聞き返す。
『ルドルフさん。多分僕が考えるに、この奴隷窟は形を常に変えているんです。』
「スピカ。それはあんまりだろ。だってそもそも、この奴隷窟はもともと、そこまで深くない場所にあったはずだろ?」
『ルドルフ君。多分恐らく、これはスピカ君の言う通りなんだ。多分、ドラフはもうすでに僕たちの存在を、即ちモブのことを知っている。』
俺は思わず、怒りで壁を殴った。
「そんな……でも、俺たちは情報が漏れないように、細心の注意を払っただろう?」
『ええ。だからこそ、なんです。この場合、ドラフが僕たちの情報を単独で入手することは非常に難しい。そう考えると、選択肢は一つに絞られるんです。』
俺の額を嫌な汗が流れる。
心の中で、俺は恐らく、わかっていたのだ。ただその事実を認めたくない、認めれば何か大変なことを知ってしまうような気がして、心の中でロックをかけてしまっているのだ。
『作戦変更だ。現状、作戦を立てるネビル君が居ないから、代わりに作戦の立案は僕がやる。
スピカ君、ルドルフ君が持っている魔道具でどうにかこの穴から脱出できる方法は無いかな?』
『ええ。いくつか。』
『よかった。ではまずルドルフ君の身の安全を確保する。そして、まずはその奴隷窟から脱出するのを最優先に考えよう。』
「おいおい。それはどういうことだ?俺は、いや閉じ込められているみんなはどうなるんだ?」
『今は最悪の場合を回避しなきゃならない。もしも君まで失ってしまったら、僕たちは大きな損失を被ることになるんだ。』
「それはいささか、冷酷すぎる判断では?そもそも、俺は、あいつらを護衛する役割を担っていたんです。」
俺は、秋月さんの言葉に苛立ちを覚える。
俺は護衛をする任務だったのにも関わらず、護衛対象を見捨てて、逃げかえれと言うのか。
秋月さんが、今までに見たことの無い秋月さんに豹変した。
『いいか、ルドルフ。君はその護衛任務に失敗した。それだけだ。今は最悪のシナリオを考えるべきだ。そうだろう?もしも現段階でお前も失ってしまえば、残されるのは老人と新人だけだ。そんな組織で仕事ができると思うか?』
俺は項垂れた。
確かにそうだ。それがどんなに「想定外」の事件であったとしても、それはそれに対策できなかった俺の責任だ。
『だから、少なくともお前は、僕が安全に誘導する。』
「はい。申し訳ありませんでした、秋月さん。」
『ごめんね。ただ、わかって欲しいんだ。これは任務なんだよ。それにまだ他の人は死んでいるとは限らない。救援を呼んで考えよう。』
俺は、指示を仰いだ。
『まず、右側のポケットに入っている銀色の筒のようなものを取り出してください。』
「わかった。」
『そうしたら、その筒についているピンのようなものを外して、前に放り投げてください。』
すると、その筒のようなものが変形し、手や足のようなものが展開された。
『それは僕たちの指定した場所まで、地面を掘ってくれる魔道具、いや「スピカ17号」です。』
「お、おう。スピカ17号か。」
『あ、まあ。そうです。そして、左のポケットから、真鍮製の金属球を取り出して、そのまま空中に浮かせてください。』
「は?」
『いえ。空中に浮かせるだけでいいんです。』
「魔法でか?俺は魔法が使えないぞ。」
『あ、大丈夫です。そう言う場合は、髪を一本抜いて、金属球についている穴に入れてください。』
「あ。ごめん。俺、髪が短すぎるんだ。」
『あ。そうだった……』
俺は絶句する。何故スピカはこうも時々間抜けなところを見せるのだろうか。
『ま、まあ。そんなに問題ないので、空中に浮くのはロマンみたいなものなので、手に持って、突起に触れてください。』
俺は指示通りに、その突起に触れた。
「おう。なんか光り始めたぞ。」
『大丈夫そうかな?そうしたら、そのスピカ号について行ってね。』
俺は意を決して、その「スピカ号」が凄まじい速さで掘削する穴の中に、その光る金属球を持って入るのであった。




